第12話:自然体験学習 その1
今治小学校では、七月十三日から七月十五日まで、「自然体験学習」とよばれる五年生とのお泊まりイベントがある。
実は、六年生にも自然体験学習というものはあるのだが、日にちが違う。六年生は、六月あたりに行くのだ。
自然体験学習の目的は、その名のとおり「自然と触れ合おう」というものだ。
自然が嫌い!というひとや、海や山?ふざけんな!というひとにとっては、ありがためいわくなイベントである。
六月十日、このイベントについてのしおりが配られた。
ここで、内容を読み上げてみる。
「1、行き先 鶸湖 2、もってくるもの(数が多いので割愛する) 3、日時 七月十三日〜七月十五日 4、服装 ふだんの服 はきなれた靴」
鶸湖とは、電車だと八王山市から一時間半くらいかかる場所にある、日本で一番大きい湖だ。遠足のときよりも、場所は近い。だが、今回はバスにのるので実質二時間半ほどかかるのだ。
当日、五年生の全児童は朝六時ごろに、大きな荷物を二つかかえて今治小学校の体育館へとやってきた。
出発まで一時間ほどの余裕があるので、お喋りの花がさく。
「なあ、鶸湖についたら、まず何するんだ。」
「えっと、まずは鶸湖博物館を見学だね。お昼まで見学したら、宿へ向かうらしい。」
「ううん、宿のごはん、おいしいかなあ。」
「宿と言っても、普通の宿じゃなく団体がくる専用の施設なんだよ。『鶸湖青少年センター』っていう。」
「なんか嫌な名前だな。泊まりごこちはいいのか?」
「さあね。二段ベッドが、あるらしいけど。」
「わあ、二段ベッドがあるんだあ。ぼく、二段ベッドって見たことないから、楽しみだなあ。」
一時間ほどお喋りして、喉がカラカラになったところで、出発のことばが言われる。
「ええ、うんと、こ、こ、この、このたびは、五年生児童全員、自然体験学習へ行ってまいり・・・フフッ、いってまいります。全員、けががないように・・・フフッ・・・けがが・・・けがが、けががないように、努力してまいります。」
これは先生ではなく、生徒が言うので、めちゃくちゃだ。なぜか、笑っている。
このことばが終わったら、生徒たちは大きなリュックを背中に、小さなリュックをお腹に背負って歩きだす。
校長先生が、見送りをしている。とはいっても、校長先生もついてくるのだが。
「いってきまーす。」
「いってらっしゃーい。」
大きなリュックをバスの荷台に積み込む。小さなリュックは、バスの中に持ち込むのだ。
バスガイド係の生徒が、バスの前に立って、ゲームなどをする。
「それでは、王様じゃんけんをしましょう。さいしょはぐー・・・。」
だが、とても五年がやるとは思えないような内容なので、ゲームに参加している生徒はごくわずかだ。
一時間半ほどバスにのると、途中で降りるように言われた。
「これから、博物館の見学に行きます。」
鶸湖博物館のすぐそばに、大きな大きな鶸湖がある。
鶸湖博物館は、結構充実していた。
「うわー、恐竜の標本だ。ぼく、初めてみたよ。」
「ふむふむ、この化石はこうだったのか。」
ホーリーとぶーちゃんは、展示物に夢中だ。
だが、シンベエはこれといって展示物も見ず、図書室でまんがを読んでいた。
図書室にたまたま立ち寄ったホーリーが言った。
「シンベエくん、せっかく博物館にきたんだから、まんがばっかり読んでないで、展示物を見たらいいのに。」
「お、おう。」
シンベエは返事だけはりっぱにするものの、一向に動くようすはない。
「もう、ぼくは知らないよ。」
「勝手に言っとけ。」
シンベエは、まんがを読み終わると博物館の裏口から森の道を歩いた。
「虫が多いなー。だけれど、この先には絶対何かあるはず。」
森の道を抜けると、そこには鶸湖の絶景があった。
「うおー、すごいなあ。これ、みんなに知らせてこよう。」
シンベエは博物館の中にいるクラスメイトたちに、このことを伝えてまわった。
「おお、すげえ。」
「よく見つけたな、シンベエ。」
しばらくすると、昼食の時間になった。博物館から出て、近くにあった屋根つきの広場で、もってきたお弁当を食べた。
「お母さん、今日はとんかつを入れてくれた。ううん、おいしいなあ。」
昼食を食べ終えると、五年生の生徒たちはバスにのりこみ、鶸湖青少年センターへと向かった。
続きは順次投稿していきます。