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新生活と出会い 4

 ヴゥーンヴヴヴヴヴッ!


 私達の後ろから迫るたくさんの羽音。ここは第6の街インカロードにある迷宮。街の中にありながらも全体的な層の数は公表されていない未開のダンジョンです。

 私とナナの二人は、その迷宮の第三層目において普通ならこのような低層で会わないはずのボスモンスターとその配下達に追われていたりします。


 「もう後ろに来てるわよ!上に戻る階段まで急いでー!」

 「それ、レイカちゃんが言って良いことじゃなぁーーい!」


 私達が現在このような目にあっているのは他でもありません。どこかの誰かが作ったアイテムのせいなんです。全く、こんな恐ろしいアイテムを作った人を絶対に許したりしないんだからっ!




 先日の狩りで1次職(基本職)のベースレベルが49となり、あと一つレベルアップすればDCO史上、2人目のオーラとなるナナの追い込みのためにこのダンジョンを選んだのです。

 最初こそ、一番弱い部類となる一層目で順調に狩りをしていたのですけど、この一層では経験値上昇率がわずかと言うことに気付き、どんどん強くなっていくモンスターたちを相手にしながら二層、三層と順調に降りて行きました。


 「敵が強い割に経験値が少ないよね。代わりに素材と宝物庫がたくさんあってお金には困らなくなりそうだけど……」

 「事前情報によると人によっては恐ろしい量の経験値を得たって言う話だったんだけど、ガセだったのかしら?」

 「私もその情報見たよ~。でも各層に出るボスモンスターを倒しても大量と言えるほど経験値は入ってないよね?」


 一層のボスはキメラ。有名な獅子の体に蛇の尻尾と翼の生えたものではなく、昆虫ベースに馬の頭と魚の尻尾と言った具合だったとだけ言っておきましょうか。合成魔獣とかいてキメラと呼ぶのですから間違ってはいないはずですよね。……釈然とはしませんが……。


 二層はサンドゴーレム。サンドという名に惑わされないで欲しいです。グリーティアやヴェスピスの鉱山いるロックゴーレムなどとは比べ物にならない強さなんですからね?

 通常時は基本的に物理無効で、魔法・属性攻撃しか効かないんですから。水魔法使いがいればその物理無効化を一時的に解除できるようですけど残念ながら私が持っているのは風塵魔法しかありませんでしたので結構苦労しました。一応私にも水属性の攻撃方法は表示されているのです。

 ですが私は【爆発魔】の特性のおかげで帯術で習得した水属性の技【絶波打】を封印され使用する事はできません。それに気付いた私はショックで暫く呆けてしまい、そこを何処かの誰かにSSを撮られ掲示板を騒がせる事になったんです。

 ちなみにナナの仕事はサンドゴーレムのターゲットを引く役目ですね。挑発スキルがここで凄く役に立ってましたよ。



 ということで三層目に来た私達なのですが、この層でも敵の強さの割に取得経験値が芳しくて困っていると言う次第です。


 「この様子じゃ今日中にオーラは無理そうだよね」

 「そうかも……一応、経験値稼ぎが出来るようなら使おうと思ってコレを持ってきたけどこの様子じゃ使ってもダメかな」

 「ん~?何か良いもの持って来てたの?」

 「えぇ、モンスター呼び寄せの効果をもつお香アイテムを幾つかね?」

 「なーるほど~。その手があったかぁ。……ってか、そんなアイテムあるなら私に売ってよ~!そうすれば今頃オーラだったかもしれないのに!」

 「このアイテムを作ったのが前過ぎて存在を忘れていたのよ。あとは……そうね、装備すると一定期間モンスターに狙われ続ける鎧とかもあるし……地獄の王を呼ぶお香もあるわね」

 「レイカちゃん、後のほうに言ったアイテム、凄い物騒だね。そんな物持ってこないでよ……」

 「あはは。だーいじょうぶよ。深層から出現し始めると言うアイテムボックス内のアイテムばら撒きとか破壊とかのトラップに引っかからない限り、使う事なんて無いもの……」

 「そうだよね。うん、何かフラグっぽい物がたった気がするけど気のせいだよね!」

 「気のせいに決まってるじゃない。ナナは心配性ね」



 話しながら三層の中央部へ到達。ここまでの敵はアンデットの魔法使いの代表格のリッチだとか、ナイトメアフェアリーなどという口が大きく裂け邪悪な顔をした妖精モンスターの相手など、二層までと違い闇属性モンスターが多く凶悪な攻撃を仕掛けてくるヤツが増えています。

 眠らされたところにナイトメアを食らうと言う恐ろしい攻撃(過去に自分も良くやっていたのを棚に上げて)に毒を吐いたりしました。


 あらかたモンスターを倒し終え、さらに三層の奥へ進もうとするとアラ不思議……。足元になにやらカチッとした感触が……。


 「ねぇ、ナナ?私、いま何か踏んだ気がするのだけど、気のせい……よね?」

 「……レイカちゃん。とりあえず足をどけてみたら良いんじゃないかな?もしかしたら定番の毒の矢が飛んでくるだけで済むかもしれないし……」

 「分かったわ……ねぇ、ナナ。さっきまでベッタリくっ付いていたのに、どうしてそんなに離れた場所に移動しているのかしら?」

 「えっ?えっとー、巻き込まれないため……かなぁ?」

 「私は今、親友に裏切られた気分よ。凄く悲しいわ……」

 「そそ、そんなことないよ?私はいつだってレイカちゃんの味方だもん!」

 「そんな離れた所から言われても信用できないってば……」

 「そ、それにほら。私もうすぐオーラになるからデスペナルティ食らっちゃったらその分オーラが遠のいちゃうから……あー残念だなぁ。オーラに成ってさえいれば一緒に罠にかかれたのに~(棒)」

 「くっ、ナナ、。あとで覚えてなさいよ?」

 「ふっふっふー。私は自分にとって都合の悪い事は3歩くらい歩けば忘れられるのです!」


 自慢にならないよねそれ。そう思いつつ、私は逃げる心構えと覚悟を決め足をどける。同時に罠が発動した……。


 ニュルンッ!ニチャニチャ!


 「ちょ!?えぇ!?そういう展開なのぉぉ!!」



 足をどけた場所から数十本もの触手が派生し、罠にかかった者のアイテムの半分を破壊するべく、ウネウネとした触手が私の胸元……などではなく腰周りにある不可視のアイテムボックス内に侵入していく。

 そして触手が次々と取り出したものの中には、先ほど説明したお香各種が掴まれていました。


 「……ナナ!二層に向かって逃げるわよ!」

 「レイカちゃんの触手プレイが見れると思ったのに残念……」

 「何言ってるのよ、バカァ!全年齢対象のゲームにそんな展開があるわけないでしょ。それより早くっ!」



 ウネウネと動いている触手を残念そうに見ているナナに声をかけ、急いで走る。

私達が走り出すと同時に後方からパリーンパリーン……ボフンッモワモワモワーと言うような効果音が聞こえました。恐ろしい事に触手に盗られたアイテムの中には、《魔王蠅の霧香ベルゼブブ・ミスト》という、恐るべきアイテムがあるのですから。


 簡単に効果をおさらいしますと、とある場所で使用すると稀に蠅の王を呼び出す事ができると言うお香。さらには虫・機械系モンスター以外との戦闘不可です。戦闘不可というか述べた種族以外はお香の効果により寄ってこなくなるから。

 そのとある場所と言うのが何を隠そうダンジョンと言うわけですね。ですが普通に使用した場合でもヘルフライというモンスターが数体現れる程度。このヘルフライは暗い場所での行動速度が2倍と言う悪質な力を持っており、ターゲットされたが最後、死ぬか倒すか別マップに逃げるかをしないと振り切ることは出来ないのです。


 だけど、今回のように罠にかかって自動使用された場合、高確率で本来の効果が発揮される。今の場合は蠅の王を呼ばれる事と同義です。ヘルフライの体は赤。そして蠅の王ベルゼブブは紫の体をしているので違いは一目瞭然です。逃げる際に後ろを見たら煙の場所にはチラッとですけど紫色の体が見えました。

 同時に、今まで戦ったボスとは比べ物にならない重圧を感じます。断言しましょう。戦えばほぼ即死します。


 罠にかかった部屋から出ると同時に、ベルゼブブやその特殊能力で呼び出された大量のヘルフライが必死に逃げる私達に気付き、追いかけてきたということで冒頭に戻ります。





 「もうすぐ二層への階段よ!私が1秒でも多く足止めするからナナは気にせず上に戻りなさい!オーラになりたいんでしょ!」

 「でも、そんなことしたらレイカちゃんが……」

 「気にしないでって言ったでしょう?私がやられてもナナほど損害はないわ」

 「……ごめんね!レイカちゃん」

 「そこは謝る所じゃないわよね?」

 「うん、ありがとうだよね。この埋め合わせは必ずするからね」

 「今までどおりにしてくれれば埋め合わせなんてしなくても良いわよ……!蠅たちがきたわ。ナナ行って!」


 目の前に見える二層への階段を上っていくナナを見送り、せめて一太刀……もとい帯での一撃を与えるべく構えてみた物の何かに掠った様な感覚の後、私の体は粒子となり砕け散ったのでした。

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