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四話『奥様、私はこちらのドレスがお似合いになると思います』

「……うぅ」


 目が覚めた時、俺は自室に運ばれていた。

 ベッドの側には静かに眠っているリュカの姿があった。

 リュカを起こそうと右手を伸ばそうとするが、途中でその手を止める。狼に食いちぎられた筈の右腕が元に戻っている。しかし、右腕を取り巻くように傷跡が残っている。


「ん、よかった。目が覚めたのね」

「……母様」


 リュカが目を覚まし、俺の顔をみて安堵したようにそう声をかける。


「右腕は大丈夫?」

「はい、母様が治してくださったのですか?」

「ええ、少し治療が遅れてしまったから、傷跡までは完全に消せなかったの。ごめんなさい、ユウリちゃんの身体に一生残る傷を残してしまって」


 リュカは俺の腕に残った傷を撫でながら、申し訳なさそうにそう呟く。

 だが、俺はそれでよかったと思っていた。この傷は戒めとして残っていた方がいい。


「いえ、母様が謝ることでは……僕の方こそ、勝手に森に入ってしまってすみませんでした」

「……それについてはもういいわ。今はユウリちゃんが無事で十分よ。今はゆっくり休みなさい」


 リュカはそう言って部屋を出ていく。

 俺はリュカが部屋を出ていくのを見送り、天井に視線を戻して昨日の事を振り返る。

 昨日の一件、右腕だけでなく危うく自分の命すらも失いかけた。しかし、代わりに得られた経験は大きい。実戦の恐怖と痛み、それを乗り越える強い意志。俺が今まで持ちえなかった心の強さ。それが得られたことが一番の収穫だ。

 それに神から貰った力、俺の魔法は確かに強力だ。だが、無敵じゃない。それが分かった事も、収穫の一つだろう。既に、課題も浮き彫りになっている。


 俺の魔法は、あまりに遅い。


 魔法を詠唱して放つまでに時間がかかり過ぎる。先の戦いのように、敵の数が多い場合、敵の攻撃を引き受ける盾が居ない場合、魔法の詠唱が長すぎて発動する前に邪魔をされて、ろくに扱う事が出来なかった。

 リュカが見せた魔法。詠唱もせず、一度に何発もの魔法を同時に展開して見せた。あれを出来るようになれば、魔法の弱点はなくなる。

 強力な魔法を覚えるのも良いが、まずは今扱える魔法をとことんまで極める事の方が重要だ。


「詠唱をしない魔法の使い方は、母様に教えてもらいましょうか」


 そういえば、狼と戦う時に不思議な事が一つ起こった。武器が欲しいと考えた時、あるはずのない短剣が何時の間にか俺の手に握られていた。

 あの時はそれどころじゃなかったから、深くは考えなかったが、あれも俺の力なのだろうか。もしそうだとするなら、武器を創り出す力ってところか。


「試してみるか」


 俺はベッドから出ると、目を瞑り頭の中にイメージを思い浮かべる。

 最初なので簡単な剣だ。ドラゴンキラー的な、ドラゴンスレイヤー的な大剣。

 すると、目の前からゴトリという音が聞こえてくる。目を開けると、床には一振りの大剣が転がっていた。


「おお、できた! けど、かなり不細工」


 創造した大剣は刀身に比べて持ち手部分が短かったり、刀身部が軽く曲がっていたりと、到底使えるものではなかった。


「これは、要練習かな……あ、重い、持ち上がらない」


 邪魔になるので端に持っていこうとしたが、四歳児の力では大剣を持ち上げるのは無理だった。持ち上げられないのなら、引きずろうかと思ったがそれもできない。

 といっても、このままにするのも邪魔だし、誰かに見られでもすれば言い訳に困る。


「どうにかして、消せないかな」


 と考えていると、剣は粒子状になって空中に霧散する。

 作ったり消したりは自由自在らしい。便利ではあるが慣れないと扱いが難しいな。

 武器以外もいけるのではないかと思い、ためしに頭の中に紙切れを一枚思い浮かべる。すると、先ほどと同様に何も書かれていたい白い用紙が一枚、頭上からひらひらと舞い落ちてくる。


「武器を創る能力というよりは、想像したものを創造する能力か」


 これはまた、随分と強力な能力を授かったものだ。この能力に名を付けるとするなら『想像と創造(イメージメーカー)』ってところだ。しかし、創造したいものを正確に想像しなければ、歪な形で創造されてしまう点がこの能力を非常に使いにくくしている。

 もう暫く創造能力の練習をしようと思っていると、部屋のドアがノックされる。


「はい」


 そう返事すると、ドアを少し開けてリュカが顔を覗かせる。


「ねぇユウリちゃん、パーティー行かない?」


 丁度良いから、詠唱をしない魔法を教えてもらおうと口を開く。しかし、俺が言うよりも先に、なんの前置きもなく、にっこりと笑みを浮かべてリュカはそう言った。


「パーティーですか?」


 貴族のパーティー……華やかそうだし、優雅そうで憧れはある。けれど、実際は腹の探り合いとか、政治的な目的で行われてそうで、あまり良い印象を抱けない。

 なぜ、このタイミングでパーティーに誘うのかわからない。


「ええ、そろそろユウリちゃんもそういうのに参加した方がいいかなって思ってね。お友だちとか出来るかもしれないわよ」

「お友だちですか」


 なるほど、なんとなく察しがついた。リュカは俺が森に足を踏み入れたのを、ありまる好奇心のせいだと思っている。だから、同年代の友達を作らせる事で、外への興味を移させようと思っているのだろう。

 しかし、おそらく相手は同じ年、つまり四歳の子供。目線は友達としてというよりは、保育士の先生になってしまいそうで、うまく合わせられるかわからない。


「明日開かれるパーティーの主催者は、ヴァンデルシア家といってね、貴族としては中流にあたる所なんだけど、その家には丁度ユウリちゃんと同じくらいの双子がいるのよ」


 どうしたものかと考えていると、リュカがそう続ける。


「双子ですか」

「そう、男の子と女の子。お友だちと遊ぶ事も同じくらい大切な事なの、良い機会だから、一緒に行かないかしら?」


 そう言うリュカの表情からは、やや心配の色が見てとれる。昨日の一件では俺のやった事は、リュカに多大な心労をかけてしまっている。


「わかりました、そのパーティーに一緒に行きます」


 少しでも安心させてあげる事ができるならと思い、俺はそう返事を返した。


「それじゃあ、まずはドレスコードを用意しなくちゃね!」


 それを聞いて安心したのか、パッと笑顔になったリュカは嬉しそうにそう言った。 

 それから数日して、ドレスの用意が出来たとリュカに言われ、侍女が二人に抱えた俺は大量の服が用意された部屋へと連れていかれた。


「どんなのが似合うかしらね……貴女達はどう思う?」


 老若男女問わず、様々な服が並べられているのを眺めながら、真剣な表情で考えるリュカ。自分では決めきれず、俺をここまで連れてきた侍女にも意見を求める。


「奥様、私はこちらのドレスなど似合うと思います」


 一人の侍女がそう言って手に取ったのは、黒いワンピースのような高級感溢れるドレス。

 いや、それ、女の子用のでしょ。確かに、この顔なら似合うとは思うけれど、貴族のパーティーに女装はどうかと思うよ。


「確かに似合うわね」


 流石に却下だろうと思っていると、リュカが頬を緩めながらそう言う。


「母様」


 予想外の展開に、俺は焦って思わず声を大きくする。


「ユウリちゃん、どうしたの?」


「式典……といいますか、貴族の主催するパーティーなのですから、あまりふざけた衣装は失礼だと思うのです」


 このままでは女装でパーティーに参加する事になる。そう思った俺はリュカにそう言って説得する。


「冗談よ、流石に女装させてパーティーに連れていったりはしないわよ」

「そうですか、良かったです」


 なんだ、冗談かとほっと一安心していると、リュカが侍女の選んだドレスを手に持って。


「それとは別にきっと可愛いと思うから、ちょっと着てみて」


 そう言った。


「……は?」


 一瞬、何を言っているのか理解できず、凍りついたように固まり、ハッと我に返った直後に内心で呟いた。

 それ、今する事じゃなくない?


「貴女達、それをユウリちゃんに着させてあげて」


 今はドレスコードを見繕うのが先だと言おうとしたその前に、リュカが侍女二人にそう指示を出す。


「いや、あの、ちょっと待っ」

「はい!」


 俺の言葉を遮り、そう返事した侍女は、二人がかりで俺を試着室へと連れ込む。


「やめっ、ちょ、本当に待って」

「申し訳ございません、奥様のご命令ですので」


 そう言いながら、嬉々としながら慣れた手つきで俺の来ている服を次々と脱がしていく侍女二人。

 ご命令って言う割には、すごい楽しんでいらっしゃるように見えるんですけども。


「でも、流石にそれは」


「大丈夫です、お坊っちゃまならきっと似合いますから」


「いや、そう言う問題じゃないんですけど」

「この侍女にお任せください。ユウリ様の魅力を存分に引き出してご覧にいれます」

「彼女に任せておけば安心ですよ。なにせ、この道十数年のベテランです」

「何のベテランですか!?」


 話を聞かない侍女に、暴れて抵抗するが四歳児が暴れた所で気にも止めない侍女二人はあっという間に俺にドレスを着せ、更には丁寧に髪まで整えてしまう。


「……本気で暴れたのに、ものともされなかった」


「可愛い! 可愛いわ! この姿を永遠に残せる道具があれば良いのに」


 本気で落ち込む俺を見て、キャーキャーとはしゃぐリュカ。

 この世界にまだ写真が無くて良かったと、心の底から思った。


「そうだわ、画家に絵を残させましょう!」


 いくらなんでも暴走しすぎだよ。


「皆さんの事キライになりますよ」


 俺がそう言った瞬間、時間が止まったかのように三人の動きがピタリと止まる。


「さて、お遊びはおしまいよ。今日中に決めないと明日のパーティーに間に合わないわ」


 先程までの興奮が嘘のように、急に真面目な表情になったリュカが侍女らに指示を出す。 


「お坊っちゃまには、こちらなど似合うと思うのです」

「私としては、こちらの方がユウリ様の魅力を引き立たせるかと」


 慌てて侍女二人が今度はまともな服を持ってくる。


「……」


 恐ろしく早い変わり身だ、俺でなきゃ見逃してたね。

 というか、そんなに嫌われたくなかったのね。今度から、こういう時はこの台詞を使おうかな。


 その後は真面目になった侍女により、無事にドレスコードの用意はできた。


「……あ!」


 しまった、魔法の詠唱破棄について教えてもらえないか頼もうと思っていたのに、すっかり忘れてしまっていた。


「あー、でも……今はいいか」


 今こんな事を言い出せば、またリュカに心配をさせてしまうかもしれない。この一件が落ち着くまでは、しばらく置いておいた方が良いだろう。

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