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五話『字面でわかる最強キャラ』



 パーティーの翌日、創造能力の練習で少しばかり夜更かしをしてしまったせいか、いつもより遅い時間に目が覚める。


「こんな時間に目が覚めるなんて……お腹すいたな」


 なにか簡単にサンドイッチでも作って貰おうかなと、自室を出て厨房へと向かう。


「やっほー、昨日ぶりー!」

「よう!」


 厨房でニコニコと笑顔でお菓子頬張る双子の兄妹と、微笑ましいものを見るような目で、頬杖をついて双子を眺めるリュカの姿があった。


「本当に来たのですね……」


 まさか昨日の今日で来るとは思っていなかったため、この兄妹のフットワークの軽さに驚くと同時に感心する。


「しかし来ているなら、起こしてくれればよかったのに……母様もイジワルですね」

「一応は起こそうとしたんだぜ」

「起こしても起きなかったのよ」

「寝顔可愛かったよー、朝から幸せー」

「んなっ!」


 それは普通に恥ずかしい。知らない間に、寝顔を見られている所を想像して顔が熱くなる。


「あー、照れてるユウリも可愛い」

「そうねぇ。さて、ユウリちゃんも起きてきたところだし、さっそく始めましょうか」


 お菓子を振る舞い歓迎した後は、俺の部屋で基礎的な魔法の講義を行う。


「っと、その前に二人の属性を見ておきましょうか」


 講義を始める前に、リュカがそう言って俺の時に使用した水晶と同じ物を持ってくる。


「ここに手を置いてみて」


 そう言われ、ルークが水晶の上に手を置くと茶色と赤の光を灯す。


「ルーク君は……土に火ね、攻撃も守りもこなせるし、応用も利く万能型ね。次はルナちゃんね」


 防御力の高い土属性に攻撃力の高い火属性。攻防一体で汎用性も高く、実戦において最も安定した力を発揮するとされている組み合わせだ。


「ルナちゃんは……まあ! これは派生属性ね! おそらく、これは氷ね、水の派生属性よ」


 ……派生属性って、中盤辺りにインフレの起爆剤として出てくるだろうなって予想してたんだけど。出てくるの早くないかな。


「それから、雷もあるわね」


 高水準の攻撃力と速度を併せ持つ雷属性に、珍しい派生属性である氷属性の二種類。おまけにデフォルトで身体強化持ち……字面でわかる。最強キャラだ。


「派生属性……ねえねえ、これ凄いの? ダメなの?」


 派生属性がなんなのかわからず、リュカの驚き様を見てなんとなく凄い事か、ダメな事なのかどっちかだと思ったルナは、俺の袖を引っ張りそう聞いてくる。


「そうですね。割合はわかりませんが、派生属性は、かなり少ないみたいですから、きっと凄い事ですよ」

「やったー!」


 両手を上げて喜ぶルナ。


「二人とも属性はとても良いわね。これは教え甲斐があるわ。早速始めていきましょうか」


 そう言って、講義を始めるリュカ。

 といっても相手は五歳に満たない子供だ。いざ講義となれば面倒くさがり直ぐに帰るだろうと思っていたが、意外にも熱心に講義に聞き入り、実践でもあっという間に魔孔の制御をマスターし、初級魔法を数発放てるようにまでなった。


「あらあら、物凄い吸収力ね、魔力も同年代に比べればかなり多い方だわ」


 少々侮っていたかと思いつつ、魔力切れでへばる二人にアドバイスをするリュカ。


「貴方達のその状態が、魔力切れの状態よ。二人とも同年代に比べれば多いけれど、まだ魔力が少ないから、しばらくは魔力を上げるトレーニングをした方がいいかしらね」

「はぁ、はぁ、きっついなぁ、これ、それに、魔力を上げるって、どうすれば……?」


 ルークは息も絶え絶えに、リュカにそう尋ねる。


「そうね、手っ取り早いのは、毎日魔力切れになるくらい魔法を使うことかしらね。同時に体力トレーニングもやれば自力の延びはいいわよ」

「えっと、つまり、魔力なくなるまで魔法つかって、ついでに、走って、体も鍛える……ってこと?」


 ルークと同じように、地面に倒れて息の上がっているルナがそう言う。


「そうね、早い話がそう言うことよ」


 魔力切れでへばってるのに、さらに走らせるって……うわぁ、結構スパルタだなぁ。


「まぁ、魔力云々は抜きにして、体力をつけることは大切よ。ユウリちゃんも走りなさい」

「うぇっ!?」


 思わぬ飛び火に素っ頓狂な声が出る。


「はは、ユウリも大変だな」


 そんな様子を見て笑みをこぼすルーク。


「というか、私らと同じ用に魔法使ったのに、どうしてユウリちゃんは元気なの……?」


 大分呼吸が整ってきたのか、少し体力に余裕のできたルナがそう聞いてくる。


「まあ、僕は元々の魔力が多いみたいですし、お二人よりも一年くらい魔法を学んでますからね」


 神から貰った魔法の才能があるからこそ、というのもあるが、力を扱う努力をした俺の頑張りがあってこそだろうし、これに関しては誇ってもいいよな。


「因みに、ユウリはどれくらいの、魔法使えるんだ?」

「あ、私も、知りたい」

「そうですね……初級と下級は全てマスターしましたし、中級も殆ど使えますね、後は上級魔法が少しといったところでしょうか。まだ制御は完璧とは言えませんが」

「うぇ、上級かよ」


 リュカの講義を聞いて、しっかりと理解しているからこそ上級と聞いて盛大に顔を歪める。


「初級を一つ使えるようになるだけでも一日かかったのに」

「でも逆に言えば、あなた達も一年あればそこまで行ける可能性はあるということよ」

「本当!?」


 リュカの言葉を聞き、声を弾ませる二人。


「ええ、そのためには基礎をしっかりと頑張らなくちゃね」

「わかった! 私頑張る!」

「俺だってやってやる!」


 二人の目には強い意識と自信に溢れ、言葉からもそれが感じてとれる。

 そんな二人の様子を見て、かなり根性があるなと内心で評価を上げた。


「二人とも素直で可愛いわぁ……じゃあ、大分体力の方は回復したみたいだし、走りましょうか」

「えっ、もう!?」

「ひえー」


 悲鳴を上げながらも、言われた通りに屋敷の周りをぐるぐると走り始める二人。


「ユウリちゃんも走ってらっしゃい」


 うぐ……やっぱりそう来た……。


「……そういえば母様、特異体質というのは何ですか?」


 俺はリュカの意識を逸らせる為に、そんな質問を投げ掛ける。


「どこで聞いたの?」

「ルナがそうらしいので、少し気になって」

「……普通は体内にある魔力を使うのが魔法。特異体質っていうのは、体内にある魔力ではなく空気中にある魔力を使って何かしら力を得られる体質の人の事よ」


 つまり、MPの消費なしに使えるスキルみたいなものか。俺の創造能力も、その枠組みに収まるのだろう。

 ルナの場合は身体強化が使い放題って事だよな……ちょっとズルくない? いや、俺も人の事言えないけど。


「他にないなら早く走ってらっしゃい」


 んー、意識は逸らせなかったか。


「…………はい、行ってきます」


 他に何かないかなと考えを巡らせたが、多分、何を聞いたところで俺も走る結果に変わりはないような気がしたので、おとなしく諦めて走ることにした。

 それからというもの、ルナとルーク毎日のように屋敷に入り浸り、魔力切れになるまで魔法を使い屋敷の周囲をグルグルと走り回っている内に、いつの間にか家族同然のような扱いになっていった。


 そんなある日、俺が森に入った一件についても次第に記憶が薄れて来たであろう頃、俺はリュカに魔法の詠唱破棄を教えてもらう為に、お願いをしに行った。


「母様。お願いがあるのですが」


 五年この世界で生きて来た中で会得した俺の必殺技、上目遣いでお願いする。

 案の定、効果は抜群。ライエルはあっさり陥落した。


「な、にゃにかな! ママ、何でも聞いてあげるわよ!」


 珍しくお願いをしてきた息子に、リュカは嬉しそうに頬を緩ませて、無駄に張り切った答えを返す。

 勢い込んで身を乗り出すリュカに、少々引いてしまうものの、媚びた姿勢を崩さずお願いを続ける。


「僕に詠唱破棄を教えてください」


 その言葉を受け、リュカはまるで時間でも止まったかのようにピタリと動きを止める。


「……覚える必要ないわよ」


 そして悲しそうな、それでいてどこか怒りを抱いているような複雑な表情で小さく呟いた。

 始めて見る表情に俺は少し戸惑った。過去になにかあったのだろうか、気安く触れていいようなものとは思えない。

 しかし、だからと言って俺もここで引き下がる事は出来ない。


「お願いします母様。僕はどうしても、詠唱破棄で魔法が使えるようになりたいのです」

「……どうして、そこまでこだわるの?」


 駄目だと言われても食い下がる俺に、リュカは困った様子でそう聞いてきた。


「僕が勝手に森に入った事、覚えていますか?」

「……ええ」

「あの時、思ったのです。魔法の詠唱をしていては発動までに時間がかかる。それは致命的な弱点です。実際、それが原因で僕は命を落としかけました」

「そう……だったのね」

「ですから、どうしても知りたいのです」

「……体を鍛えていけば、相手の攻撃を躱しながら詠唱することだってできる。あなたはまだ幼いのだから、これから成長する余地はある。それからでも遅くはないでしょう」

「ですが」

「焦る気持ちはわかるわ。けど、そう生き急がないで」

「……っ!」


 生き急ぐ……か。言われてみれば、確かにそうかもしれない。力を求めるあまり、焦り過ぎていたかもしれない。

 しかし、リュカが教えるのを嫌がる理由はそれだけではない気がする。あの表情を見てなんとなくそう思った。


「いまはこのまま、ゆっくりと基礎を固めていけばいいのよ」

「……わかりました」


 だが、その理由を聞くことは出来ず、俺はそう頷いて返すことしかできなかった。




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