βテスト 1-6
私達3人はイベント開始後すぐに行動を開始しました。と言うのもあとの方に来た為、内周部にいる人たちが一斉にこちらへ移動を開始すると速く動いておかないと踏み潰されそうなので……。
「うっし、んじゃまあ対象はアリなんだし、適当に歩いてりゃ見つかるだろう。とはいえ、このまま大平原にいても他のプレイヤーとの取り合いになりかねないよな?だから俺達はくるときに見かけた森に言ったらどうかと思う」
「そうね。たしかに取り合いになっていざこざに巻き込まれるのはごめんだから、私もヘルガの意見に賛成するわ。ただ森の中だと私の魔法の影響範囲に問題が……」
「そこは完璧な作戦を考えてある!任せてくれ!」
ヘルガさんは自信満々なようなので私はミヤと顔を見合わせ苦笑しながらもヘルガについていくのだった。そして森に着くとその作戦と言うのを語り始めたヘルガさん。
「森の中にいるアリ共を森の外におびき出しそこへミヤが魔法を打ち込めばいい。簡単だろう?」
「……まあやってみましょう?」
「そうですね。それじゃあ私も森の中に入りますね」
「あ、レイカさん少し待ってくれ!釣りの時の注意を知っているかい?」
「え?モンスターを指定地点に連れてくるだけじゃなかったんですか?」
「あぁ、そうなんだが少し考えてみてくれ。二人が時間差で大量のモンスターを連れてきた時、片方の分を倒していない状態で合流してしまい、ミヤが魔法で倒しきれなかった場合どうなると思う?」
なるほど……そういうことですか。
「アリの攻撃対象がミヤに向かいますね。もしくはミヤの魔力の枯渇……」
「その通りだ。そうなると?」
「ミヤが死んだらこの作戦は失敗になってしまいます」
「正解だ。だから俺達はチャットで状況を伝え合いながら行動をする必要があるんだ」
「なるほどです。わかりました。それなら最初はヘルガさんがやってください。それを終わらせた後に私がモンスターを連れて行きますので」
「そうしてくれると助かる。いまやレイカさんのほうが体格値や敏捷値が高いからね、仮に俺が死んでも戻ってくるまで狩りを続けられるだろう?」
「まあ、たぶん……?」
流れを一通り決めたところで私とヘルガさんは森の中でそれぞれ別の方向へ散っていく。同じ方向で集める必要性もないからです。
森の中を移動し始めてすぐ探す必要もないほど楽に討伐対象であるフューリーアントがウジャウジャと闊歩しているのを見つけたので、ヘルガさんへ連絡してみると、ヘルガさんの方も同じように大量にアリを見つけたようで打ち合わせどおり釣っていくと言ってました。
「となると少し時間あるし、私の武器で攻撃が通るかくらい確認しておこうっと」
一番身近にいたアリに対して剣を振りぬくと硬そうな殻に見えたその外殻をあっさりと切り裂くことができ少々驚きました。でもまあ、虫と言うのは基本的に生命力が高い生き物ですから真っ二つにしても死なないのです。このアリも体力がまだ残っていますが移動ができないので、攻撃を加えた私に対して酸を飛ばす攻撃をしてきます。
酸の攻撃を避けるとジュワッ!と言う音とともに酸の触れたフィールドが煙をあげています。
「ひゃぁ……こんな攻撃食らったら大変!……ミヤさんがちゃんと一撃で倒してくれるといいな……」
そう思いながら連絡が来るまで適度にアリを間引いておくことにするのでした。
ところ変わって大量のアリを見つけて打撃を加え15体ほどアリを引き連れたヘルガはというと、必死の形相でミヤの待つ森の外へ急いでいた。
「やや、やっべぇ!2回ダメージ食らっただけで残り体力30しかない!オークなんざ目じゃねえ攻撃力」
ヘルガは自分に注意を引くためアリに対して攻撃を加え、手痛い反撃を食らっていたのである。奇しくもレイカが避けた酸による攻撃もあった。
比較的森の外に近い所でアリたちを釣ってきたので、森の外には簡単に出ることができた。
「あら?たったそれだけしか連れてこれなかったの?」
「いや!無茶言うな!。この装甲は柔らかいけど攻撃力が半端ないんだって!」
「そうなの?……まあいいわとりあえず小範囲の魔法撃つから10カウント後にステップで回避してね?」
「了解だ。取りこぼしに注意しろよ?」
言葉の後ミヤは魔法を詠唱開始、宣言どおり10カウント後にアリがまとまっていた辺りにドーム状の爆発が起きた。この爆発によりありの3/5は倒すことができたようだが残ったアリがミヤに向かって反撃をするべく歩いていく。
「えぇ!?この魔法じゃ倒せないの?レイカに貰った装備のおかげで大分攻撃力上がってるのに!」
「おい!ミヤ。つべこべ言ってないでとりあえず逃げろ。残ったのは俺が始末する!」
ミヤが逃げ回り、それを追いかけているアリの背後からヘルガがサクッと剣で片付けていく。
「ミヤ、思ったより大変そうだから次のあのくらいの数でいいよな?」
「……そうね。私も自分の魔法を過信していたみたい。ちょっとスキルの付け替えするわね」
「え?このタイミングでか?何を変えるって言うんだ?」
「私の持っている火と風魔法のうちの風魔法を詠唱時間短縮に付け替えるわ。虫相手なら水か火の方がいいと思うから」
「レイカさんに言って始めは少数のアリを連れて来てもらいスキル上げを目的にしよう。そのほうが後々役に立つかもしれないしな」
「そうね。私からレイカにお願いしておくわ。ヘルガは次のお願い」
「あいよ」
ヘルガさんとの連絡から大体5分後にミヤから連絡が来ました。内容は思ったより自分の魔法の威力が低かったので大量につれてくるのは止めてほしいとの事。
「ふーん。じゃあこの位で良いのかな?」
私の目の前には10体のアリの姿。ちなみにもともとは30体くらいいましたけど、間引いてる間に減ってしまったので。というのもですね?このアリの殻の内側についている薄皮が服の素材になりそうなのですよね!そう考えるとついつい間引きすぎちゃいまして……。でもミヤは多いようなら減らしてきてほしいといっていたので結果オーライです。
こうして私は少しだけアリを連れてミヤさんの所へ戻ると、これでも多いといわれてしまいました。
ですがミヤの魔法で一撃で全部倒せていたので良いのではないでしょうか?
この時ミヤはなぜか一回目より魔法の威力が上がっていることを不思議がっていましたがどうしたんでしょうね?
それにしてもやっぱり範囲魔法ってすごいですよねぇ。数が多くても発動すれば纏めて大ダメージを与えられる。アリに関して言えば確殺らしいです。
すぐあとにヘルガさんもアリを連れて戻ってきます。それも一撃で倒すのを見届け森に入っていくということを徐々に数を増やしながら何度も繰り返しました。
そしてその日の17時になったとき、システムメッセージが届きました。
《ただいまの時間をもちまして2万体目のフューリーアントの討伐が確認されました。間もなくボス:クインアントが出現しますので、プレイヤーの皆様は振るってご参加いただくようお願いしたします》
「おいおい、次はボス戦かよ。勘弁してくれよな」
「あー、わたしももう魔法撃ちたくないわ!」
二人はもうお疲れのようです。そりゃそうでしょう。最後の方はあり私とヘルガさんの釣ったアリが合流して100体超えて増したもんね。それを必死に魔法で倒すミヤもお疲れになってもしょうがないです。かく言う私ももう動きたくありません。
「ミヤにヘルガさん。私はもう疲れたのでボスは他の人に任せて街に戻ろうかと思いますがお二人はどうするんですか?」
「俺は一応ボスを見に行くことにするよ」
「私もヘルガについていくわ。そういうわけだからここでお別れかしら?」
「そうですね。たった2日だけでしたけど楽しかったです」
「それじゃあ次は正式版でかな?」
「えっ?私はこのβテストだけで終わりですよ」
「えぇ!?そうなの?なんでなんで?」
私がβテスト終了後しばらく後に開始される正式サービスに参加しないことを告げると二人は激しく食いついてきたのです。
なので簡単に事情を話し、父親に頼まれてβテストに参加したことを告げると二人は「もったいない」といったきり口をつぐみました。
それで会話が終わるかと思いきや二人は説得を試みてきました。
「でももしかしたら暇つぶしででも来るかもしれないじゃない?」
「うーん、その確率は低いと思います」
「この世界なら好きな裁縫を思う存分できるよ?」
「そ、それは少し……いえ凄く魅力的ですね」
「正式版は体感時間が延びるとかで、現実では少ししか時間がなくても楽しめるようになってるんだよ?」
「……」
「魔法も使えるんだよ?正式版ではβで使うことができなかったたくさんのスキルがあるんだよ?」
「うぅ……」
「他にも……」
「あぁ~もう分かりました!正式版に参加しますから!」
「「そうこなくっちゃね!!」」
ということで私は二人の説得に負け、正式サービスもプレイする事となりました。次回会うのは正式サービス初日に始めの街の宿屋ということになりました。
二人は名前は変えないつもりだからレイカもできれば変えないでねと念押しをされその後二人はボス戦へ行くのでその場で別れました。
街に戻った私は持っていた素材を使いきる勢いでアリの内皮を使いインナーを作成。虫の皮を使った下着なんて気持ち悪いですか?現実世界では確かに忌避観がありますが、こういうことができるのは面白いと思いますよ。
なお素材を使いきることはできましたがお金は使い切れませんでした。まあその辺は基本的にリセットされますしいいですよね。さて今日でβテストはおしまい。パパに報告して寝よっと。