目立ちたくないのに 11
ストーリー的には進行してない。次から進めたいと願ってる(え
有名なデザイナーであるケビン・シークエンスの講義は予想していたものより退屈なものだった。
というのも、彼の講義は自分の価値観を押し付けて来るような印象が多かったから。
そう感じたのは私だけではなく他の受講者……内藤氏も同じ気持ちだったみたい。
「あのケビン氏の講義というから期待していたんだがな……とんだ期待はずれだったぜ。あの程度の説明で俺達服飾科のメンバーを言い包められるとでも思っているんだろうか」
講義が終了し退出の際、内藤氏に「ちょっと良いか?」と声をかけられ渋々ついていくとこんな発言を聞かされたわけです。
「そうですね。私もそう思いましたよ。世界で有名なデザイナーだって言うからもっと具体的に良いお話を聞けるのかと思っていたのに、蓋を開けてみれば服飾に関わる仕事を目指す人なら知っていて当然の内容ばかりでした。確かに基礎は大事ですがデザイン画の書き方からでしたからね」
「だな。だがまあ、このC大にきてくれただけでもありがたいと思うべきなのかね。Y専の方からも打診を受けていたらしいが、そっちを蹴ってこっちを選んでくれたらしいからな」
内藤氏の言うとおり、元々ケビン氏は何かをする為に日本に来たようですが来日をかぎつけた企業や専門学校などが、講義依頼などをしたらしい。
たしかにその中から私の通うC大を選んでくれただけでもありがたいのかもしれません。
「ハーイ、ソコノ私ノ感性ヲソソルオ嬢サン?」」
「!?」
この声はたった今、内藤氏との会話に出てきた人物のものです。
念のため周りを見たけど、周囲にはコソコソ柱の陰に隠れる男性やら、食堂の机に頬杖を突きながらこっちを見ている男性くらいしかいませんね。
「……まさかとは思いますけど私の事でしょうか?ミスターケビン?」
「イエース!オ話シタイ事がアリマース。オ食事デモ如何デスカー?」
「すみません。私は基本的に男性が苦手ですのでお話しすることは出来ません」
「オーウ……デスガソチラノ方トハ、話シテイマスヨネー」
「えぇ、こちらの方とは何度かご一緒させていただきましたので、多少の会話でしたら問題ありませんので……それよりもそのカタコトの話し方はやめていただけませんか?講義のときはそのような話し方はしてませんでしたよね」
「ハハハ。 Sorry.Lady。だけど話したい事があるのは確かなんだ。少し時間をもらえるかい?」
ケビン氏はその話し方を流暢な日本語に戻した。実はこのケビン氏、日本が大好きで独学で日本語を覚えたらしいです。まあその事はどうでも良いので話を進めましょうか。
ケビン氏の話というのは、ある人物を探しに来たという……いえ、その人物を既に探し当てたが、自分自身はその人物に面識など無いので間に入ってくれそうな人物の探索を行った結果、講義オファーが来ているC大にその人物の関係者である私がいると知ったという。
……おかしいですね?私が関係する人なんて数える程度しかいないはずなのだけど。
内藤氏は勉強があると言い残し去っていきました。最初内藤氏が私を引き止めたくせに、ケビン氏の用向きが私にあると分かるとさっさと実習室に向かって行ってしまいました。
DCOであったら、不満をぶつけてやるんだから……。
残された私は逃げる事もできないので、ほんとは凄く嫌で家に帰りたいけど、ケビン氏に付き合うことにしました。
「実はね、日本で言うと去年の夏から秋にかけての事なんだけどうちの息子が一時期行方不明になったことがあってね……」
あっ、察しました。なるほど……そういう意味で私にたどり着いたわけですね。
「その先は言わなくてもわかりました。あの子に会いたいから紹介して欲しい…という事ですね?」
「その通りデース。頼めるかな?」
いきなり現れたケビン氏。察したと言いつつも私はケビン氏を信じきれていなかったりする。
私にとっては突然現れた有名な外国人に過ぎませんからね。勝手なことをしてあの子に危険が及んでも困りますし……けど、ケビン氏は既にあの子の居場所を突き止めているみたいですし……困りましたね。
「とりあえずあの子に確認を取ってみますね。失礼ですけど息子さんのお名前を伺ってもよろしいですか?」
「勿論。私の息子の名前はアーサーだ」
という訳で、確認の為電話をかける。数コール後反応がありました。
「わぁぁ!麗華ちゃんが電話くれるのすっごい久しぶりなんだけどぉぉぉぉ。何々どうしたの~!」
はい、あの子とは恐らく皆さんがお気づきの通り七実のことでした。
「七実、今大丈夫かしら?」
「勿論だよっ!麗華ちゃんからの電話なら天地が崩壊している最中でも優先するよ!」
うん、意味分かりません。
「そう?それは良いとして今日は聞きたいことがあるのだけど、アーサーって子の事分かるかしら」
「え?アーくん?知ってるよ?皇樹さんと同じように異世界で同期の騎士だかね」
「そう、じつはね?そのアーサーって言う子のお父様が、日本に来てて七実に会いたいらしいのよ」
「えっ、アーくんのお父さん?んー、まあ会うのは良いんだけどいつ位?」
「あ、その辺は聞いていなかったわ。とりあえず、アーサーって子の事は知っているのね?」
「うん。知ってる知ってる」
そこまで確認を取ったところで、七実の都合などを聞いておき、後でかけなおすと言ってから電話を切りました。
「確認が取れました。会っても良いそうです」
「そうかい?それを聞いて安心したよ」
「ですがアーサー君本人がいない時でよかったんですか?」
「あぁ、構わないよ。この件は息子に頼まれていたことだからね。息子も七実さんと会えたと分かれば喜ぶだろうからね」
その翌日、ケビンが七実の実家を訪れ、親同士は話が弾んだらしいです。
私はその場に行かなかったのでわかりませんがその日の夕方「おじさんの相手をするの疲れたよー」とアパートに帰ってきた七実を労ってあげました。
七実にとっては有名デザイナーも知り合いのお父さん(おじさん)に過ぎないと言う事ですね。