1周年イベントと…… ⑩
邪神獣の体力ゲージが残り2本になった時、獣の形態が解かれボスモンスター特有のオーラに包まれた後、新たな姿に変わっていく。
その姿は形容しがたい異形。獣の体ではなくなり、巨大な頭と両手のみという姿で名称も《夢幻の邪神王》へと変化していました。体自体は繋がっていないので、個別に撃破していくタイプのモンスターだとおもいます。
「えっ?こんな姿……私知らない!」
ナナも変化した姿に戸惑いを隠せていない。どうやら異世界で戦ったという物とは別物らしいです。
となると、どういった攻撃が来るか予想も出来ないので、守りを固めて隙を見つけて叩くという方法で行くしかありません。
「ナナ!呆けてないで戦いに集中なさい」
「う、うん」
ボスは変化を終えるとすぐに攻撃行動に移る。まずは頭から【ダークブレス】が吐き出され、スミナを襲う。
「くぁっ!」
ダークブレスには追加効果として【暗闇】と【恐怖】の効果が付加されており、状態異常耐性が低い者は、ほぼ確実にこれに陥る。直撃を食らったスミナは状態異常耐性を持っていましたが、暗闇にかかってしまったみたい。
「スミナ!大丈夫!?」
「暗闇に掛かってしまいましたので回復をお願いします。あとこのダークブレスの威力はかなり威力が高いので後衛の方は注意してください!」
スミナのスキル【鉄壁】を持ってしても半分近く削られていたので後衛がこれを食らえば、よくて9割、最悪即死するほどのダメージだという。
「分かったわ」
「了解です!」
ダークブレスを吐いた後もボスの攻撃は続く。分離されている右手と左手がそれぞれ攻撃行動を取ったから。右手は【火炎魔法】の【インフェルノ】を、左手は【結界魔法】の【プロテクション】を発動したのです。
「もーっ!魔法攻撃が鬱陶しい!」
インフェルノはナナをターゲットにしており、それに気付いたナナは仲間の居ない場所へ移動し、被害を抑えるようにしていました。
左手のプロテクションは純粋に物理防御力を高める魔法で、その効果は頭へと向いていました。
この事から右手は頭と同様で攻撃を担当し、左手は補助を担当するという認識しました。
「レイカさん!まずは左手を倒して防御魔法を使わせないようにした方が良いと思います!」
「あたしも同感っ!」
確かにこのままだと延々ボスから一方的に攻撃され続けてしまいますからね。ずっと邪神王のターン!なんて真っ平ゴメンだもの。
「シヅキとコノハは協力して右手を攻撃、ナナとスミナは頭を!そして私とルルカは左手を担当するわ。ソフィーは支援魔法で頭と右手担当の支援を!ウサミはアイテムの使用で全体的に補助をお願い!」
「了解!まっかせて~」
「はいはい~。わかりましたー」
「さすがレイカさま!良いご指示です!」
「あたしも了~解っ」
全員からの返事を返され、それぞれが担当する箇所を相手すべく、分散していく。
補助魔法を多用する左手を担当する私達は魔法攻撃でヘイトを取り、ボスから位置を引き離しました。
左手はボスから離れると自分を対象に結界魔法で守備を高めていく。
「ねぇ、レイカ。あたしはどうすれば良い?」
「そうね……私が前に出て左手を止めるから、ルルカは魔法攻撃をメインにして頂戴。くれぐれもヘイトを稼ぎ過ぎないようにね?」
「おっけ~。まあレイカが前に出るなら大丈夫だと思うけどねー。私達の回復もしてくれるんでしょ?」
「えぇ。よっぽどの事がない限りは回復行動と打撃を担当する私からターゲットが外れる事はないと思うけど念のために注意はしておいて」
「ほいほい!そんじゃ~、いっちょやってみよ~!」
私は後衛の魔術装備から前衛型(?)の帯装備へと変更し、すぐに左手に向かって走りました。
左手の懐?にもぐりこんだ私はアイテムを取り出し素早く発動させる。
「まずはその邪魔な支援効果をなくさないとねっ。【無香領域】!」
この【調香士】のスキルで作り上げたアイテムは基本の発動率は20%程度ですが、品質が高ければ高いほど成功率が上がるもの。そして今回、私が作って持参したアイテムは最高品質のもの(発動率は60%程度)ばかり。
運の数値が高かったおかげか、無香領域は無事効果を発動し、左手に掛かっていた結界魔法各種が全て無効化されていく。
「さぁ、ここからが戦いの始まりよ……【遊帯離奪】!」
裁縫聖師のレベルを上げて取得したこの技は、攻撃があたるとそのダメージの1%回復できるというもの。
雑魚を相手にする時はこれを使用して戦えば永久機関が完成するほどの便利な技です。
まあボス相手にはダメージ量は期待できませんけど、常に回復効果が得られるのは前衛するにあたって喉から手が出るほどほしいものだと思います。
「ルルカ!」
「ほーい。んじゃ、お待ちかねこれでもくらえぇぇ!! 【墳炎の爆撃】」
左手のヘイトが完全に私に向いたことで、ようやくルルカに攻撃開始の指示を飛ばす事ができました。
【墳炎の爆撃】は先程の獣形態の時に開始即効でブッ放そうとしていた新魔法。
あの時はナナに止められていましたけど、今回は問題なし。遠慮なく使ってもらいました。
【墳炎の爆撃】は、炎で出来た飛行機っぽいものが対象を爆撃していくと言う今までと雰囲気の違った魔法でした。ちなみにこの魔法は範囲魔法なので、左手一体を対象とするには威力が物足りないと言うのが正直の感想ですね。
「あや~?思ったよりダメージが与えられないか~。んじゃ、やっぱ単体対象の魔法に切り替えるね~」
「ルルカ……他の皆の手助けに行かないといけないんだから、遊ぶのはやめなさいね?」
「もしかしてレイカ……怒った系?」
「怒ってはいないわよ?ちなみに今の発言と行動によりルルカの評価はマイナス1点なのよね」
「い、今すぐ本気でボス退治に取り掛かります!だから【飴と鞭】だけは勘弁して~!」
「あら?今まで本気じゃなかったと?マイナス2点よ」
「そ、そんな!!!今から2点分も取り返せる気がしない……(ガクッ)」
【墳炎の爆撃】の爆撃を耐え切った左手はすぐに結界魔法をかけなおし始める。
だけど、こちらもまだまだ無香領域を複数所持しているので、特に問題らしい問題はない。むしろ結界魔法を使用してくれるとその分、敵から攻撃を受ける回数が減るのでありがたいです。
所詮は補助担当の左手。体力は高くはなかったため、7個目の無香領域を使用した後の集中攻撃により倒しきる事ができました。
左手の消滅を確認した私達は回復を済ませ、ナナ達が担当している頭に向かっていきました。