痴漢しないと捕まる国
突然ですが、僕は大学生です。大学受験に失敗し、第一志望よりも程遠い低ランクの大学に入学しましたが、寧ろ、身の丈にあっている気がします。
僕は通学のために、毎日満員電車に乗っています。丁度、僕の前には、短いスカートを履いた女性がおり、僕を誘惑するみたいに、チラチラとこちらを見て来ます。童貞紳士の僕には、あまりに刺激が強すぎるので、思わず電車を降りてしまいました。
「おい、君」
僕は恐ろしい顔をした、駅員さんに呼び止められ、そのまま、警察に連行されました。そして、取調室で、二人の刑事による、僕への厳しい尋問が始まったのです。
「おい、お前は正気か?」
「はい」
「何故、さっきの女性を見ていた」
「綺麗だったからです」
「それだけか?」
刑事さんの眼は鋭くて、僕はついに白状してしまいました。
「夜のオカズにしようと思いました」
「何だと?」
刑事さんは僕の胸ぐらを掴みました。殺される。僕は覚悟を決めました。
「尻には触れたか?」
「いえ、頭の中だけです」
「馬鹿者が」
今にも殴り掛かって来そうな刑事さんを、隣の若い別の刑事さんがなだめます。
「君、何故、彼女を痴漢しなかった?」
「そ、それは、怖かったんです」
「アホか。女性への侮辱罪だぞ。懲役が怖くないのか?」
「いえ」
「全く、ああいう女性を見つけたら、普通は尻を撫でるか、スカートを頭から被るだろ」
刑事さんの言葉は正しいです。でも、僕にはできません。
「例えばだ。君の目の前にパンティーがあった。さあどうする?」
「えっと」
もう怒られたくない一心で、僕は媚びるような言葉を紡ぎ出しました。
「拾います」
「それで?」
「頭に被ります」
「臭いは嗅がないのか?」
「嗅ぎます」
「よろしい」
刑事さんはペン回ししながら、さらに質問を続けます。
「じゃあ、その後はどうする?」
「履きます」
「うんうん」
「それで、後は持ち主に返します」
「なるほど、私だったら返さずに、フライパンで揚げて食べるがね。君のも中々に素晴らしい考えだ」
刑事さんは、今日のところは厳重注意で勘弁してくれるみたいなので、僕はホッと一安心しました。でも、家で両親にそのことを話したら、父親に殴られてしまいました。
父親によると、僕の母親を、父は痴漢して、それをきっかけに二人は付き合い始めたので、僕がその場から逃げたのは、親に対する侮辱だと怒るのです。結局、その日は家から追い出され、カプセルホテルで過ごしました。