目の前の意識
眠りという逃げに徹した俺は、体が苦痛を感じるほど眠った。
意識を手放す。考えなくていい、何にも・・・
半分意識があるのかないのか、混濁する脳に身を委ねる。
「・・・うっ・・ん」
そんな逃げも今をもって終わりを告げた。
眠りすぎて頭が痛い。側頭部に釘でも刺さったみたいだ。ズキッズキッする。
まだ眠っていたかったか限界のようだ。意識を覚醒させるために俺は頭を左右に振る。
ぼやけていた視界が段々と鮮明になっていく。
「・・・あん、ここどこだよ。ベット?」
「ベットの上で寝た覚えはないんだかな・・・」
鮮明になった視界は、ベットのシーツをはっきりと認識した。真っ白なベット、どうやらどこかの部屋のようだ。全体的に白っぽいというか白だ。 ポスターや何かを壁に貼ってはいるが清潔感を演出するその部屋は病院の一室のように思うが何か少し違うようだ。
コンコン・・・
リズムよく2回、ドアからノックの音が部屋に響きわたる。
ガチャ、返事がないのでまだ眠っていると思ったのだろう。無防備にドアを開けてノックの人物は部屋に入ってきた。
「おっ、目を覚ましたかぁ。ハッハッ、雨の中倒れていたから肺炎になっていたら大変だったがその様子なら大丈夫かな。」
聞いているか、わからないのか微妙な言い方だ。ドアを屈んで部屋に入ってきた白衣を着た大男は頭を掻きながら苦笑いを浮かべている。体格もいい肩幅を広いだか威圧感というものをまったく感じない不思議な印象を受ける。年は二十代後半といったところか。
こうして、考察している最中でも大男はこちらの様子を困ったようなどうしていいかわからないような表情を浮かべている。
「ご、ごめん。白衣なんか着てるけど僕はあいにくと獣医なんだ。だから人のことはよくわからないんだ。」
視線をきょろきょろさせながら大男は意味のない謝罪をする。人のことは俺もよくわからない、なんて皮肉に思いながら、幸い“力“のお陰なのか病気を患ったことは一度もない。だから大丈夫だろう。
しかし、先ほど感じた違和感の答えはわかった。ここは動物病院だった。
壁のポスターをよく見ると犬や猫のイラストが描かれていて、予防注射を促すようなことが書いてある。
場所の違和感に答えがでたところで大男に話しかける。あちらは沈黙にもう耐えられなさそうだったから。
「体は大丈夫だ」
「あっ、そうかい。それはよかった」
あいにくと敬語を使う気はない。どんな奴でもそれはかわらない。だからといって感謝の気持ちがないわけではない。
大男は特に気にしたことなく、俺に異常がないことにほっとしている。安心から一息ついたのかこちらを初めて真っ直ぐみた。
「自己紹介をしよう。僕は竹宮小一です。ここ小一動物病院で獣医やらせてもらってます」
さっきまでオドオドしていた奴とは思えないハッキリとした自己紹介だった。
よほど獣医であることに誇りをもっているのだろう。この時、初めて俺はこの大男、竹宮小一を意識に入れた。