第13話:自然体験学習 その2
「さあ、バスに乗り遅れたひとがいないかどうか、調べる。いないひとは手をあげて。」
「せんせー、シンベエがいませーん。」
「シンベエ・・・?ああ、高橋のことか。で、その高橋が、いないだとっ。」
中井先生は、バスの窓に目をやった。
「ややっ。あれは高橋ではないか。」
外で、シンベエが手をふっている。
「おーい、お前らおれを置いて勝手に行くなよー。」
「すみません、バスをとめてください。」
バスがとめられ、シンベエはなんとかバスに乗ったものの、中井先生にこっぴどくしかられた。
鶸湖青少年センターにつくと、五年生の生徒たちは砂浜に座らされる。
砂浜という言葉でわかったかもしれないが、鶸湖青少年センターは鶸湖のすぐそばにあるのだ。
鶸湖青少年センターの建物は、えらくぼろくてきたなかった。
「うわー、ぼろっちい。地震とかおきたら、こわれちまうんじゃねえか。」
「こら、高橋。そんなこと、いうもんじゃない。」
「へーい、すいません。」
五年生のほとんどの児童は、鶸湖にむかって石を投げている。これが、水切りというものなのであろうか。中には、ギネス記録なみに石をはねさせていた子もいた。
部屋は、ホーリーが言っていたとおり二段ベッドがあった。しかも、二対ある。
ホーリー、ぶーちゃん、シンベエは同じ部屋だ。シンベエは上の段、ホーリーとぶーちゃんは下の段で寝ることにした。
夜になると、決められた時間に夕食をとらされ、決められた時間に風呂に入れられる。
しかも、風呂では教師たちに「ぬれてないかチェック」と言い訳されて裸をみられてしまうのだ。
寝るとき、それぞれの部屋ではお喋りの花がさく。
とくに、女子はよく喋っているようだ。
男子は、しばらく話した後眠ってしまう。だが、女子は夜中になってもずっと喋り続けている。が、教師にしかられることはなかった。
午前1時くらいになると、やっと全員が眠りにつく。それまで、教師は寝ることができなかった。
次の日、五年生の生徒たちは早朝に起こされた。「朝の集い」という名前のめんどうくさいイベントが終わったら、朝食である。
鶸湖青少年センターの食事は、お世辞にもうまいといえないほどまずかった。さらに、全て冷たいのである。コンソメスープも、ソーセージも。
だが、全て食べなくてはならなかった。食事が大好きなぶーちゃんでも、これは少々きつかったようだ。
「ううん、ぼく、こんなに冷たい食べ物、たべたくないよ。」
「仕方ないさ。学校に少ししかお金を払っていないんだから、これくらいのサービスしかできないんだよ。」
「へっ。冷たくて白いものが浮いているコンソメスープなんか飲めたもんじゃない。」
「ぼく、学校の給食が食べたいな。」
「ここは学校じゃないから、無理だよ。」
「これだったら、刑務所の飯のほうが、うまいんじゃないか。」
「この前パソコンで調べたんだけれど、刑務所のご飯は結構おいしいらしいよ。」
「へえ、じゃあ、ぼく刑務所のご飯たべてみたいなあ。」
「逮捕されないと、食えないだろう。」
「試食みたいなことは、できるらしいけどね。」
昼からは、カヌーをこいで鶸湖にういている島まで行くというイベントが行われた。
雨がふってきたのが、中止されなかった。コンディションは最悪だ。
カヌーをこいでいる連中からは、もちろん愚痴がでる。
「ああ、もう。ぬれて最悪だ。」
「ええ、あの島まで行くの。絶対無理だよ。」
四時間もかかり、やっとのことで島についた。日は、既におちはじめている。
島で釣りをして、釣った魚を食べてから、今度はふつうの船で鶸湖青少年センターにもどった。
夕方からは、昨日とほぼ同じスケジュールだった。決められた時間に夕食をたべ、決められた時間に風呂に入るのだ。
今日のお喋りの花は、だいぶ長いことさいていた。夜3時まで、教師たちは眠れなかった。