表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/19

第18話:マラソン大会

「来週の月曜日、マラソン大会がある。これに備えて、よく走りこんでおくように。」

七月中旬、この暑いときにマラソン大会をやらなければいけないらしい。

しかも、学校でやるのではなく、陸上競技場でやるというのだ。

たかがマラソンごときに、そこまでする必要はあるのだろうか。


帰宅途中、シンベエ、ぶーちゃん、ホーリーのおなじみ三人組は、こんな話をしていた。

「マラソン大会かあ。おれ、マラソンは大の得意だぜ。絶対、一位とってやるぞ。」

「マラソンなんかやるより、ふつうの授業をしたほうがよっぽど時間を有効に活用できるよ。わざわざ、陸上競技場でやりたくないよ。」

「ううん、ぼく、走るの苦手だから、嫌だなあ。」

「なんだよお前ら。陸上競技場でやるなんて最高だし、走るの苦手でもマラソンは楽しいじゃん。」

どうやら、シンベエには他人の気持ちがわからないようだ。

「それなら、シンベエくんは、勉強をやることを楽しいと思っているのかい。」

「勉強と、マラソン、関係ないだろ。」

「でも、ぼくらにとっては、シンベエくんが『勉強楽しいだろ。』と言われているのと同じようなものなんだよ。」

「ぼくは、勉強も嫌い・・・。」

「やれやれ、勉強もスポーツも無理なぶーちゃんは、お先真っ暗だなあ。」

シンベエのことばで、ぶーちゃんの堪忍袋の尾が切れた。

「シンベエちゃん。ぼくは、勉強もスポーツも嫌いだけれど、頑張っているんだよ。頑張ることと好き嫌いは、関係ないんだよ。」

やさしいように見えるが、ぶーちゃんにとってはこれで本気で怒れているつもりなのだ。

「へん。あんなにへたくそなのに、頑張っているわけがないだろ。」

「ぼく、シンベエちゃんのことなんか、だいっきらい!」

ぶーちゃんはそう言うと、走って先に帰ってしまった。

またもや、シンベエはぶーちゃんに嫌われたようである。

「シンベエくん。いくらなんでも、言いすぎだよ。」

「へんっ。そんなの関係ないやい。」


この日、五年一組のクラスメイトのうち、マラソンの練習をしたのは一人しかいなかった。

その一人とは、もう既にわかっているかもしれないが、シンベエだ。

もっとも、シンベエは練習というより趣味で走っているようなものだが。


次の日の朝、ぶーちゃんは昨日のことが嘘のように、シンベエに話しかけた。

忘れっぽい性格なのだろう。

「シンベエちゃん、マラソンの練習、した?」

「したぜ。」

シンベエも、さほど気にしていないようだ。

「ぼくは、してないよ。ホーリーちゃんもだよ。」

「あ、そう。でも、練習の成果は当日にはっきりと出るよな。」

「練習しても、できない子だっているんだよ、シンベエちゃん。」

「ははーん、それで、お前は練習してなかったのか。」

「違うよ。恥ずかしかったから・・・。」

「へんっ、恥ずかしいだけで練習しないなんてもったいないぞ。今日、家に帰ったら、すぐさまおれの家に来てくれ。一緒に練習しようぜ。」

「ええ。ぼく、いやだよう。」

「いいからいいから。練習すれば、きっと順位はよくなるって。」

「う、うん。」


その日、シンベエの家にぶーちゃんが来ることはなかった。


翌日・・・

「おいぶーちゃん、お前、昨日来なかっただろう。」

「だって、用事があったもん・・・。」

「だってもさってもあるか。なんで来なかったんだよ。」

「だから、用事が・・・。」

「用事って、なんだよ。嘘ぬかしてんじゃないのか。」

「ち、違うよ・・・。ピアノ教室があって・・・。」

「なんだ、ぶーちゃんまだピアノ教室に通ってたのか。じゃあ、ピアノ教室が終わってから来ればよかったじゃないか。」

「ピアノを弾くのって、結構疲れるんだよ。そんなの、無理だよ。」

「はあ・・・お前は、『無理、無理』とばっかり言うんだから。何事もやってみなければわからないぜ。いわば、食わず嫌いのようなもんだ。」

「だって、ピアノが終わったあと本当に疲れていたんだもん。マラソンの練習なんて、できっこないよ。」

「しかたねーな・・・。今日は、来いよ。」

「ええ、もしかして、毎日やるの。」

「そうだぜ。」

「だけど、今日はピアノがあるから、できないよ。」

「なんでピアノが二日連続あるんだよ!嘘つくな!」

「ほんとだもん。ぼくの通っているピアノ教室、毎日あるんだもん。」

「へっ、ピアノには毎日通えて、マラソンは無理なのかよ。」

「だって、ピアノは楽しいけれど、マラソンはつまんないんだもん・・・。」

「ってことは、結局一日も練習できないっていうのか。困ったもんだな。」

「そんなことで、困らないでよ。ぼく、マラソンなんてどうでもいいよ!」

「本当に困ったもんだな。」

「もう、ぼく知らない!」

ぶーちゃんは、よほどのスポーツ嫌いなようだ。


この日の夜、もうとっくに日が落ちているころ、シンベエの家にぶーちゃんがやってきた。

「おお、ぶーちゃん。練習しにきたのか?」

「うん・・・・。」

「とうとう、お前もやる気が出たんだな。」

「ねえ、今治公園で走ろうよ。」

「あそこは、狭いから駄目だ。普通の道路で走ろうぜ。」

「ええ、でも、危ないよ。車が来るし・・・。」

「端っこを走れば問題ないさ。」

「うん。じゃあ、早く行こうよ。」

ぶーちゃんは、かなりのろまだ。シンベエが全力疾走で走れば、1秒で1メートルほど差がつくくらいだが、シンベエはぶーちゃんにあわせて走っている。


9キロくらい走ったところで、ぶーちゃんが口を開いた。

「ハアハア・・・もう、無理だよ。走れないよ・・・ハアハア・・・。」

「じゃあ、そろそろ終わりにすっか。」

二人は、ゆっくり歩きながら家へ帰った。


週明け、マラソン大会がおこなわれる日がきた。

五年生の生徒は、電車に乗り、陸上競技場へと向かう。

陸上競技場につくと、さっそくマラソンが始められた。

五年生の全生徒は149人であるから、人数はかなりのものになる。

スタートのとき、一番前の生徒と一番後ろの生徒では約3メートルほどの差があった。

これでは、公平にマラソンができない。だが、先生たちはあくまでも「スポーツに親しむ」ためにやっているようなので、関係ないこと・・・であるとされている。

ようい、スタート。モデルガンの音が高らかになると、五年生の全児童はいっせいに走り出す。

だが、あまりにも人数が多いためか、さっそく転ぶものもでてきた。

ぶーちゃんは、遅いが確実に、前へとつめていく。


マラソンが終わると、順位発表がなされた。

1位は、なんとシンベエであった。よほど、走るのが得意なようだ。

2位から5位までは他のクラスだったが、6位以下の上位はほとんど一組がかざっていた。

ぶーちゃんは、39位とかなりの好成績を残した。

ホーリーは、148位で後ろから2番目と、かなり悪かった。

1位になったシンベエには、表彰状が送られた。


三人は、帰宅途中、こんな会話をしていた。

「ぼく、かなりいい順位で、うれしかったよ。シンベエちゃん、1位だなんて、すごいねえ。」

ぶーちゃんが、シンベエの持っている表彰状をまじまじとながめる。

「ぼくは、順位なんてどうでもいいから適当に走ったよ。」

「へん。努力したものが、いい成績を残せるんだよ。わかってないなあ、ホーリーは。おれなんて、1位だぜ、1位。」

「だから、ぼくははなから順位なんてどうでもいいんだよ。」

「まっ、他人のことなんて、おれには関係ないけどな。」

「シンベエちゃん、もしかして、運動会でも1位をとれるんじゃないの。」

ぶーちゃんが、いきなり話題をかえた。

「はは、そうかもなあ。」

シンベエは高らかに笑った。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ