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この文量で全十話ほどの短編?に仕上げるつもりです。

サラッと読めると思いますので、気軽にお読みください。

 


 気が付くと、俺は真っ白い部屋の中で、真っ白い椅子に座っていた。


「おはようございます、ようやくお目覚めですか?」


 声のした方に首を動かすと、そこには黒いフード付きの装束を着た高校生ほどの少年がいた。


 いや、少女か?

 男と言われても女と言われても納得出来そうな、そんな子供だった。


「もしもし? 聞こえていらっしゃいますか?」


 これまた中性的な声で呼び掛けられて、俺はハッとする。

 ずっと俺に話しかけていたのか。


「そうですとも、と言うか、そうに決まってるじゃありませんか。この部屋には貴方と私しかいないんですから」


 そう言われて周りを見渡すと、確かにここには子供と俺しかいない。

 もっとも、壁も何も無いここを部屋と呼べるのかは分からないが。


 と言うか、ここどこだよ。

 全然記憶は無いし、こんな場所に心当たりなんか無い。


「それはそうです、だって貴方はここに来たことも無ければ、来るまでの記憶も無いんですから」


 どういうことだ?

 記憶が無いって……もしかして誘拐?

 いや、でも攫われた記憶なんて無いし……って、あれ、俺――誰だっけ?


「はは、ようやく気が付きました? そうです、貴方はいわゆる記憶喪失ってやつになってるのです。と言いましても、実際は記憶喪失ですら無いんですけれど」


 ちょっと待ってくれ、そっちだけ分かってる風に話を進めないでくれ。

 要するに、一体どういうことだ?


「分かりました。ではまず第一に飲み込んでほしいことが一つ。貴方は――死んでいる人間です」


 ……はあ?


「まあ、そちらの言い分も十分に分かります。でも、まずそれを飲み込んでもらわないことには話が進みませんので、はい。どうぞ、召し上がってください」


 そんな、茶を出されたみたいに言われてもだな……まあ、確かにこんな場所、死後の世界って言われたら納得出来そうではあるが。


「そうでしょうそうでしょう。なんて言ったって部下に命じて物置小屋を片付けさせましたから。ええ、渾身の出来ですとも」


 ……渾身の物置小屋、ね。

 まあいいや、それで? 俺は今から閻魔様に裁かれるって感じか?


「話の飲み込みが早くて助かります。ですが、早速閻魔様の前に、と言うわけにはいかなくてですね、ええ。率直に言いますと、人手不足なんですね、はい。ぶっちゃけヒトデの手も借りたいと言いますか」


 そう言うと、子供は作り笑顔を浮かべる。

 知ってるぞ、あの顔。徐々に世渡りが上手くなってきた社会人が他人に面倒ごとを押し付ける時の顔だ。

 面倒事は勘弁だぞ、まったく。


「昨今は人口が増えた分死亡者も増えていましてね、人手は増やさないのに仕事は増えていく一方でしてね、はい。というわけでお察しの通り、貴方に我々の仕事を手伝ってもらおうと思いまして」


 こっちの話は聞いちゃいないな……。

 でも、こいつの話が本当なら、俺は閻魔様に裁かれるまで時間があって、その間暇なわけだけど。


「そうなんですよ。何をするでもなく、ただただぼうっと過ごしていただくしかなくてですね……それってちょっと、退屈じゃありません?」


 退屈かどうかって言われれば、まあ暇なんだろうけど。

 にしても、あんまり仕事って響きに良いイメージは無いんだよな。


「おっと、結論を出すのはまだ早いですよ。ちゃんと報酬も用意しているんですから、そちらを聞いてからでも遅くはないでしょう」


 報酬……ねぇ。

 もう死んでるってのが本当なら、今更金なんか貰っても意味ないしな。


「その言い分には一理ありますが、私は何も金銭を報酬として与えるとは言っていませんよ。私が貴方に渡す報酬は、天国への入場券です」


 天国への……入場券?


「ええ、俗に言う天国地獄ってのは実際にありましてね。ただ、現世で伝わっているものとはちょっと順序が異なっていまして。閻魔様が、死者を天国か地獄のどちらに送るか決めるのではなく、閻魔様の裁きを受けるまでの待合室が天国と地獄なのですよ」


 はあ、つまり生きてた頃に馬鹿してた奴は生まれ変わる前に地獄で懲らしめられる、ってわけか。

 それで俺は今地獄行きが確定していて、天国に行くためには仕事を受けないといけなくて……って、え? 俺って地獄行きなわけですか?


「そういうわけですね。貴方の罪状は、ほう、なかなか思い切った事しましたね、貴方。これをやった人はだれ一人として天国にはいけませんよ」


 え、何? 何したの? 俺。

 そんなにエグイことしたわけ? 何にも思い出せないんだけど。


「それはあの世の仕様ですので、諦めてください。ただまあ、ちょっとだけヒントをあげますと、そのせいで私たちの仕事が十万件前後増えていると思っていただければ」


 なになになに!? 俺人殺してんの? そりゃ地獄行き確定だわ、ごめんなさい!


「いえいえ、そうおっしゃらず。貴方はまだ救いがあるほうでしたので、こうして声をかけさせていただいているんです。ですから、仕事の件、御一考お願い出来ないでしょうか?」


 救いがあるってどういう……殺さなきゃ殺される状況だったとか?

 でも、どんな状況であれ殺しは正当化されるわけじゃないし、それにお前たちの仕事を手伝うだけでその罪が許されるなんて、そんなの俺が納得出来ないし……。


 ……後悔、そう、後悔も出来ない。

 後悔出来なけりゃ、納得も出来ない。


 だから、条件がある。


「はい、何でしょうか?」


 報酬は欲しい。そりゃ好き好んで地獄なんて行きたくない。

 それに加えて、俺の望みを聞いてくれるなら、仕事を受けよう。


 仕事が終わった暁には、俺が何をして地獄に送られるはずだったのか、俺が生きてた頃の記憶を返してくれ。

 それが条件だ。


「……そのくらいの条件なら、叶えることは出来ます。でも、そんなことをして何になります? 罪を知ったところで、一度死んだ貴方には後悔することしか出来ません。ただ嫌な思いをするだけですが?」


 さっき言っただろ? 後悔出来れば、納得出来る。納得出来れば、次はもうちょっとマシに生きられると思うんだよ。


「……変な人ですね。分かりました、いいでしょう。それでは、それらの報酬付きで、条件付き契約を結びます。こちらの契約書に署名を」


 子供がそう言うと、一体いつの間に用意したのか、机とその上に一枚の紙が置かれていた。

 紙は真っ白で何も書かれておらず、傍らに万年筆が転がっていた。


「署名と言いましたが、当然名前も覚えていないと思いますので、こう、大きく丸を書いていただければそれで構いませんので。ささ、どうぞご一筆」


 お、おう。大きく丸……っと、これで良いか。


「はい、ありがとうございました。これで契約完了でございます」


 本当にこれでいいのか? なんか、筆跡みたいなので判断するんだろうか。

 と言うか、契約っつったって法律もくそも無い気がするんだが……まあ、いいか。


 って、いかんいかん。大事なことを聞くの忘れてた。

 そう言えば俺――何の仕事手伝えばいいんだ?


「ああ、失敬失敬。言っていませんでしたっけ? 貴方に手伝ってもらう仕事は――」


 子供は今度はごく自然な笑顔を浮かべて、言った。


「人を殺す順番を決めるだけの簡単な、死神のお仕事です」



読んでいただきありがとうございます。

七月中に全十話(未定)投稿しようと思いますので、よろしければブクマお願いします。


また、このまま下にスクロールして評価pいただけると作者が調子に乗ります。


よろしくお願いします。

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