一齧り
食べることは生きること。騙すことは生きること。殺すことは生きること。そう教えてくれた母を私は食べた。生きるために。
十数年生きてきた中で、一番古い記憶はあの夜のことだ。月に照らされた母の頬がキラキラと輝いていて綺麗だった。
その時の母はぎょろぎょろと辺りを怯えるように見渡し、ブツブツとなにか呟いていた。たしか、「食べることは生きること…殺すことは生きること…」というようなことを言っていたような気がする。よく覚えていない。
母はあの時、私をぎちぎちと強く抱きしめた気がする。よく覚えていない。
母はあの時、右手になにか鋭く煌めく何かを持っていた気がする。よく覚えていない。
母はあの時、ごめんねと小さく呟いていた気がする。よく覚えていない。
私はあの時、母の喉笛を噛み切った気がする。よく覚えていない。
私はあの時、とてもお腹が空いていて、ぺこぺこぺこぺこ。よく覚えていない。
私はあの時、お母さんおいしい。よく覚えていない。
私はあの時、あの時、お母さんに殺されそうになったんだ。そうだそうだそうだそうだママが私を殺そうとした。ママは私を許して許さないの?ごめんなさいおいしい??おいしい!!!!よく覚えていない。
私はあの時、母を食べた。よく覚えている。
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