1周年イベントと…… ⑬
「さて……と、まずはどうしてあげようかしら?」
夢幻の邪神王の頭部の前に出る私は呟く。戦闘中にナナから頭部の攻撃パターンを教えてもらい、倒す為の手段は考えておいたんですけど、どうやって演出して倒すかを考えていなかったのです。
「レイカちゃん。アレ使ってさっさと倒しちゃおうよ」
「アレを使うには早すぎないかしら?」
ナナはもう夢幻の邪神王の頭部の相手をしたくないらしく早期決着を求めているようです。でも私はまだこの頭部と戦ってないし……うーん。
数秒悩んだ結果私としてはもう少し戦ってからアレをお披露目する事に決めました。
だってナナ以外のギルドの皆には初披露となりますから、それなりに驚いてもらいたいですし。
このダンジョンで取れた素材をふんだんに使用して作った新装備を取り出しつつ、その事をナナに伝えると「しょうがないなぁ。ならレイカちゃんの希望に沿うように動くね」という返事が戻ってきました。ほんとにナナは私のことをよく考えてくれているわ。
「れ、レイカさん。あまり前に出すぎるとあぶなっ……あぁっ!!?」
頭部からの攻撃に耐えていたスミナが叫ぶ。例の飲み込み攻撃をするため頭部から伸びた舌が私の体に巻きつき、私のアバターは頭部に引き寄せられていく。そして大きく開いた口の中へ……
なんてね。この私が大人しく飲み込まれると思っているのかしら?
「【悪魔化】:【業風の魔】!」
私がまず一つ目の手札を切る。叫ぶと同時に私の体が風属性を示す緑へ変わり、お飾り程度についていたツバサが大きく成長する。そしてその大きくなったツバサが巻きついていた舌を徐々に緩めていく。
抜け出せるほど緩くなった締め付けから私は素早く飛び出し、そのまま中に浮遊した。
この形態は風属性に特化した闘いができるのですが他の属性魔法が使えなくなります。
要するに今の状態だと天光魔法による回復行動は出来ないのです。まあその代わりステータスの素敏捷値が2倍になったので、頭部が繰り出す攻撃に当たるとは思えませんけどね。
「うっそぉ、レイカさんが……飛んでるぅぅ!?」
「(うっとりしながら)すごい……さすがレイカさまですわ……」
「あかん!下からやとみえてまうって!」
「ウサミ……何で関西弁になってるのよ。だけど残念ね。去年のあの事件の後からシステムによって保護されてるので見えませんよ」
外野……とまでは言いませんがナナの指示の元、私が暴れるにあたり巻き添えを食らっては大変なので戦線から少し離れた位置に移動してもらったギルメン達が驚きの声と共に少し対応に困る反応を示した。
巻き込まれても良いと言う人がいるなら一緒に戦っても良いのですけど、私を微妙に神格化しているコノハですら、私の行動を見たいが為に離れています。あとまた様付けしたわね?
彼女たちが驚いているのは私が飛んでいるから。
このDCOでは飛行するにはワイヴァーンや鳥などの空を飛ぶことが出来るモンスターをテイムしてそれに騎乗するのが普通。まあそれらをテイムしたとしても騎乗系のスキルのレベルとモンスターとの相性がよくないと飛べないんですけどね。
……ナナの場合はまあ別かな?あの子竜は最初からナナになついてたし。
しかし実はこの飛行にはタネがあったりします。
この悪魔化の業風の魔形態に初めてなった時ふと考えました。ツバサが大きくなったのを見て、風属性の魔法を纏えば飛べないかな?と。
ナナ監修の元それを何度か練習した結果、戦闘と並行して制御できる程度にはなったというわけ。でもまだボス戦で使えるかというと微妙なので、今回は舌から抜け出す為の手段として使用したわけです。
「まずはこの状態で相手してあげるわ。かかってらっしゃい」
『グガアァァァ!』
私の挑発を受けたかどうかは知りませんが夢幻の邪神王は今までにない速さの突進攻撃を仕掛けてきました。しかも突進に回転をつけているので当たった場合ダメージがすごいことになりそうです。
「あら?まあまあ速いのね。でもそれじゃ避けてくれって言ってるようなものよ?」
【神風魔法】を制御しつつ夢幻の邪神王がくりだした回転付きの突進を難なく避ける。
けど回転さえなければ当たったかもしれませんね。回転したせいで余計な気流が発生し、それを私が操作する事で避ける事ができたのですから。
突進を回避し、一瞬無防備になった夢幻の邪神王に対して帯を構え振り下ろす。
「帯術アーツ:雷襲巻」
帯を操作する上での基本である帯術。
このスキルは最終進化先である【鋼布術】にまで進化しているので威力が初期とは大違いとなっています。進化によりアーツが増えるスキルもありますが帯術に関して言えば進化してレベルが上がっても新規アーツが増えない代わりに、2段階目の【繰布術】、最終の【鋼布術】ともに基礎攻撃力と操作性を増加し、状態異常付与確率などを増加させる効果がついています。
そして帯装備に基本で付いている効果は【拘束】。雷襲巻に付与される効果は【麻痺】と【スタン】。
私の場合、運の補正値が高いので高確率を超えた超確立で発揮されます。それは異常耐性値が高い相手がボスであっても発動するという事。
この夢幻の邪神王は麻痺無効化の耐性を持っているものの、拘束とスタンに対する耐性が低いことは斥候プレイヤーであり看破スキルもちのコノハが調べてあります。
うん、後で褒めてあげないと。さっきのマイナス評価をこれで0にして【飴と鞭】を無しにしてあげるましょう。
「はっ!?いま、罰を受け損ねた気がしますわっ!」
突然、悲鳴を上げたコノハだったが、一緒にいたメンバーは私の戦闘風景に釘付けになっており気付かれなかったそうな。