私達の戦いはこれからだ(笑) 10
インスタンス第一層は遺跡型。石造りの壁や柱が多く点在し、狭い通路と広い部屋で成っており、今回のレイドのような大人数では移動にかなり不便です。
「第一班・三班前衛・斥候組は先行して安全の確保をお願いします。第二・四班の回復・後衛組(私達)は一斑・三班から遅れないように進軍してください」
シュリの指示が次々と飛ぶことで後衛組みは無傷で進む事ができました。自分達ばかり安全で悪いんじゃないか?私達は回復も担当する後衛ですよ?そんなのが敵の群れに囲まれでもしたらPT壊滅しちゃうじゃないですか。傷つくのは前衛の人で良いんです。そもそも、その前衛の皆だって私やシュリから回復魔法が飛ぶと喜んでましたしね?回復魔法の偉大さが分かってもらえますか?
「レイカさん!回復ヨロでーす!」
「いや、俺が先だ!体力がもうないんで頼むよ」
……でもやっぱり私に回復を頼む人が多すぎる気がします……。何で態々私のいる所まで下がってくるのよ!?特に2番目のアナタ!最前線に組まれたメンバーでしょ?そっちは男性の水の魔法使いがいたはずなんだから、彼に治してもらってよ。
「光よ。我らを癒し給え!【ヒーリングシャワー】」かける3。
前衛の負傷したクラスメイトの何人かが態々後ろに下がってきて戦線がおかしくなるという理由から、私は後方から中衛に移動することになりましたよ。私の安全地帯が……。
相変わらず私のスキルによる魔力回復速度が半端ないので(他のマジシャン職たちも知識系スキルを持っていますが未だに20台とかだそうです。私のカンストどころか上位進化が早すぎるんですね。ここで初めて知りました)私が中衛にいることで回復が安定し、大きな問題も起きなくなったみたい。
そんな感じで一層目を15分ほど掛けて踏破し第二層へ。第二層は大草原。広々としており見通しが良く、敵からの奇襲確率が低い為ラッキーステージとも言われている。
この層は斥候職が大活躍でした。こういう広いマップでは彼らのスキル遠くを見る【鷹の目】や敵勢力を発見する【ワシの目】を駆使する事ができるから。別のPTになってますがユキムラもこの草原でレベル上げしたいとか言っていたみたい。まあそれほど彼らにとっては利しかないマップだという事。
そんなこんなで第二層も特に問題らしい問題もなくクリアし第三層へ。
第三層はまたしても遺跡。降りてマップを確認した瞬間、私はまた中衛にされてしまいました。べ、別にイヤとはいいませんけど、当然のように中衛にしないで欲しいとも思う。せっかくPTを組んでもナナたちと話も出来ないもの。PTチャット?ありますけど、回復希望者が多いのでまともに返事なんて出来ませんよ。
遺跡型はすでに一層で体験済みのため、皆は落ち着いた行動をし、無事第四層への入り口を見つけるところまで来る事ができました。しかし、その四層の前には大きな赤い蜥蜴が2匹!
「マジか。レッドドラゴン……」
「すげぇ!さすが、ゲームだな。迫力感じる!」
「やるぜぇ~?超殺るぜぇぇぇ!?」
男子連中は幾つになってもこういった物が好きなんですね。でも、2匹もいるんですよ?敵の強さは分かりませんけど、普通こう言う大きな生物見たら逃げるんじゃ?
「皆、聞いて。次の層に行くにはあのレッドドラゴンを倒さないとダメみたい。第一斑とニ班で1体、三班と四班で残りの1体を担当してください。水魔法使いの方は攻撃をメインに、火の魔法使いの方は……臨機応変に動いてください」
「ゲンパクぅ~。ここはワイの方が活躍できそうやなぁ?おとなしゅう他のヤツラの補助でもしとき!」
「くっ、しょうがない。ここはヴォルト君に譲るよ。…レッドドラゴンでさえなければ俺の魔法で片付けてやれたのに!」
ゲンパクとヴォルト(もう呼び捨てで良いよね)は、先ほど決めた貢献度勝負のポイント稼ぎに必死。
ゲンパクは前衛陣に腕力上昇系の補助魔法をかけていく。ヴォルトは……宣言どおり前衛に混じって雷遁魔法を使ってますね……ってなんで前衛と一緒に!?
「くらいやがりゃああぁぁ!【豪雷】ぃぃ!」
レッドドラゴンに特大の雷が落ち体力を5%ほど削る。今回対峙しているレッドドラゴンの体力バーは1本しかないので、5%削っているのは地味に凄い事。しかし与えるダメージが大きい=モンスターのヘイトを稼ぐという事。
レッドドラゴンは今まで相手にしていた前衛からターゲットを外し、ヴォルトへ向けた。
「おひぃ!?ヤバいでヤバいでぇ~!?前衛~ちゃんと仕事せいやぁ~」
「ヴォルトォ!お前がターゲット安定してないうちに攻撃したからじゃ!責任持ってソイツの相手しろバカが!」
「な、なんやってぇぇ!むり!無理やぁぁ。死ぬ死ぬぅ~!」
レッドドラゴンはドスドスを足を踏み鳴らしながらヴォルトを追い掛け回し、時折ブレスなどを吐き、ヴォルトの体力を大きく削っていく。魔法職なのにドラゴンのブレスで死なない事がすごいわね。
なんてことを思いました……って言ってる場合じゃないですよね。
レッドドラゴンの攻撃を受けた皆の体力の減少具合を見る限り、レッドドラゴンは爪の攻撃力はそれなりに高いけど、ブレスなどは強くないってことが分かりました。ようするに見せ掛けだけのレッドドラゴンのようです。
私の魔力は回復を担当しているにもかかわらずまだ8割以上残っていますし、動かなければ魔力はどんどん回復するスキルもあります。レッドドラゴンとの距離は結構離れてますから、数回は魔法攻撃を当てる余裕もありそうですね。という事で……自重なしで超本気で魔法使ってしまいましょうか!
私自身は覚えてる魔法しか使えませんけど、この魔法なら……
「気紛れな風の精霊よ。我の呼びかけに応じ姿を現せ!【シルフスクリーム】!」
描写的には2度目の登場ですね。この魔法は精霊を呼び出し、自分の属性の魔法をランダムで発動するという魔法。
現れた風精霊はフヨフヨと私の周りを回った後、以前と同じくレッドドラゴンを睨みつけました。風精霊がなにやら口を動かすような動きをすると、空というか遺跡の天井が割れるエフェクトが起き、何か見えないものがレッドドラゴンを押し潰します。この魔法の名前は【エアプレッシャー】というもので、風塵魔法の最高峰の魔法です。
「ギャボォォォ!」
見えない風の塊に肉体を押し潰されヘチャげたレッドドラゴンは苦しそうにしています。ちなみに与えたダメージは72%…与えすぎです。さらに状態異常、骨折が発動しているので流石にドラゴンとはいえ行動は出来ないみたいです。ダメージを確認した私は発動した魔法の威力に呆気に取られているレイドメンバーに向かってお願い?をしておく。
「えっと、もう動けないみたいですから止めをお願いしますね?」
その声で我に返ったらしく、前衛組は残ったレッドドラゴンの体力を削りきったのでした。
……え?ヴォルト?どなたでしたっけ?それらしき姿は……みえませんね。
「ちょいまちぃやぁ!!ここにおるでぇ~」
レッドドラゴンが破壊したオブジェクトの下に埋もれていたヴォルト。破壊されたオブジェクトはプレイヤーが手を触れれば消えるので、出てくる事に支障は無い。見たところ体力も自分で回復したみたいだし。
「ちぇっ、死ねばすればよかったのに!」
ゲンパク君の言葉が聞こえましたが何も聞いてませんよ!何気にこのクラス、口の悪い男子多いのよね。人の事いえないけど。
もう一方のレッドドラゴンはといいますと、ナナが無双してました。ナナって一応まだ初期職業のファイターなんだけどなぁ。転職済みの皆より強いってどういうこと?
「てぇええいやーーー」
ナナの体術スキルの背負い投げがレッドドラゴンに炸裂します。あの大きな巨体を背負うナナがすごいというべきなんでしょうか?ゲームだからその辺は関係ない?
背中から地面に叩きつけられたレッドドラゴンは苦悶の声を上げ、ビクンビクンッと痙攣している。
投げ技にはスタンや麻痺を引き起こす技が多めに設定されているので今回もそれが発動した物と思われます。
「つむ……じゃなくてナナ、すげぇ……」
「理不尽だ……俺の攻撃レッドドラゴンにあんまり通ってなかったのに」
「俺も投げられたい……」
「えっ!?」
「いや、独り言だ……ちょっと願望が洩れただけだから気にしないでくれ」
「いや、超気になるからな?」
そんな会話がされているとは知らないナナは麻痺に陥ったレッドドラゴンに対して遠慮なく攻撃を加えていく。端から見たら弱い物いじめにしか見えませんね。
「ナナ~。皆引いてるわよ?」
「えっ!?えっ?なんで??」
「そりゃあ、レッドドラゴンを一人でボコボコにしてるからじゃないの?」
「がーん!?」
なお、私のナナに向けたこの言葉に対してクラスメイトが思った事は「貴女も同じだからな!?」だったらしいですね。失礼な!私は精霊を呼んだだけで、実際にあの効果の魔法を使ったのはあの精霊ですよ!
(例え運が高すぎるせいで、最高の魔法が選ばれていたとしても!)
ナナの独壇場も終わりを告げ、ある程度レッドドラゴンの体力が減ったところでナナは後方に下がり、後の処理はクラスメイトに任せる事にした。
「ふぅ~、大きいモンスターの相手って楽しいよね!」
「そうかしら?そう思うのはナナくらいじゃないかしら」
「そ、そうかなぁ?レイカちゃんもあっちに行ってれば同じ事思ったんじゃないかなぁ」
「行きたくもないわよ、そんな怖そうな場所なんか」
「あはは~。私もゲームなら良いけど、二度目は勘弁して欲しいかなぁ……」
レッドドラゴンとの戦闘が終わり、ドロップアイテムの確認をすると、以前アースドラゴンベビーの時と同様に竜のウロコなどの素材が手に入っていた。他にも極めてレアな素材が手に入っていますがそれは清算時に教えるとしまして、今はまず先へ進む事にしましょう。
第四層は森。ここは獣型の上位である魔獣型モンスターが多く出現し、慣れるまで多少時間がかかりました。ここはヒナが大活躍でした。ヒナの種族は亜人族・妖精。特性は森の加護。
効果は森の中で行動時にはスキルに補正が掛かる。森の加護もちはヒナとあと一人キツナ君という子がいましてこの二人が前半後半を受け持つ事で、魔獣たちの奇襲があっても誰一人かけることなく抜けることが出来た。
続けて第五層。ここまでの所要時間は1時間20分。ソロだとこの層辺りまでしかこれないみたいだけどソロであの三層を抜けれる人は居るのかしら?私やナナならできますよ?
最近アキラさんとかの話を聞かないけど、攻略組はどうしてるのかなぁ。イベントが終わったら情報集めしてみようかな?
この第五層は洞窟型。暗がりから不死モンスターや悪魔系モンスターが出てくる所でしたが、各PTにいるプリーストたちが職業特性の退魔効果を使い、ここも苦労することなく抜けることができました。
そして第六層。鉱山型で亜人モンスターや無機物・機械族モンスターが多く出現しました。
亜人モンスターとは良く聞くゴブリンやコボルト、オークなどの事。無機物とはゴーレムなどの自然物がモンスター化したもの。機械族は文字通りメカメカした姿のモンスターですね。
亜人族に対しては普通どおり攻撃を、無機物には水・風魔法が弱点となりやすいのでその編成で。機械族は遺憾ながら火炎などの熱や雷に弱く、ゲンパクとヴォルトの二人が狂喜乱舞していました。
第七層。ここまでで1時間50分経過。何層まであるのか分かりませんが一番奥にいるボスの部屋に着かないと後10分で排出されてしまいます。
「みんな!もう時間がないわ!道中のモンスターからの攻撃はポーションで対応して!ボスまでたどり着けたら後衛メンバーの持つ回復アイテムを配ります!」
第七層は、ただひたすらまっすぐに続く石造りの通路。一番奥へ到着するとそこには大きな扉が一つ。
「ボスの部屋のようね。みんなボスの部屋に入らないとカウントが消えないから急いで入って!」
シュリの指示に皆がボス部屋?へ入っていく。もちろん私も押されるように入りました。そのときお尻を触られたような気が?犯人については追々調べるとしまして、前を見るとそこにいたのは……。




