目立ちたくないのに 8-3
巨人トールを倒し素材を集め始めたウサミを横目に、私は今も聞こえる謎の音が気になっていました。
と言うのも、この島には何度も来て隅々まで探索しているけど、こういった音が聞こえた事は今まで一度もなくなんとなく嫌な予感がしたから。
「コノハ。何か近づいてきてるのだけど……分かる?」
「地中からこちらへ向かってきているのだけはかろうじて分かりますけど、どういったものなのかは不明です」
「そう……ウサミ。採取は中断してちょうだい。厄介そうなものが来るわ!」
「えぇ!まだ始めたばかりなのに!しょうがないなぁ」
採取行動を中断してウサミがこちらへ合流した時私達の前方の土が盛り上がり、そこから何かが飛び出てきました。
「えっ!こ、こいつってもしかして$$」
「あのーレイカさん。そこはビックリマーク(!)が付く所じゃないんですか?」
「……間違えたわ……¥¥ね!」
「ちがいますってば!!」
「それがレイカの通常運転なのね。これなら心配いらないかな?」
私達の前に現れたモンスター、それは私がこの1ヶ月探し続けていたモンスターのうちの1種。
欲しているアイテム《グラミドエルタイド》を落とすソイツの名前は《ミッションワーム》。
多頭ミミズと言う首(?)が3本あるモンスターの亜種でこのザーバンエリアに出現するレアモンスターです。
「暇を見つけては色々な島を探し回っていたのに……まさかこの島で会えるとは思ってなかったわね、まさに灯台下暗しだわ」
「あっ、じゃあレイカさんが前に言ってたレアモンスターってもしかしてこれ…なんですか?」
「そうなのよ!もう見た目は兎も角、会えたのが嬉しくて仕方ないわ」
「レイカ~。どうでも良いけどそいつ強いんじゃないの~?」
「そうね、攻略組いわく攻撃が厄介だと聞いているわ。でもそれは近接攻撃をするときの話よ。私には関係ないわ」
「そ、そっか。それじゃ、ささっと倒して素材の採取を再開させてね~」
「えぇ、ウサミは巻き添えを食らわないように離れておいて」
「言われなくても~」
「レイカさん。私にお手伝いさせてください」
「そうね。さっきも言ったけど前衛だとアレの攻撃が厄介だけど大丈夫かしら?」
「任せてください!この一ヶ月の狩りの成果をお見せします!」
やる気を滾らせるコノハに笑いかけつつ、囮をしてくれると言うので遠慮なく任せる事にしました。
無理に止めて折角のやる気を殺ぐ訳には行きませんから。それに自信満々に言うくらいだから期待しても大丈夫よね。
ミッションワームの攻撃は地中から獲物にかじりつくもしくは丸呑みにする事の他にレアモンらしく大地魔法も使用してくる。しかし賢さの値は高くはないので私達の装備ならば、十分にダメージを抑えることが出来ると思います。問題はそのダメージ量ではなく魔法を食らったり回避する事によって生じる攻撃のモーションを止められる事ですね。
「コノハは適当に首を選んで集中攻撃!ただし首は再生するらしいから首を刎ねた後は長居しないように!」
「分かりました!」
私は攻略情報で仕入れた内容を思い出しながらコノハに指示を出し、その間に神風魔法の【セイレーンゲイル】を詠唱している。
この魔法は風雪の精霊王セイレーンを召喚し、戦闘終了・大精霊がやられる・召喚を解除する、そのいずれかまで自動で戦ってくれるようになります。まあ神風魔法のレベルが低いので攻守どちらの行動も制限がかかりますけどね。
呼び出されたセイレーンは今回守備の割合が多いようで、前衛のコノハに対して敏捷が上昇する補助魔法を掛けていました。
「この敏捷増加はありがたいですっ。短刀技【アクセルスラッシュ】」
コノハの繰り出した敏捷依存の攻撃技アクセルラッシュにより、ミッションワームの首が切り取られる。
だがただやられているミッションワームではなかった。残りの2本の首から広範囲に毒液を撒き散らし、その毒液を頭から被ったコノハは状態異常【猛毒】へ陥る。猛毒とは毒+麻痺の同時効果が起きるもので強い毒を受けたと言うわけではありませんが、その麻痺効果による身動きが取れなくなり続けて繰り出されるモンスターの攻撃でやられやすくなります。
「あぐっ!?」
「!?コノハっ!すぐに回復するわ!【キュア】そして【愛天使の光】」
ミッションワームが長い胴体で巻きつき締め上げようとしていましたが間一髪で回復魔法が間に合い、迫り来る胴体を【高飛び】スキルの【バックジャンプ】で無事避ける事ができました。
ミッションワームは獲物を逃しギチギチと言っていますが、怒ってるのは貴方だけはなくってよ?
「コノハ。大丈夫だった?」
「は、はい。レイカさんの魔法のおかげで無事です」
「そう…それはよかったわ。所でコノハ」
「なんですか?」
「あなたのおかげであのミミズの行動が読めたわ。後は私がやるわ。お疲れ様」
「れ、レイカさん……」
美味しいとこどりですって?ま、まあそういう側面も無くは無いかもだけどね。
色々見極めないといけなかったから仕方ないのよ…。
ギチギチ言い続けるミッションワームを睨みつけながら私はセイレーン召喚を解除して即時魔法の詠唱を開始する。その際に【悪魔化】するのは忘れない。
「【シルフィショット】」
やはり基本スペルは一番詠唱時間が短いので牽制には役に立ちますから。まあ神風魔法での基本ですからそこらの風魔法より数段威力は高いですけどね。
分かたれた風の矢が次々とミッションワームに突き刺さりその体力を少しずつ削り取っていく。
悶え苦しむミッションワームに畳み掛けるように次の魔法を詠唱する。
「深遠の破壊の闇の化身よ、出て来なさい!【破壊せし永久の闇】」
冥闇魔法の中にある高位精霊に呼びかけ、対象に対して真っ黒な光線(暗黒光線)を照射させるもの。
この光線にはダメージを与える他に一撃死の効果が付属されてたりもします。発動する可能性は低いですけど。
ミッションワームもこの魔法が危険だと思ったのか、大地魔法の【グラビティウォール】を発動して、魔法に抵抗するつもりのようです。
「あまいっ。甘すぎるわよ」
悪魔化して放たれる冥闇魔法は現在の神風魔法位なら余裕で超える威力になるのだから。
光線はあっさりとミッションワームのグラビティウォールを貫き、その本体に多大な被害を与える。
見る見るうちに減っていくミッションワームの体力。光線は止まることなく当たり続け、わずかに残っていたゲージも全て削りきっていた。
「終わったわね」
「えっと、お疲れ様でした。そのレイカさん……?」
「何かしら?」
「私が前衛に立っていた意味はあったんでしょうか?」
「えっ?もちろんよ?コノハが首を一本撥ねて置いてくれたから、再生機能を封じることが出来たのよ?」
事実、このミッションワームは首のどれかが再生機能を所持しており、それを倒さないといくら本体の体力を減らしても瞬時に完全回復するのです。
コノハが刎ねた首が偶々とはいえ、その再生機能を所持していた首だったというだけの事。
コノハがあの首を刎ねてから、再生が始まらないのを確認したからこそ私が倒しに掛かれたんです。
その事をちゃんと説明するとコノハは安心したようです。
「良かったです。じゃあレイカさんのお役に立てたんですね」
「勿論よ。よく出来ました」
私は褒めながらコノハの頭を撫でる。
「わひゃっ!?レイカさん!私子供じゃないんですから頭を撫ぜないでくださいよぉ!」
「あら?ごめんなさいね。昔のナナに似てたからつい、ね」
「シヅキたちに見られたら怒られちゃうんですからね!」
「そうなの?どうして?」
「えっ?それはデスね~えっとその~つまりは~」
狼狽えながら説明を考えるコノハ。そこに割り込む声があった。
「おっ、倒したんだね。レイカ、ドロップアイテムの確認した?」
「あっ、忘れていたわ。すぐに見るわね」
「ほっ。(よ、良かった。これで曖昧になるよね)」
ミッションワームから手に入ったのは念願の《グラミドエルタイド》が2つ……えっ?2つも!?
ふふっ、これは幸先が良いわね。でも、ギルド狩りのドロップだから独り占めできないのよね……残念。
ドロップの分配に関しては皆で相談して決める事にしましょうか。
後もう一つのドロップは《地摺の魂》が1つ。私の鑑定でも詳しく見れませんね。見た目は石なのに石材じゃないのかしら?
「レイカ~。もう危険が無さそうなら採取に入りたいんだけど良いー?」
「えぇ、思う存分採って行って。またアレがきても対処するから」
「ほいほーい。掘るぜー超掘るぜ~」
採取やら採掘作業を見守り数時間後。無事大量の鉱石やら香石を取得した私達は意気揚々とギルドホームへ戻りました。そしてそこで驚きの報告を聞くことになりました。