第1話:愉快な三人組
二○○七年四月のある朝。ここは、西京県八王山市にある今治小学校。この少年は、今日も朝早くに登校し、校門の前でつったっている。
「ったくー、校門も早くあけろよな。朝は寒いんだよ。」
こう叫んだ少年の名は、高橋信二。やんちゃで、勉強嫌いで、チビである。
信二という名前から、他の生徒からは「シンベエ」と呼ばれている。
しばらくすると、校門があいた。
「やっとかー。もう、管理職員のやつ、ケチなんだから。おれが来たときから、あけてくれたらいいのに。」
シンベエは、靴箱で上ぐつに履き替えた。
もう既に、何人かの生徒が来ている。
シンベエは、むっつりとしながら、五年生の教室がある四階へと向かった。
その頃・・・・
今治小学校から約五○○メートルほど離れた場所にあるマンション「八王山ハイツ」。
ここの五○三号室に、寝坊している少年がいた。
「反吉〜おきなさい〜」
「ううーん、もうちょっと〜」
「もう八時よ。」
「わかった〜」
このぶくぶくと太っている少年の名は、中田反吉。その外見から、「ぶーちゃん」と言われている。
「反吉。ごはんできてるわよ。早くたべなさい。」
ぶーちゃんは、もの凄いスピードで食パンにイチゴジャムをつけ、ほおばりはじめた。
「いってきま〜す」
食パンを三枚、野菜スープを二杯、牛乳を三杯、トマトとほうれんそうのココットを三杯食べたぶーちゃんは、あわただしく着替えて出かけた。
その時、同じマンションのエレベーターの中に、やけにひょろりとしためがねをかけている少年がいた。
少年の名前は、堀田一郎という。
友達からは、「ホーリー」なるニックネームで呼ばれている。
この少年は、かなりのガリ勉で、食事中に問題集をやっているほどだが、学力のほうは、そうよくもない。クラスで中の下くらいだろう。
この三人は、同じ五年一組である。三人は大の仲良しで、何をするにも一緒にいることから、クラスメイトからは「愉快な三人組」と呼ばれている。
だが、たまにいやみで「不愉快な三人組」などと呼ぶ者もいる。
五年一組の担任は、中井哲郎という、ベテランのおじいちゃん先生である。宿題をかなり多くだすので、生徒からは不評だ。
朝の遊び時間終了のチャイムがなった。チャイムがなった三分くらい後に、クラスメイトたちは教室へと戻ってくる。
遊び時間終了のチャイムがなる五分後から十分間、「読書タイム」というものがある。これは、生徒達に読書に親しんでほしいからという理由で一時間目を削ってできたものだが、かんじんの生徒達は読書などせず、自由帳に絵を描いたり、教室から出てどこかへ行ってしまったり、べらべらとお喋りをしていたりする。
約十分たち、一時間目の開始を知らせるチャイムがなった。生徒達は急いで自分の席に座り、先生が入ってくるのを待つ。中井先生はどこかおっとりしていて、チャイムがなってから一分ほどたって、ようやく教室にやってくる。
中井先生が教室へ入った五分後、廊下からドスドスという音が聞こえてきた。
「あの〜・・・あの、その、・・・遅れてすみません。」
「はぁ・・・席につけ。」
ぶーちゃんが、かなり遅刻してやってきた。ぶーちゃんは、遅刻の常習犯なので、中井先生からは諦められている。そのため、ぶーちゃんは説教されずに、席につくことができた。
中井先生は、黒板に「教科書二十六ページをやれ」だの、「プリントをやれ」だの書いた。中井先生は、一つの単元を教える事はほとんどしない。
ぶーちゃんとホーリーは、まじめに先生が書いたことをやっているが、シンベエはやっていない。それどころか、授業中なのに隣の子とお喋りを始めた。隣の子は断るということができない性格の子で、かまわず喋りはじめた。このような手抜き授業では、このようなことがおきるのも仕方ないだろう。
二時間目は、体育。シンベエはスポーツが大好きなので、とても喜んでいるが、ぶーちゃんはスポーツが大の苦手。「いやだ」を連呼する。
ホーリーはスポーツが苦手というわけではないが、あまり好きなほうではない。だが、体育が嫌いなことは決して口にはしない。中学校に入ったときの練習のためだ。
最も、内申書などというものを知っている小学五年生など、この少年くらいだろう。
午後四時ごろ、四年生以上の子供達が次々に校門から吐き出されていく。シンベエ、ぶーちゃん、ホーリーは、三人で一緒に帰ることにしている。
「おい、ぶーちゃん、お前体育でヘマしすぎだろ。ボールを二メートルもなげられない奴なんて、お前以外見たことがない。」
「やめろよシンベエくん。スポーツは、どれだけ練習してもうまくなれないひとだっているんだ。きみだって、勉強は苦手だろ?」
「あ、う、ま、まあ、そうだけど・・・あれはひどいと思ったからさ。もう少しまともにできないのかなって。」
「きみは勉強をまともにできるかい?」
「ホーリーちゃんやめて。ぼくたち大のなかよしでしょ。そんなくだらないことで、くちげんかするのは、やめようよ。」
「ま、そうだね。シンベエくん、もう、それいじょうぶーちゃんをせめないでくれよ。」
「わ、わかったよ・・・」
それにしてもこの三人、仲がいいのか悪いのかわからない。
シンベエはぶーちゃんたちのマンションとは全然違う場所にあるので、ぶーちゃんたちは途中でシンベエとお別れになる。
「ばいばい。」
「また明日ー。」
「おう。」
こんなぐあいのあいさつで、ぶーちゃんたちとシンベエは別れた。
ぶーちゃんとホーリーは同じマンションだが、階は違う。ぶーちゃんは五階で、ホーリーは七階だ。
エレベーターに乗り込んだ二人は五階と七階のボタンを押し、じっと待つ。
「ばいばい。」
「ばいばい。」
ホーリー一人を残して、エレベーターのとびらが閉まった。
しかし、エレベーターはなぜか途中でとまった。それも、階と階の間でだ。
ドアが開かなくなって、ホーリーはあせる。
「おーい!ぶーちゃん!気づいてー!」
だが、ぶーちゃんは気づいてくれない。
ホーリーは、へなへなとエレベーターの中で座り込んだ。
そして、いつのまにか眠っていた。
「・・・・い・・・おー・・・おーい。」
「おーい!大丈夫か?」
「ん・・・んー?」
ホーリーはこの声をきいておきた。
「もう脱出できるからな。安心しろ。」
「ん・・・あ・・・そっか・・・ぼくエレベーターに閉じ込められたんだっけ・・・」
さきほどまで階と階の間でとまっていたはずのエレベーターは、5階にとまっていて、ドアが開きっぱなしになっていた。
「一郎・・・よかった。」
「母さん・・・」
気がつくと、目の前のおじさんだけでなく、ホーリーの母親や、ぶーちゃんまで集まってきていた。
「母さん・・・今、何時・・・?」
「五時よ。」
五時・・・ぼくは、一時間近くも閉じ込められていたのか。もしかしたら、窒息していたかも・・・いや、換気扇があるから大丈夫か。などとごちゃごちゃ考えながら、ホーリーは立ち上がった。
「階段で行きましょ。」
ホーリーは、母親に手をつながれながら、階段を少しずつのぼった。
ホーリーは自分の家に入り、リビングまで走ると、気持ちよさそうな革のソファーにどかっと座った。