第4話:危うし!ホーリー
四月十八日金曜日。今日はおとといやったテストが返される。ホーリーは、テストの結果を楽しみにしていた。
一時間目。この時間の授業は、音楽。クラスメイトは音楽室へ行き、歌を歌ったり、リコーダーを吹いたり、ピアノを弾いたりする。だが、ホーリーはテストを返されるのが待ち遠しくて、楽しいはずの音楽の授業が、苦痛に感じた。
二時間目は、算数。三時間目は、体育。まだ、テストが返される時間は、やってこない。
ホーリーは、やっている勉強が頭に入らなかった。体育では、普段は何かを失敗することはないホーリーが、この日はかなりの失敗をした。ハードルは何度も倒すし、ボールは一メートルも投げられない。テストを返されるのが待ち遠しすぎて、ホーリーはどうかしてしまったようだ。
体育が大好きなシンベエは、体育でかなり失敗をしているホーリーが気になって、ホーリーになぜあんなことになったのか、きいてみた。
「おいホーリー、今日、お前、どうかしてるんじゃないのか。ハードル、得意なんだろ。」
「う、うーん・・・今日、テスト返されるでしょ。あれが、待ち遠しくて、待ち遠しくて・・・何か、ぼーっとしてしまったんだ。」
「けっ。テストなんざ、どうでもいいや。」
「そりゃあ、きみは点数なんてわかりきっているから、気にならないだろうけどね。」
「なんだとお。その言い方はないだろ、ホーリー。」
「きみこそ、『どうかしてるんじゃないか。』という言い方は、ひどいと思うけどなあ。」
「・・・。」
二人の会話は、そこで途切れた。
四時間目。テストを返す時間が、やってきた。
理科のテスト、社会のテスト、国語のテスト、算数のテスト、家庭科のテスト、さまざまなテストが返された。枚数は、一人あたり十枚にもなった。
だが、ホーリーのテストの点数は、あまりかんばしくなかったようだ。
国語のテストが、六十二点と七十八点。算数は、八十五点。理科は、五十点が二枚。社会のテストは、二十点、二十五点、十五点。家庭科のテストは、十点が二枚と、かなり悪い結果になった。特に、社会と家庭科がひどかった。
ホーリーは、かなり落ち込んでしまった。
放課後、ホーリーはのろのろとランドセルに教科書をつめ、せおってからとぼとぼと歩き出した。
シンベエとぶーちゃんが、それについていく。
「はぁ・・・。今回も、点数が悪かった。社会は、結構自信があったんだけどなあ。」
「ホーリーなんてまだマシだぜ。俺なんて、社会は全部0点だったもの。」
「シンベエちゃんの点数なんて、参考にならないよ。」
「おい、ぶーちゃん、お前意外と口悪いな。」
「だって、事実だもん。」
「うっ・・・弱いところをつきやがって・・・」
「もう、けんかはやめてよ。」
ホーリーがそういうと、一人で早足に、先へ行ってしまった。
「なんでえ、あいつ・・・。」
シンベエとぶーちゃんが見えないところまで行ったホーリーは、足を進めるのを普通のテンポにもどした。
そこで、突然横にあった車から手がでてきた。ホーリーは、その車にのせられ、発車してしまった。
「いいかてめえ。助けを求めたら、殺すぞ。」
運転しているらしき人物が、右手でハンドルを操りながら、左手で包丁をとり、ホーリーにつきつけた。
(大変だ。誘拐されてしまったんだ。)
「おっと忘れてた。場所がわからないようにしないとな。」
運転しているひとが、車をとめ、ホーリーに目隠しをする。ついでに、猿轡もされてしまった。
三十分ほど走っただろうか。車がとまった。
ホーリーは、抱きかかえられるようにして、誘拐犯に連れて行かれた。
なにやら建物に連れ込まれたようだ。エレベーターのような音がしたので、マンションだろうか。
「いいか、声を出したりしたら、絶対に殺すからな。静かにしてろ。」
誘拐犯はそういうと、ホーリーを縄でめちゃめちゃにしばり、蹴飛ばした。
「おいぼうず、てめえの名前と電話番号、住所を教えろ。」
誘拐犯は、ホーリーの口についている猿轡をはずした。
ホーリーが自らの名前と、自分の家の電話番号を言うと、誘拐犯はもう一度ホーリーに猿轡をつけ、目隠しをはずしたあと、どこかへ行ってしまった。
遠くの方で、小さな誘拐犯の声がした。
「お前の子供をあずかっている。助けてほしければ、身代金5000万円を明日までに用意しろ。もし、警察に通報したり、身代金を明日までに用意しなかったりすれば、お前の子供の命はない。いいか、5000万用意するんだぞ。5000万。明日の夕方七時に、お前の家にお邪魔する。」
(あいつは、ぼくを人質にして、ぼくの母さんと父さんに身代金を要求するつもりなんだ。もしかして、ぼくは殺されるかもしれない。)
ホーリーは、そう考えると、身震いがした。そして、いつのまにか、眠ってしまった。
おきると、あたりが真っ暗になっていた。どうやら、夜中らしい。
誘拐犯は、眠っているようだ。今のうちなら、逃げられるはず・・・
ホーリーはおきあがると、ピョンピョンと、なるべく音がしないようにとびはねて、玄関の方へと向かった。
「んごおー。」
どこかから、誘拐犯のいびきがきこえてくる。相当音が大きいいびきだ。ホーリーは、かなりびっくりしてしまった。
玄関の前まで来た。かぎがかかっているが、中からなので、はずせるようだ。
だが、手が後手に縛られていて、自由に動かせない。縄をほどけば、かぎをあけられるかもしれないが、これだと、あけられるはずがない。
突然、外でエレベーターの動く音がした。誰かが来たのだろうか。
ここは、誘拐犯が起きるのを覚悟で、助けをもとめるしかない。
ホーリーは、体ごとドアにぶつかり、「助けてー!」と叫んだ。
だが、反応がない。気づかなかったのだろうか。
「う、ううーん。」
誘拐犯が起きたようだ。ホーリーは、急いでさっきいた部屋にもどる。そして、寝転んで寝たふりをした。だが、寝たふりをしたつもりなのに、いつのまにか、眠りについてしまっていた。
しばらくして、起きてみると、体に巻きついていたはずの縄はなく、口についていたはずの猿轡もない。なぜか、自宅にいた。もしかして、誘拐は夢だったのか・・・?
しかし、目の前にいた母親がそばに近づいてきて、ホーリーを抱いた。
「一郎・・・おきたのね、一郎・・・助かってよかった・・・。」
「え・・・?ああそうか、ぼくは誘拐されてたんだっけ・・・・どうしてぼくは助かったの?」
ホーリーは一瞬戸惑ったが、このとき一番ききたかったことを母親にきいてみた。
「あなた、誘拐犯の家で外に助けをもとめたでしょ。あのとき、外にいた人がそれに気づいて、警察に電話してくれたの。とにかく、何もなくてよかったわ。」
「え・・・あ、そうなんだ。」
「それで、誘拐犯は警察に捕まったわ。一郎、私の大切な一郎・・・助かって、本当によかった。」
母親はそう言うと、ギュッとホーリーを抱きしめた。
ホーリーの顔が、少し赤らんだ。