第17話:ピアノコンサート
「ええっ?お前が、ピアノを?」
「母さんが、もっと音楽に慣れ親しんだほうがいいって言うから・・・。」
「へえ、ぶーちゃんにしては、すごいな。」
「そうだねえ。音楽は、最高の娯楽だしねえ。」
「うん。そいで、来月の上旬に、さっそくピアノコンサートがあるんだ。たくさんのひとが集まった前で、ピアノを弾くんだよ。」
今は七月二十六日であるから、来月の上旬といえばもうすぐである。
「そりゃすごいな。自分の演奏を、見てもらえるのか。」
「うん。それも、ちゃんとしたコンサート会場でだよ。もちろん、自分一人だけじゃないけどね。だけど、練習が、難しいんだ。ピアノコンサートで、ぼくは、『クーラウ』っていう作曲家のひとの『ソナチネ1番』っていう曲の、『1楽章』っていう部分を弾くことになっていて、その曲を習っているんだけれど、るんだけれど、どうしても弾けない部分があって。」
「『ソナチネ』ってことは、結構レベルが高いじゃないか。ぶーちゃん、意外とやるんだねえ。」
ホーリーは、こんなことまで知っているようだ。まさに、雑学王である。もっとも、音楽に関しての知識は、雑学とはいえないが。
「まだ、日にちは決まっていないけれど、八月になったら、決まるらしいんだ。ぼくのピアノコンサート、ぜったい、来てね。」
「おう、わかったぜ。」
「行くよ。行く。ぶーちゃんの演奏が、どんなものか見てみたいしね。」
この日の夕方、ぶーちゃんはピアノ教室へ行き、約一時間ほど曲の練習をした。
同じ曲の同じところを何度も弾いたりするので、ぶーちゃん自身は弾き飽きていると同時に、聞き飽きている。
この日は熱が少しあったようで、ピアノを弾き終わった頃には体中汗でびしょびしょであった。
「あら反吉、あなた汗だくじゃないの。ピアノの練習頑張ったんだねえ。」
「うん。」
次の日も、その次の日も、ぶーちゃんは、ピアノの練習をした。
そして、ピアノコンサートの前の日には、風邪で寝込んでしまった。
「せっかく頑張って練習したのにねえ・・・明日、できる?」
「うん・・・頑張るよ・・・。」
「反吉。よく寝たら、熱なんてすぐに吹っ飛ぶよ。もう寝たら?」
姉さんのアドバイスで、ぶーちゃんは「うん。」とだけ言って寝室へととぼとぼ歩き出した。
「あら、反吉。ふらふらじゃないの。姉さんがささえてあげる。」
「ありがとう・・・。」
ピアノコンサート当日。ぶーちゃんの熱は、もののみごとに下がっていた。
コンサート会場につくと、ぶーちゃんは小学六年生の部でおおとりを飾ることになった。
「ええ。ぼく、最後なの。」
こう言いながら客席のほうを向くと、そこにはホーリーとシンベエの姿があった。
「あ、シンベエちゃん。ホーリーちゃん。もう、来てたんだねえ。」
ぶーちゃんは独り言のようにつぶやいていた。
「ナンバー13番、小学六年生の部最後を飾るのは、中田反吉くんです!」
ぶーちゃんが、顔を赤らめながらピアノに近づき、客席に向かって礼をする。
「おお!ぶーちゃんだ!」
「練習の成果を、発揮できるといいけどね。」
ぶーちゃんが、ピアノのいすに座り、曲を弾き始めた。
曲を弾き終えると、客席から拍手がおこる。
コンサートが終わった後・・・
「ねえ、ぼく、ちゃんと弾けてた。弾いているひと自身は、よくわかんないんだ。」
「弾けてたよ。ミスもほとんどなかったし。」
「ほんとー?うれしいなあ。ぼく、来年もピアノコンサートやる。」
「ううん、たくさんのひとから拍手されるのはなかなかのもんだなあ。おれも、ピアノやってみようかな。」
楽器に全く関心がなかったはずのシンベエが、めずらしくこんなことを言うもんだから、ホーリーとぶーちゃんはびっくりたまげた。