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破壊の聖女の祝福を  作者: konakusa
プロローグ
2/3

道中

「パール城ですか?」


 統一歴1000年、世界中で勇者を探す中ライル王国にて一人の勇者の誕生が世界に駆け巡り国中は歓喜に包まれていた。魔騎と呼ばれる人類の脅威から我々を守ってくれる勇者が現れたのだと。

 物語の始まりはそんな国で注目を集めている勇者、名をカイトの出発から始まる。


「確か災厄の日の時に失われた街にある古城ですよね? 歴史の授業で習いました」

「そうだ、そこに結晶体があるのではないかと勇者ダンより伝令があった。カイト、我が国初の勇者としてこのパール城を調査し結晶体の有無の確認を行ってくれ」


 ライル王国の将軍レオナルド、勇者部隊の参謀でもある彼は王都中央会館特務室にて壁に掛けられているこの国の地図を見つめる。

 三大陸からなる世界、名をトライル。

 勇者カイトがいるライル王国はそんな世界の中で比較的魔騎による被害が低い位置の大陸バビロンの南東にある第三位王国。その首都にいた。

 パール城はライル王国の防衛ラインから数百キロにある魔騎の手によって滅んだ国にあった有名な観光地だった。


「質問よろしいですか? 国から馬とか借りられますよね? 自分はこれまで一度も魔騎を見たことがないのですが、魔騎は人間以外の生物は襲わない、という認識でよかったですよね?」


 人間の移動手段はこの時点で馬による移動手段と人力移動が一般的である。

 つまり長距離に置いて、その移動手段を失くしてしまう事は致命的になりえる。

 魔騎がそこらかしこにいる中で歩いて移動というのは、勇者といえど無理がある。


「魔騎は人間以外の生命体は襲わない。道はもう整備されていないだろうが昔開通していた道路があるから馬を使って一週間程度だろう」

「わかりました。では準備は出来てますので失礼します」

「カイト、旅は慌てず急がずだ。お前が勇者の使命に前向きなのは俺としてもうれしい限りだ。しかし本当にたった一人で行く気なのか?」


 レオナルドの言葉にカイトはハッキリと口にする。


「はい、魔騎を倒せるのは勇者の聖魔術のみ。ならば他の者は俺にとって足かせでしかないでしょう」


 カイトの言葉からは誰も連れて行かないという拒絶の意思が含まれていた。

 これまでも何度も説得を試みたがやはり気持ちに変化はないのだろう。


「・・・分かった。旅の同行者はつけないことには同意しよう。食料などの備蓄は出来ているな?」

「ええ、お陰様で。魔道具に1年分ほどの食料は入れてあります。本当に将軍はやることなすことしっかりとされていますね」

「それが仕事だ。勇者の旅は何も魔騎だけが敵ではない。道中にいる野生の動物、植物、気候、そしてお前の体自身。すべてが敵に回る事がある、心して行くがいい」


 この頑固者はいかに説得しようがどうしようもない。ならばいかに生き残れるのかを伝えるしかないのだろう。

 カイトはレオナルドの言葉を聞き、啓礼をすると部屋を後にするのだった。

 その淡泊な姿勢に少しさびしい気持ちになる。


『俺が勇者?そんな理不尽な事があるのですね』


 理不尽と口にしたカイトはそういいながらも、逃げることもなく勇者としての使命を受け入た。

 当時は落ち着いた雰囲気を出す彼に、大人びた奴だなと思った者だが今にして思えばそれが彼なりの強がりだったのだと思う。

 弱音を基本言わないカイトは、周りが気が付くまで頑張りすぎる癖がある。

 それは彼の10年間で培った人生観の為なのだろうか、それとも子供特融の意地の張り合いの延長のものなのだろうか。


「口惜しいな、結局俺はカイトの教師だったが彼の心までは救えなかった」


 救いだったのは、そんなカイトが人を救うという勇者としての使命には一生懸命だった事だろう。

 ただ、一人の大人として道に迷っている子供に手を差し伸べられなかった。

 出来る事ならばこの勇者としての旅で、彼の抱える問題に進展があることを祈らずにはいられない。

 いつものようにお辞儀をして出ていく、他人行儀なカイトに今はただ旅の無事を祈るのだった。

 たった一人で未知の世界に出るなど自殺行為、普通なら止める。それでもカイトの意思を尊重したのは、カイトを鍛えた6年間で彼の卓越した戦闘センスを知っているからだった。それだけカイトという青年は聖魔術が使えるだけの勇者ではない。


 この世界には魔騎と呼ばれる生命体が人類を刈る為にたくさんいる。

 現れたのは100年前、それから人類は魔騎によって生活圏を追われていった。

 そんな魔騎の侵攻から人類を守ってきたのは結界と呼ばれるものである。

 魔を阻む結界はかつて魔獣と呼ばれた存在を阻む結界であったが今は魔騎を阻む結界として機能している。それも近年では結界の効果が弱まりつつある状態だった。

 だからこそ俺の存在はライル王国の貴族たちにとって、そして民たちにとって希望の光となったのだろう。

 目指すはパール城、初めて踏み出すかつての人類圏、そしてまだ見ぬ未踏の地。

 危険は重々承知だけれども、この選択をした自分にウソ偽りなく真っすぐに使命を果たすのだ。

 決意を胸にカイトは王都を後にしたのだった。



 時を同じくして、勇者ダンが破壊した結晶体から発せられた魔力爆発がおこった場所から数十キロの地点。

 地平の草原が広がる場所、そこに一人の女性が横たわっていた。

 彼女の周囲の草原にはクレーターの模様になってまるで地面から叩きつけられたように見える。

 周囲には生命体の気配はなかったのが幸運だったのか、女性はそこにかれこれ5時間は眠っていた。


『・・・さ、い』


 静寂の中、どこからか機械的な少女の声が女性の周囲から突然聞こえだす。

 まずこの近くに生命体が居ればおびえ、この場から逃げ去るような声。

 魔力によって紡がれるそれは人間の声ではなかった。


『周囲に生命体の気配なし。酸素濃度一致。魔力濃度増大。空間固定成立。

 主の目覚めまで、あと・・・』


 少女の声に呼応するように横たわっていた女性の表情に変化が出始める。

 そして表情に変化が出始めてから数秒後、小さく女性は目を開けた。

 目を開けるも数分間あたりを見渡している女性は徐に体を起こそうとするが、うまく起き上がれない事に気が付いた。

 まるで数か月、数年間寝たきり生活であったかのように体が起き上がる事を忘れてしまったかのように体が重い。

 小さな苛立ちを抱き小さく声を出す。


「一体何なのよ」


 まさに今の女性の状況は本人にしても意味不明な状況であった。


『久しぶりの活動で体がうまく機能していないのですマスター』

「久しぶり? ごめんなさいアリス。 今私混乱してて何が何だか」


 目が覚めると、うっすらとする視界の中きれいな点々があることに気が付いて、それが夜空だと認識をし始めた時全身がうまく動かないことに気が付く。

 ここが地獄という奴なのだろうか、それにしては夜空が綺麗だと黄昏るが体に走った痛みによって現実は私を幻想から引きずり出す。

 何とか声が出るようになった。精一杯の声でとりあえず今の心境を叫んだが掠れたような声が耳に聞こえてきた。

 ただ誤算だったのは、私の声に聖霊術式「アリス」が起動していたのを確認できた。


「アリス、私の身体状況の確認をお願い」

『確認します。魔力の獲得に失敗したため大気中のマナより採取。確認・・・・術式起動します』


 起動した術は足先から渦を巻くように私を包み込み拡散する。魔力干渉による身体検査を行っている。とまぁこんな芸当ができるのはアリスがいるからだ。


『結果が出ました。身体疲労及び魔力拡散による魔力欠乏症が見られます。』

「魔力欠乏症? そう、なら体は時間がたてば何とかなるわね。 魔力の蓄積はどれくらいになりそう?」

『測定中・・・・・・・・・・完全回復まで最低1年はかかる見込みです』

「・・・・・・はぁ?」


 魔力欠乏症とは体内にある魔力がほぼ無くなる事をいい、私の体内魔力量は最低でも1日程度魔力を使わなければ回復するのにそれが1年?


『体内に魔力を補完を阻害する物があります。経過を考えるにそれくらいの時間がかかると推定されます』

「魔力補完の阻害? 何それ」


 だが合点はいった、体を動かそうとした時と同時に感じた違和感の正体がこれだ。

 体内に感じていた魔力がまったく感じられないのだ。

 しかし、なぜこのような状況になっているのだろうか?記憶があいまいになり過ぎていて目覚める前に事が何一つとして思い出すことができない。


「アリス、私が目覚める前の記憶が思い出せないのだけど何か思い出せる?」

『申し訳ありません、私も同様でして目覚めてから前の記憶がありません』

「記憶がない?神の聖遺物の貴方が?それはまぁ」


 そもそも聖霊のアリスが保有している記憶が消えるなどあり得ない話だ。

 干渉する事も出来ない聖霊術式だからこその聖遺物なのだから。


「一先ずは、周囲100kmの地形と生命反応を探して」

『実行に必要な魔力量確保完了、これより周囲の捜索を開始します。魔力拡散を周囲に散布開始します』


 魔力拡散による探索は地形情報と生命反応を正確に把握できる便利魔術。

 この術式は私は使えない為アリスさまさまなのだ。

 しかし、目覚める前の記憶はないのに知識などは残っているようだ。

 でも前の記憶が無いというのに特に不安にならないのは何故なんだろうか?

 いろいろ考えるけれど、どうやら記憶はないけれど私という人間はずいぶん図太い性格の人間なんだろう。


『波動検知、周囲一帯は100km平原に囲まれています。生命体検知できず』

「それはまた」

『ただ東に50km地点に一つの街程度の建築物らしき物があります』

「けれど生命体の気配はないのよね、考えられるのは廃墟か・・・街規模の廃墟って何?アルガルテが浮上でもしたのかしら?」

『分かりかねます、現在人類がいるのかも、そもそも生命体がいるのかも』

「なんて所で目が覚めたのかしらね、生命体も確認できないなんて』


 人間が見つからないのはそういう地域もあるのだろうと思ったが、動物もいないだなんて。

 あたりを首を動かして確認するが確かに動物も空には鳥も飛んではいないようだ。


「所謂世紀末的な? 冗談でしょう」

『冗談のようですが現状あり得ない話ではないでしょう。現状確認の為確認できた建造物に向かうのが得策だと思われます』


 淡々と今ある現実と今やるべき事を話すアリスに、まるで他人事のようねと思いながら、そういえばこいつは聖霊だったわと思い直す。

 目下の目標としては、人もしくは生物の生存確認と発見、さらによければ思い出せない記憶を何とかしたい。そしてとりあえず急務としてほしいのは食料だ。

 今の所お腹はすいていないが、50kmも歩いたころにはカロリーを取りたくて体が悲鳴を挙げているだろう。


「何か食べられる木の実とかないかしら」

『周囲100kmに木々など確認が出来ないためないかと、また魚や動物の反応も探知できなかったため食料となるような存在の確認もできません』


 まさに絶望的な状況である。


『最悪の場合、生命維持の為魔力を体内エネルギーに変換する事も可能です』

「それって体内の魔力回路を無理やりエネルギーに変換する方法よね、確か二度と食事が食べられなくなるんじゃなかったかしら」

『その通りです』

「却下よ、そんなの困るわ・・・・・・その場所に行ってみて何もなかったら考えましょう」


 どちらにせよ行先は決まった。

 ただ、体が動かない以上疲労回復を待つしかないのが現状ではあった。

 がしかし、今のこの状況下で悠長にまっている、そんな事ができるほど今の私には余裕がない。

 本当の所、体の回復を待つべきなのだろうが、ここは一つ体を鞭打つ事にした。


「アリス、大気中の魔力を使って術式構成、身体強化を私に使って」

『・・・魔力の採取完了、術式構築完了、実行します。』


 魔力の塊が全身を覆うのを実感した。

 とても懐かしい感覚、魔力が充填されていくのが分かった、身体強化は体内にある魔力的器官を増幅することによって一時的に筋力の強化を図る魔術だ。


 タッタッタと地面を駆ける、先ほどまで何も動けなかったのが嘘のような感覚だ、とは言えこれは気休め、魔術が切れれば体の身体疲労でまた動けなくなるだろう。

 というか体が動けなくなるだけの疲労ってなんだろうか、目覚める前の私はいったい何をしていたんだろうか。

 知識や経験はあるのに記憶だけが無いとは、なんとも気持ち悪いものだ。


「わからないことだらけだけれど、行くわよアリス!!」

『はいマスター』


 なんだかこういう時の人間ってわくわくしながら次の目的地に行くのが定番?なのだろうけれど、今現在の私は困惑と不安ととりあえずアリスが居てよかったなという感想しか浮かばないのであった。



 パール城を目指し魔騎を生み出す原因である結晶体の破壊という目的の為にライル王国から旅だって一か月が過ぎようとしていた。当初の目的であれば既に城についていなければいけないのだが、レオナルドの言っていた事はまさに正しかった。

 馬で旧街道をひた走る事3日目、唯一あった川を渡る橋が老朽化の為か崩れる寸前になっていたのを発見し馬での移動は不可能だと判断。いったん最終防衛ラインにある街に戻り徒歩での移動に移った。

 まぁ地図も100年も前のものだし、偵察などは出来ない為こうなることは予想されていたけれど3日間一緒にいた馬に愛着がわき始めていた所だったため置いていくは悲しかったが、近辺の警備を担当している貴族が快く愛馬の面倒を引き受けてくれた為、少し安心した。


「徒歩で歩いてざっと1か月、驚く事に魔騎に一切遭遇していない。一体どうなっているんだ?」

「魔騎って何? 魔獣の新しい種族の事かしら?」

「魔獣というのは知らないが、魔騎の事まで忘れているんですね」

「そ、そうなのよね。おほほほほ」


 わざとらしく手を口に当てて引き笑いをする女性、彼女は俺の旅の同行者、のような人だ。

 3日前、パール城の近くにメディスと呼ばれる今は廃墟と化した街に着いたとき彼女が大通りの真ん中で行き倒れていたのを発見した。

 彼女は名を「アナ」といい記憶喪失なのだという。そも魔騎の勢力範囲内に人間がいる事が驚きで、何故ここにという驚きはあったが記憶が無いのではどうしようもない。

 考えられる可能性として都市間転移中に事故で外にはじき出されたというのが有力だが、まれに凶悪犯罪者が死刑同様の刑として国から追い出されるなんて事はあるが、彼女を3日間見ていてそんな人間には思えなかった。

 そも、記憶を失っているのだ、そんな人を放って旅は出来ない。


「魔騎とはこの世界で人間を殺して回っている生物の事で、俺は魔騎を討伐する勇者として今旅をしているんです」

「それは大変な任務ですね。魔騎か・・・。そういえばカイトさんの仲間はいらっしゃらないですよね。どうされたのですか?」

「旅の同行者はいません俺一人です」

「ひ、ひとりでそんな重要な旅を!?なんでそんな無謀な」


 女性の彼女からしても俺の旅は無謀な物なのだろう、悲壮な表情で見つめられると何とも言えない気持ちになってしまう。

 アナさんから微妙な雰囲気が流れて、俺が望んだ事だと言い出せないので、そんな雰囲気を吹き飛ばそうと話題を切り替える。


「それより今後の方針について、とりあえずこのままアナさんを俺の旅に同行させるわけにいかないので、ライル王国に戻ろうかと思います」


 とりあえず彼女には安全な場所に行ってもらわないと俺も仕事が出来ないし、彼女を守りながら旅をするのは困難だ。

 ただでさえ実践経験がない俺が他者まで気が配れるか、そんなことは無理に決まっているのだ。


「確かに君の意見は理解できるけれど、そうね。私の直感が貴方について行けば記憶が戻ると告げているの、出来ればこのまま旅に同行をしたい」


 そんな俺の心配をよそに想定外の返しをしてくる彼女に今まさに困惑した俺、彼女には勇者として旅に出ているとしか伝えていないのに、何故そうなるんだ?


「私の直感は結構当たるんです。まさに君と出会ったのも私の直感の賜物見たいな物なんです」


 彼女曰く、実をいうと、彼女がこの街に辿りついたのは俺と出会う5日も前、人がいないし食べ物はないしで打ちひしがれている中、彼女の言う直感が、にここにいた方がいいのではないかと告げたらしい。そして飲まず食わずの餓死寸前の中で直感通り俺に会ったそうだ。な?私の感ってすごいだろと少しふざけた感じにしゃべる彼女


「ああ、うん。突っ込みどころは多いけど・・・」


 改めて彼女はなんなのだろうという疑問が思考を支配する、普通直感なんて物を信じて来るかも分からない人間を待つか?

 それに、性別関係なくこんな危険地帯にいるのに関わらず動じることもなく、俺に付いていくなんて言われるとは思いもよらなかった。


「けれどやはりアナさんを同行させるわけには行かない。魔騎はそもそも聖魔術を使える俺にしか倒すことは出来ない。俺には同行者を連れての実戦経験はないから君を守り切れる自信がない、無理だ」

「倒せない?概念的性質の生物って事?それは厄介な敵ね。なら確かに私は足手まといになるのかもしれないわね」


 何か考えるそぶりをする彼女、納得してくれたならそれでいい。

 ただ、俺の中で3日間彼女と過ごし人と関われるのがこれほど救われるのかと人恋しさを覚えてしまったのは内緒だ。


「言いたいことは分かったわ。ただ私も記憶がないこの状況は困る、だけれど貴方は私が足手まといだという。つまり私貴方の足手まといではないと証明すればいいのね」

「何故そうなる」


 カイトの困惑を他所にアナは、うんうんと納得したように頷いた。


「それにカイトさん、旅っていうのはね1人より2人、3人と人が多い方が危険を回避しやすいのよ」

「それは、そうだが・・・」


 アナの言葉に痛い所を突かれたのはカイトだった、そもそもレオナルドから旅の同行者を断って旅に出たはいいけれど、道中に1人では困った場面がこの一か月の間に何度もあった。

 中でも多かったのは夜間、訓練しているとは言え周りを警戒しながら眠るというのは負担が大きかった。


「・・・君の言いたいことは分かった。なら君が旅に同行可能か確認させてくれ」

「うんうん、決断が速いのは助かるよ。私としてもこうしてチャンスを逃すというのは困るからね」


 出会って3日、出会った当初は警戒こそあれこんな場所で出会った事に奇跡的な事、そしてまぁ18歳という事もあってか異性のアナに男として何かとドギマギとしていて、また喋る相手が居ないと言うのは思っていたよりもキツかった。

 とまぁそんな青少年特有のドギマギは置いといて、2人は廃墟の街の中心部に足を運ぶ。


 かつて水の街として30万強の人口がいた観光地、そんな栄えた街は今や魔騎の侵攻によって人の気配がなく、水の流れる音しか聞こえないというのは廃墟独特の不気味な雰囲気を醸している。

 街の中心部には、今や誰かも分からぬ5メートルは超えるかという程のシンボル像が建てられた芝生の公園があった、とはいえ今は雑草が生えた、最早公園とは言えない場所にカイトとアナは移動した。


「ここならたくさん動けるね、勝敗はどうしますか?」

「では、どちらかが参ったと言うまででどうでしょうか?」

「分かったわ、では始めましょうか」


 実を言えばカイトはアナが一般的な人間、つまり非戦闘員ではないという確証は持っていた、出なければ彼女の提案といえ同行の為にこうして実力を図るために戦うなどするハズはない。

 この3日間で彼女の能力には何度も驚いた、特に彼女の索敵能力は異常という他なかった、魔騎が近くに居ないのは分かったがそれ以外の動物や建物、地形など目で見なければわからない情報を的確に教えてくれたお陰で100年前の地図がより正確になった。

 より正確に言うならば探索術式による索敵だが、俺は専門外なのでこういう能力を持つ存在はありがたい。

 かくして彼女の存在は、この3日間の間で頼もしいと感じる存在になっていた為、彼女からの提案は嬉しくはあった。

 国にいた時には、それでも同行は断っていただろうが、彼女は受け入れようとしているのか自分自身よくわかっていない。


「武器はどうしますか? アナさん剣も持ってないみたいだし片方貸しますか?」

「ああ武器ね、大丈夫よ今作るから」


 作る?という言葉に一瞬疑問が浮かんだが、錬成術の事かと思いつく。

 錬成術は一般的な術式に比べて適正人口率が低く所謂マイナーと呼ばれる術式だ、錬成も出来ることは多いが青銅の剣を生成するとしても、人間が打つ剣と比べて耐久度が低い。

 俺の剣を貸すかどうしようかなぁと思案する中、アナさんは術式を展開し錬成を開始した。

 地面の土を使い土偶の剣を作るようだが、驚いたのはそこではなかった。


「術式でかすぎないか?」


 見たことがない系列の術式、そしてそのデカさ、一般的な術式に比べて2倍ほどデカい。

 ますます彼女は何なんだろうかと思うようになる、簡単に言えば術式がデカいというのは簡略化で出来ていない、つまり古い魔術を使っているのだろう。

 現代魔術に置いて研究されているのは、術式の最適化と簡略化、そして縮小化だ、如何に早く小さく簡単に使うのか。

 彼女の術式はそれ以前の、あまりにも無駄が過ぎるのだ、一般的な魔術師の俺からしてもどこで魔術を学んだのだろうか?と思ってしまうくらい時代錯誤な魔術式だった。

 だが時代錯誤ではあるが、術式自体は今まで見たことがないほどきれいな配列をしていて完璧だ。

 剣の錬成が終わり一本の長身の剣を持つ彼女は何か難しい表情をしながら剣を見つめている、何やら錬成に納得がいかなかったのか近くの壁に剣を叩きつけ始めた。


「耐久度は問題ないけど、なんなのかしらね、この微妙な感じ」

「壁に叩きつけても折れない剣なら問題ないじゃないか?錬成なんて大量生産大量消費が基本だろう?」

「私はそういう錬成は嫌なんだけどね」


 長い黒髪をなびかせ数歩後ろへと下がっていく、立ち止まりふり向く姿、剣を構える姿は洗礼され熟練の女性騎士、彼女の姿はまさにそれだった。

 出会って3日という中で記憶が無いと言いながらも彼女の放つ気迫は本物だ、基本動作から視線移動の日常動作まで一般人の動きではない。

 女性という事で侮るという事はないが、気を引き締めて戦わなければ押されると、握りしめた剣に力を込めた。


 次の瞬間だった、目の前にいた彼女の姿がぶれた、文字通り。

 俺の直感が前に飛び出せと警鐘をならし、重心を前に体を飛び出す、目の端に土塊の剣が通り過ぎるのを捉えた。


「って殺す気か!?」

「いえいえ、あなたなら避けられると思ったから」


 冗談めいた口調で驚くほど速く動く彼女、先ほどまで俺が立っていた場所には彼女の振りかざした剣の爪痕が抉られていた。


「驚いたな、普通錬成した剣にそんなに耐久度はないと思うけれど」

「そうなの?記憶が無いから何とも言えないけれど、錬成するときには耐久度を重視して設計するように心がけているのよ。まぁ壊れない理由はそれだけではないけれど」


 身体強化、普通の人間のスピードでは考えられない動きを見せるのはその為だろう。

 術式自体はさほど珍しくもない一般的な術だけれど、あの速さは尋常ではなかった、それだけでも彼女の実力は見て取れた。


「まさか想像以上の強さだ、ほんとこんな気持ちになったのはレオナルドさん以来だ」


 彼女の実力を知りたくて誘ったのは俺だがこうも一撃で圧倒されただけでは恰好が付かないなぁと視線を再度彼女に向ける。

 魔力を体に巡回させ体を活性化させる、術式の展開には魔力操作が早いほど展開速度は変わる、俺の持つ聖魔術は術式展開が早く性質上俺の術は瞬時に効果を出すことが可能だ。


 左手をかざし力を籠める、ただし威力は抑え怪我をしない程度に、そして彼女が驚くような事をしてやろうと力を籠める。

 彼女が怪訝そうな顔をするのを見据えながら手に込めた力を解き放つ。

 魔弾、俺はそう言っている魔力の塊、速度は光が届く速さと同じ、つまり人には避けれない速度だ、物理的反動は起こらない為、俺の設定した威力しか伝わらないまさに魔弾である。

 左足に狙いを定め、一瞬の出来事で何が起こっているのか分からないであろう彼女に向ってこちらから突っ込む。


 アナが魔弾によって状態を崩し前かがみになるのを捉えながら剣を振りかざすと剣の端に重量が突然加わり剣が弾かれる。

 思わず「っな!?」という声が漏れてしまうくらい衝撃だった。

 アナは前かがみになるように見せかけながら一回転し振りかざした剣に自身の剣を当て弾いたのだ。


「なんだそれ」


 次の瞬間、アナの剣が俺の眼前に振りかざされるのが見え、瞬間的に魔術を発動する。

『シールド』の展開で眼前にあった剣は光に阻まれ、剣が粉々に砕け散った。


「・・・私の負けね、まさか砕かれるとは思っても見なかったわ」

「いや俺もぎりぎりだった、アナさん手加減しただろ?」


 アナが最後剣を振りかざした時、初撃のような速さが無かった、あの時の速さなら如何に発動時間が早い聖魔術であろうとも先に剣先が俺の顔に直撃していただろう。


「まさか誘った側が手加減されるとはな・・・アナさん、俺と居れば記憶が戻るかもしれないっていう直感だけで俺について行ってもいいのか?俺の国に居ればいつか記憶は戻るかもしれない、そんな直感に頼るより安全だ」


 くどいように最後の確認をすると彼女は少し天を仰ぎ小さく「う~ん」と言いまたカイトを見つめると彼女なりの理由を口にする。


「君の話を聞く限り懸命なのはそうなのだろうさ、実を言うとね記憶がどうたらはあまり気にしてなくてさ、どちらかといえばたった1人で旅に出ている無謀な勇者君が心配なところが半分以上の理由だったりするんです」


 どうも彼女は痛い所を突くのが好きなようで、にこやかにこちらを見つめるその姿は少し小悪魔的だった。

 年齢に似合わずどこかいたずら好きなアナは結局の所、自分の記憶というよりカイトの旅の心配をずっとしていたのだ、行き倒れていたアナに心配されるカイトもカイトだが彼の1人旅は無謀に過ぎる。


「私としては君の国の人間が何1人でそんな人類存亡の危機的な旅に行かせたのか、聞かせてもらいたいくらいだけどね」


 実を言えばこの1人旅の原因はカイト自身にある、彼の旅の同行者候補はライル王国内にて多数候補がいたがカイト自身がすべてを断ってしまった。

 勇者条約と呼ばれる世界間の条約に置いて勇者の同行者は勇者個人にその権利を有している、これにいかなる国も介入は出来ない。

 政治的な枠から勇者を守るための条約がカイトには悪い意味で効果を発揮していた。

 カイト自身に非があった為にアナにどう説明しようかと思案するカイトであったが、まぁ別にいいかと面倒くさくなって説明するのを宙に投げた。


「改めてアナさんに説明するけれどいいかな?」

「はいお願いします」

「俺の目的はこの世界に蔓延る魔騎の討伐だ、現在人類は都市間で結界結晶で守られているがここ数年で結界自体が縮小傾向にある現状だ。そしてこれから言う事はまだ伝えていない事」

「魔騎そのものをどう滅ぼすのか?ですよね。いくら魔騎と呼ばれるものを倒せるといっても君個人やほかの勇者だけでは人類を追い詰めるだけの存在を滅ぼせるわけがない」


 個に置いて一騎当千であったとしても、軍を成す相手に戦争をするならば個だけが強くても意味はない、勇者もまたしかり。

 カイトの旅が魔騎を滅ぼす為の物であるのならば、それは根本を断つことが前提となるだろうとアナは考える。


「勇者の使命は、魔騎を生み出す者、結晶体と呼ばれる母体を破壊すること。その為にこれまでに俺を含めた8人の勇者が各地に結晶体があるとされる場所を捜索している所なんだ」

「それはまた大層な旅な事、しかしそんな大事な旅を一人きりとは、君馬鹿だなぁ」

「悪かったな!!もう言うなよ」


 何度も無謀無謀と言われ最後には馬鹿と評価されたカイトは拗ねたようにそっぽを向いて、慌ててカイトに「ごめんごめん」と言うアナを見ながら、自身の行動を考えれば言われても仕方ないかもしれないと思って少しカイトは落ち込んだ。


「アナさん、勇者の旅に同行するという事は危険が伴う。今は周りに魔騎は居ないが、戦闘面ではとどめを刺すのは俺の仕事だ。俺の戦闘のバックアップも含めて大変だろうがよろしく頼むよ」


 仕切り直しと改めてを込めてカイトとアナは握手を交わす。

 少しふわふわした流れではあるが二人は歩み始めたのだった。


「で?どこに行くの?」

「え?パール城っていう昔の古城です」

「へぇ変な名前」

「あ、はい」


 目的地がどこかも気にしてなかったんかい!!

 心の中でカイトは叫んだのだった。

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