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破壊の聖女の祝福を  作者: konakusa
プロローグ
1/3

始まりの日

 統一歴1000年、魔騎と呼ばれる異形の魔物によって人類は窮地に陥っている。

 物理的攻撃が一切通じない、通じても足止め程度な魔騎に為すすべもなく人々の生活圏は縮まり続けていた。


「本当なのか? 我が国に勇者が現れるとは」

「ああ、どうやら先に勇者を見つける為の政策のお陰か6年も前には見つかっていたらしい」

「ならば何故我々にはお教え願えなかったのか!!」

「何かしらの理由があるのだろう。知っていたのは国王陛下とその臣下のみだそうだ」


 ライル王国、その王都の宮廷にて貴族たちは国王の招集にて集まっていた。

 勇者、それは魔騎を討つことができる唯一の存在だ。

 時に統一歴980年の事である、大国アルフにて大規模な魔騎討伐作戦が行われた際に敗走中のアルフの一軍に魔騎がそれを討滅せんと先回りをしていた。絶望の中一人の少年兵が魔騎の軍団の中に突撃を掛けた。そして一瞬の静寂の後巨大な光が魔騎達を一掃したのだ。

 少年の名はダン、そして世界で最初に見つかった勇者である。


「勇者は今や世界に8名居られるが、まさか我が国からも勇者が誕生しようとは」

「我が国の防御陣地も最早100年前の半分まで縮まっている。 勇者がいてくれれば我が領地も取り戻せるかもしれぬ」


 ざわつきを見せる宮廷にて、国王が貴族たちの前にある玉座に腰を掛ける。

 貴族たちのざわめきの理由も分かるためか、国王は一つため息を吐きながら大きく声を発する。


「皆の者少し静かにせよ」


 国王の言葉に次第にざわめきは収まり視線は国王に集まっていく。


「貴殿たちが言いたいことは分かる。 今回の招集はそれを含めて話があったためだ」

「恐れながら陛下!! 勇者が現れたというのは本当の事でありますでしょうか?」


 国王がしゃべり終えるやいなや、一人の貴族が国王に懇願するように質問をする。

 一瞬咎めようとするも彼らの気持ちも分からなくはないと国王は言いかけた言葉を飲み込んだ。


「ああ、本当の事だ。 最初に勇者が現れてから実に20年、とうとう我が国にも勇者が現れた。 貴殿たちには彼の紹介と今後の方針を伝える為である」


 貴族たちから歓喜の声が聞こえる中、国王の後ろから一人の青年が静かに表れた。

 ライル王国軍の一般兵が着る制服を切る青年、腰には本来なら宮廷で禁止されている短剣を装着している。


「紹介しよう、彼が我が国の勇者カイトである。 彼を勇者として発見されたのは貴殿たちも知っている通り6年前の勇者を見つける為に行った政策の時だ。 彼にはそれから6年間レオナルドの下で勇者としての修行に励んでもらっていた」

 カイトと呼ばれる青年は一礼するとおもむろに短剣を手に取り鞘から引き抜く。

 少し緊張しているのか表情はやや硬く、それでも自身の役目を分かっているのか剣を持ち手を高く伸ばす。

 貴族たちはそれを何事かと見つめる中、剣の先から一筋の光が灯り、光は短剣を包みこむように光輝いたのだ。


「こ、これはまさしく聖魔術の輝きではないか」

「本当に勇者だ、勇者が現れたのだ。神よ、我々をお見捨てにならなかった」


 貴族たちは拝むようにカイトを見つめる。だれも彼も彼の、カイトが勇者だと疑うこともない。それも当然の事だろう、光の魔術はそも存在していたなかった魔術、貴族たちは自身に持たぬ光を持つ存在など他にはいない、つまりは勇者なのだと解釈する。


「先の勇者、ダンとはまた違う聖魔術ではあるが、それぞれ発見された勇者もまたダンとは違う聖魔術であったと聞く。 さて皆の者よ、私は彼を勇者として認定したいと思うが貴殿たちはどうだろうか?」


 無論集まった貴族たちに異議はなく、カイトは勇者としてライル王国に認知される。


「さて、では最後にカイト、何か申してみよ。抱負でもよい」


 貴族たちは一斉にカイトを見定める、果たして我が国の勇者とはどのような人物なのか。

 一斉に視線を受けるカイトと呼ばれた青年は緊張した面持ちながら貴族たちに向かって喋る


「お初にお目にかかりますカイトです。 勇者、そういわれて6年間勇者としての修行を将軍様より受けてきました。 約束しましょう、必ずや魔騎の手から人々を守りぬくと」


 淡泊な言葉ではあるが、それこそがカイトと呼ばれる青年の本心であり気持ちだった。


「まぁお前は多芸でもユーモアもあまりないからな。 さてこう生真面目に勇者だがどうか支援をお願いしたい。 今後カイトには勇者条約に基づき魔騎の討伐任務に挑むことになるだろう。その道中の支援などをお願いしたいのだ」


 国王の言葉に否と答える貴族は居ない、それだけ勇者と呼ばれるものの存在は人々の希望の光なのだ。

 このライル王国は諸外国と比べ魔騎の被害は少なくはあるが、数年前には南地方にあった村々の多くが全滅するという惨劇があった。

 それ以来南地方もまた魔騎の勢力範囲となりライル王国の国土もまた縮小している。

 軍を向けても意味はなく、防衛には結界魔術がそれぞれの街に張り巡らされている。


「結界結晶も時期に期限が来よう。今この国に勇者が現れる事こそ神が与えてくださった輝石なのだろう」


 国王と貴族達が少しの笑顔を取り戻す中、勇者カイトは静かに目を瞑るのだった。



 プロローグ


「ようやくここまで来たんだな」


 天を仰ぎながら男は一人黄昏る。魔騎と呼ばれる生物がこの世界に蔓延って早100年、この災害を止めるために動きだせたのは20年も前の事だった。

 こうなる事は予期していたし、その為に数々の準備をしたのにも関わらず不安はあった。

 ただ結果を言えば、その準備は無駄ではなくそれがあったからこそ今の結果があるのだと自身を励ます毎日だった。

 男の名はダン、最初の勇者と人々に呼ばれている人類の希望の始まり。


「大丈夫ですかダン? ここに来るまでいろいろありましたが此処からが本番なのですよ」

「そうだな。 ただここまで来れたのは君のお陰でもある、だから頑張ろうぜ」

「はい、このダンジョンを踏破し魔騎の循環装置である結晶体を壊しましょうか」


 この世界に置いて勇者と呼ばれる存在の目標は魔騎と呼ばれる魔法生命体を生み出す機構、結晶体と呼ばれる物の破壊である。

 魔騎を幾ら勇者が無双し何十万と倒したとしてもその分だけ結晶体が魔騎を生成する。魔騎も構成要素はすべて大気中のエーテルから作り出されている為その資源は無限である。


 勇者ダンはこれらの事象及び結晶体の存在は秘匿する物として各国の一部の人間しか知らされていない。混乱を避ける為ということもあったが、何よりこれ以上の絶望的な要因を広めるべきでは無いだろうというのが本来の理由である。


「ダン、この下から禍々しいマナの塊があります」

「分かった、たぶんそこが結晶体がある場所だろう」


 結晶体はその物体を巨大な建築物、洞窟などに隠されている。所謂ダンジョンと呼ばれる空間を形成、魔騎を使い防御陣地を作るのだ。

 ダンがいるダンジョンは洞窟形状、地下へ地下へと続く空間だった。


「魔騎一体一体はさほど強くはない、が・・・こいつらは予想外だったな」

「はい、ダンに言われなければそのまま突っ込んでしまうところでしたよ。その魔獣?というのですよねこいつらは」


 少女の目の前には猪を象った、されど猪にはないオーラを纏った魔獣と呼ばれる生物が犇めいている。

 魔騎が蔓延るこの世界に置いて魔騎以外の野生生物を見る機会はあまりなく、まして魔力を持つ獣など、そも外界には居なかった。正確には今はと言うべきなのだろう。


 魔獣はダンと少女の姿を見るやいなや遠吠えをあげながら突進を仕掛けてくる。

 少女は冷静に魔獣との距離を保ちながら盾を展開する。魔獣の突撃スピードは野生生物や魔騎と比べて早い、魔力を身にまとう存在の為か肉体強化を常時使用している為だろう。

 だが驚く事に少女は予想外に早い魔獣に対して瞬時に適切な距離を取り魔術を発動させた。


 〖鈍化の盾〗


 魔力によって生成された盾は突撃を仕掛けてきた魔獣たちとぶつかりその進攻を停止させる。魔獣はいったん距離をとるが、足元がふらふらと覚束ないことに気が付き怒りから遠吠えをあげた。

 デバフとも呼ばれる盾に触れた物の動きを一定時間鈍らせる力を持つ魔術である。


「魔獣の動きを鈍らせました。魔騎に効果はさほどありませんが魔獣ならばこの攻撃は効くのですね」

「そのようだな、レイラ盾は展開しつつ少し後退してくれ」


 魔騎に対しては有効打にならない魔術による盾だが魔獣には一定の効果があった事にレイラは安堵の表情を浮かべる。

 魔獣たちの動きが鈍ったことで生まれた隙、それをダンは見逃さなかった


 〖暴虐の導を開く、黒炎破〗


 破滅の光が魔獣たちを覆い一瞬にして魔獣たちは駆逐されたのだった。

 素早く探知魔術を使いあたりを警戒するが、魔獣らしき影も魔騎の姿も確認する事は出来なかった。

 ひとまず安全になったことでレイラとダンは一先ず小さく安堵のため息を吐く。


「残すところは最下層、恐らくそこが結晶体の場所でしょう」

「ああ、そうだな。 しかしまぁなんというか、我ながらすごいな本当に」


 ダンジョン、まさしくそれにふさわしく内部は複雑な迷路になっており地下へ向かうために石の階段まで設置されていた。

 ダンの探知魔術がなければこうも易々とは来れまいなと、レイラは探知魔術の利便さに関心した。

 階段を一段一段降りると壁には壁画のような絵画も描かれており古代の遺跡を思わせる。


「これはなんの絵なんでしょうね」


 絵画はたった一人の人間の生活風景がいくつも書かれていた。絵画のモデルはどこかの王なのだろうか、最後の階段の壁にはたった一人の王が項垂れながら天を見上げる姿が描かれている。


「・・・・・・ああ、ほんとうにな」


 レイラはダンが絵を熱心にどこか寂し気に眺めているのをそっと見守る。

 どこかそれ以上絵画について聞くのはしてはいけない事なのではないか、彼の表所を見て何故かそう思ったのだ。


「どうやら部屋はあの場所だけみたいですね」


 階段の先は一本道、分かれ道はなく本当に最下層についたらしい。

 行こう、と小さく呟くダンに続いて一本道を辿る。彼が何も警戒しないという事は探知魔術に罠なども仕掛けられていないという事だ。

 ただ、たった数メートルの道の先、黒い扉を見た時私は触れたくないと思った。


「レイラ、大丈夫あれは俺が開けるよ」

「・・・はい」


 安心してと言うようにダンは私に笑顔を向けた。


 ―――ああ、なんて事だろう。

 あの時、彼は一体何を思って私に笑い掛けたのだろうか。その思いが、どれだけの複雑な感情だったのか。あの時の私にはわかっては居なかったのだ。


『なんという事だ、こんな所までくる人間がいるとはな・・・』


 扉を開けた先、結晶体と呼ばれる禍々しい黒いオーラを放つ石の横、そこに結晶体を守護するかのように佇む者がいた。

 全身鎧のようなものを着込む、顔からは黒い煙が立ち込め内部を確認する事はできない。

 直感的にそいつは生命体ではないのだと分かった。


「ダン、こいつはエーテルによって形どられた者。魔騎と同じ存在です」


 しかし、こいつほど負のエーテルから形どられた者は見たことがない。

 しかも会話が可能なのだ、たぶん魔騎とは根本的にその在り方が違うのだろう。


 この世界の魔騎はその目的を人間の排除とする。その理由は分からないが生命に与えられる命題、それが人類の討伐とされているのだとダンは私に昔語った。

 思考も端緒で他の魔騎と同調することもなく単騎で動く存在、だからこそ人類は今日まで活動範囲を縮まり続けているとは言え絶滅するまでは至っていない。


 だがこいつは違う。こいつは何だ?


『ほう・・・まさか同胞が来たとはな。なるほどなんとも懐かしい存在だ』

「君は何者だ? 俺達はその結晶体の破壊をしに来た者だ」


 どこか悲しむような声でダンはそいつに語りかける。

 破壊という言葉を聞いたときそいつは体が一瞬ふるえたのを見逃さなかった。


『破壊?・・・破壊だと?』

「ああ、それは魔騎を生み出す永久機関。人類の未来のためにあってはならない物だ」

『なんという事だ。 同胞が同胞を殺そうというのか? こんな姿にしてこんな所でしか生きられなくなった我が姫を』


 ギシギシと見えない歯を噛む音が聞こえる。


「ああそうだ、そして終わりにしなければならない。すべてを人類のために」

『やりたければやってみるがいいかつての同胞よ。 貴様らに我が姫をこれ以上壊されてなるものか!!』


 この部屋に慟哭が木魂する。鎧を着た何かは腰にあった剣を鞘から引き抜くと私たちを待ち構える。

 一瞬こちらに向かってくるのかと思ったが、そうではないらしい。


「レイラがいてよかった、俺一人でここにきていたら彼は走って来ていただろうからね」

「・・・ああ、そういうことか。 本当に彼は私たちから結晶体を守りたいのだろうね」


 そいつは私たちどちらかを相手をしている時に片方が結晶体の破壊を試みるのを恐れているのだろう。


「でも彼の言葉はあまり理解できなかった。 あれは石だろう? 姫とは何のことだ?」

「・・・ああ、本当にね」


 どうやら来れも聞いてはいけない事らしい。

 ダンはある程度私の疑問には答えてくれるがシークレットゾーンの問には、今のように間を置いて会話を止めるのだ。


「では、どうしますかダン。 私的には彼ともうちょっと会話をしてみてもいいかもしれませんが」

「いいや、その必要はないよ。 もう彼と姫を苦しませる理由はないからね。だから・・・」


 〖暴虐の導を開く・斬〗


 ダンの力が収束していく。

 それは暴力だ、それは奇跡だ、それは希望だ。多くの人々が彼の力に畏怖し奇跡を求める。

 何故ならば彼が力を振るえばあらゆる存在に抗う術はないからだ。


『それは! 何故だ? 何故貴様のような人間が何故その魔法を』


 ダンの詠唱が聞こえたのか、そいつは絶望した声でダンを指さす。

 そしてそいつは彼の正体に気が付いたのかそいつは愕然とするように彼を指さす。

 ああ、貴様なのかと。


「すまなかったな」


 光は一筋の剣の形状となりダンの目の前のすべてを切り裂いた。

 あっけない幕切れではあったが、そいつは為す術もなく崩れ落ちたのだった。

 しかしそれも当然の事なのだろう。それは崩れ落ちたそいつも分かっていたようで苦悶の声を挙げながらダンに恨みの声を挙げている。


『姫を殺したな、なんていう事だ。 裏切り者め、裏切り者め』


 名も知らぬ怪物の慟哭が木霊する。

 レイラはそいつが突っ込んでくるのかと警戒をするが、前にいたダンはすでに戦闘態勢を説いていた。

 彼はどこか悲しそうな表情をして、すまないと小さくそいつに向けて一礼した。


 ダンの力は一般的な物からは逸脱した魔術を有している。いや、あれが魔術とは云えない物、魔術より一段階上の概念、それをこの世界では魔法と呼ぶ。

 光の魔法を操る彼にはあらゆる負の存在にとって天敵足りえる存在なのだろう。


 鎧のそいつはダンの光によって崩れ落ちた結晶体を見つめるのみだ。

 しかしその姿が徐々に薄くなっていくのに気が付く。


「・・・!? ダン今すぐここから離れますよ」


 魔力探知から、周囲のエーテルが活性化しているのが分かる。

 エーテルは云わばこの世界に置いて神秘の一つであり様々な用途で使用されるエネルギーだ。中でも魔術師たちによる魔術と呼ばれる力は人々に多大な恩恵を受けている。

 この世界に置いてエーテルとは奇跡を成すための資源、幻想のエネルギーではない。


「周囲のエーテルが集まっています。このまま行けば拡散爆破すると思われます」


 本来ならば世界中に散らばるエーテルは自然に一か所に密集することはない。しかし一定数エーテルが集まるとエーテルは拡散する働きを持つ。この際に発せられる爆発は戦略魔術に匹敵すると言われている。


 魔力の膨張が起こるのがダンにも分かり理解する。あのままあそこに居たら死んでいたのだろうと、だからこそ彼女の持つ第六感にまた驚いた。

 ダンの持つ魔力探知にはあの時一切エーテルの収束は分からなかった。それをレイラは一瞬で理解し行動したのだ。これでも魔力探知には自信があったのだ。


「よくわかったな、俺の魔力探知では分からなかった」


 全速力で来た階段を登りながら下層から感じる、爆発的に膨れ上がるエーテルがいつ爆破するか気が気ではない状態。

 強化魔術の行使の影響もあったが、あそこで各階層で魔騎や魔獣と遭遇してしまっていたらここまで早くは来れなかっただろう。


「あそこまでの膨張です、どれ程の魔力爆破tが起こるか見当も尽きません。一先ずあの丘まで離れますよ!!」


「ああ」


 洞窟を抜けると草原が広がっている、二人はただひたすらと大地を駆ける。

 外には魔騎がいるのではないかと、一瞬心配していたレイラはまた安堵を浮かべながらも今まで感じたことのない魔力圧縮に冷や汗を垂らす。

 結晶体の破壊が目標ではあるが、その爆発で死ぬのは御免こうむりたい。

 荒野を直走る事数分、ダンとレイラは結晶体があったダンジョンより距離にして3キロほどまで離れる。強化魔術を全力回転させたからこその離れ業としか言いようがない程の距離。

 ダンはここまでくればいいだろうと、地面に強化された腕で穴をあける。


「この中に入れ! 爆風がくるぞ」

「はい!」


 二人ならば入れるかというほどの穴に飛び込んだ直後、大きな爆音と数秒後に頭上で爆風が飛び交った。咄嗟に防御魔術を展開するレイラ。

 何度かの爆発の後爆音は徐々に落ち着きを保ち、次第に消えていった。

 先ほどまで何もなかった荒野には爆発によって吹き飛んできたであろう岩石がそこら中に転がっていた。まさに火山噴火を彷彿とさせる爆発である。


「まさか結晶体の破壊にあんなリスクがあるとはな」


 まさに想定外と言わんばかりにダンは荒野に腰を落とし地形が一瞬に変わった荒野を見つめる。


「今回私たちが破壊した結晶体は人々の生存圏から離れた場所だから良かったですが、今後は注意が必要になるでしょう」

「だな、しかし結晶体が壊された事で何故あそこまでの爆発が起こったのか・・・」

「知りたいのならば、破壊ではなく確保を優先しますか?」


 ダンという男は人類が知らない情報をたくさんもっている。それは光魔術から始まり魔騎の存在とその誕生からあらゆる未知に対してのアンサーを持っているのがダンだった。

 だがこの男にも知らない事がある、ならば破壊よりも調べるというものありなのではないだろうか。


「いや、いい。のこり13機を破壊すれば魔騎は地上より消え去るんだ。それで使命は果たされる」

「了解しました。 ならば次を目指すとしましょうか」

「・・・・君とであって1年は発つが、君は何も聞かないんだな。普通勇者といえど何故魔騎の情報を持っているのか、何故魔騎の倒し方を知っていたのか。 多くの人は疑問を俺に向けてくるのに」


 結晶体の場所にあたりを付け始めた時、偶然レイラと出会い行動を共にするようになった。別段仲間を欲していたわけではなかったのだが、いろいろと偶然が重なってレイラが同行を求めたのが始まりだった。

 レイラは俺が勇者だと当初は知らなかったし、俺の使命を聞いても「なら付いていくわ」と言ったっきり何一つ文句も質問もせずただ俺に付いてきている。


「私はあなたを守る事が出来ればそれでいいのです。さぁ行きましょうか」


 一先ずレイラの目的はよくわからないままではあるが頼れる仲間なのは知っている。

 だからとりあえずは目的を達成した事を喜ぶとしようか。


「ありがとうレイラ、君には助けられてばかりだな」

「いえ、いえそんな。ただ私はあなたと共にありたいと思っているだけですから」


 謙虚だなぁと思いながら一人で歩き出す彼女に着いていくのであった。




 魔力爆発によって爆地点から拡散されたエーテルの量は過去類を見ない量であった。

 人の目には見えない粒子のような存在の為観測機や、能力などがない限り観測は不可能のはずだが、拡散されたエーテルの量は尋常ではなくそれによって世界に歪が生まれる。

 亜空間と呼ばれる世界の何処とも繋がることのない世界の扉が開かれたのである。

 幸いな事に爆発によって歪を生み出したのは空中であったため、物理的人的被害は免れたのであった。

 ただ、開いた扉から何かが飛び出した以外には。



『ねえナタル、なぜあなたは私を守ってくれるのでしょうか?』

『何故?でしょうか。私にはその言葉の意味は分かりかねます』

『私は世界の敵なのよ?あなたが私に使える意味が無いと思うの』

『ああ、そういうことですか。そうですね、私はただ貴方の傍にいたいのです』

『よくわからないわ』

『そうですね、私もこの感情が分かりません。だけれどそれでも、あなたを守りたい。我が生涯の姫よ』

『そう、ならば最後のその時まで、どうか私の傍に居てくださいな。このーーーの傍に』



 統一歴元年、魔王と呼ばれた存在が聖女の手によって時の彼方へと葬り去られ人類は魔獣の手から平和を獲得した。しかしそれを導き平和を為した聖女は魔王との激突の末行方不明となった。

 魔獣はいまだに蔓延る世界ではあるが、魔王という存在が居なくなった事によって900年あまり平和に過ごしていたのである。

 人々は聖女の功績を忘れることが無いように物語を作り童話としてその存在を忘れないようにした。


 ああ、聖女アナスタシア。あなたを誰もが忘れることはないでしょう。


 祝福の力をもって世界を救った聖女は1000年たった今でも勇者と同様に人々の希望となっている。

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