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選択肢が拗ねました  作者: esora
本編
72/206

71 世界とゲーム

 世界の命運。

 知ったことじゃない。

 自分の幸せ。

 満ち足りた生涯が送れますように。

 周囲の人々が幸せでありますように。

 

「貴方たちがやりたい事は、世界を元に戻すこと? 神を消すこと?」

「どっちもです」

「世界を戻すためには神をどうにかしなきゃいけねーからな」

「そっか。元の世界に私や神原君はいないんだろうね」


 世界を今ある形ではなく、元の状態に戻したとすれば私たちはどうなってしまうんだろう。

 私はなつみの姉で、神原君はゲームの主人公。

 現実にゲームの主人公や登場人物が存在するはずもないから、登場人物も全て消えてしまうのか。

 そんな事を思いながら笑えば私をじっと見つめていたギンが静かに近づいてくる。

 突かれるのだろうかと思いながら見下ろせば、彼は小さな瞳に私を映して「馬鹿じゃねーの」と言った。


「馬鹿ですよ。どうせ、存在しないものになるんだから関係ないじゃない」

「そうじゃねーよ。存在しないって何だよ。誰が決めたんだよそんな事」

「あのね、ギン。僕は神原直人だよ? キュンシュガの主人公の神原直人。そっくりさんでも憧れが過ぎて整形したわけでもない。そもそも薄暮(はくぼ)県も黄昏市、薄明市も存在しない架空の都市だ。そうだろう?」

「……そうだった(・・・・・)、だ」


 ギンは呟く。

 どうして私と神原君が世界の基準になったと言ったのかを。

 そう言われて明確な答えはまだ貰っていなかった事に気付く。忘れていたのか、もうどうでもいいと思っているのか。

 恐らく後者だろう。

 神原君は盛大な溜息を付いて肩を落とすと空になったカップにお茶を注いだ。ティーポットから注がれるお茶は熱々でこの空間の異常性を思い出す。

 ミルクと砂糖をたっぷり入れて、スプーンで掻き混ぜている様子を見つめながら私は欠伸を噛み殺した。


「理由は分かんねーし、どういう仕組みになってるのかもさっぱりだが、キュンシュガもドキビタも【TWILIGHT】の世界観を反映した世界になってるのも多分俺のせいだ」

「は? またどうしちゃったのギン。そんな事言っても好感度上がんないよ?」

「ヤローの好感度上げて何が楽しいんだよ。ったく、俺が知ってる神原直人はそんな性格じゃねーぞ!」

「仕方ないよ。本人(・・)じゃないからね。良く似た何か(・・)だよ」


 その言葉は神原君がずっと思っている事なんだろう。

 大好きだった作品の主人公になれたのに、順風満帆ではなく波乱万丈なんだから。

 普通ならば大喜びでハーレムを作りそうなのに、彼はできるだけ普通の高校生活を送っている様だった。

 楽しめたのは最初だけと言っていた事を思い出して、私は苦笑いをする。

 好きなヒロインとくっつけても、彼女の死亡エンドで自分がループしてしまうなんてそりゃ楽しめるわけがない。

 キュンシュガに関してはゲーム、アニメ、マンガと全て買い揃え熟読していたと告げていた神原君だからイベント発生の条件も事細かに覚えている事だろう。

 病院で再会してからは、その前と違って手遅れになってから前回の事を思い出すことは無くなったので動きやすいとは言っていた。

 下手をすれば私も知らないような小ネタまで分かるくらいだ。前世の記憶だというのにやけに細かすぎるのも不思議に思ったが主人公なら仕方ないと思っていた。

 そうだ。そもそも、ループしてる世界での前世というのがおかしい。

 私も神原君も前世の記憶を元に、今生きてる世界がそのゲームの世界観に酷似していてそのメーカーが出してるゲームの主要人物に良く似た人たちがいるなとか、同じ名前の高校だなとか思っていたが良く考えればおかしい。

 覚えているのが私と神原君だけだったから、私たちの方が頭がおかしいのかもと思ったりもしたけど。

 今は、ギンや少女、魔王様らによる記憶操作でそういう役を割り当てられ自分たちの都合のいいように動かされていたと解釈している。

 しかし、ギンはゲームの世界観を反映した世界になってしまったのは自分のせいだと言った。

 それはつまりどういう事か。

 ゲームやゲーム会社は本当にあって、それがそのまま現実になりましたと言う頭がおかしい話だろうか。

 私と神原君の心を掴むためだったとしてもあまりにも拙過ぎて笑うことすらできない。


「俺は【TWILIGHT】の社員なんだよ。あ、だった(・・・)、か。だからキュンシュガもドキビタも知ってる。その他のゲームだって知ってるぞ」

「ギン。幾らなんでもさ、そこまで分かりやすい嘘言わなくてもいいから。必死なのは分かるけど、それはないよ」

「そうよね。そういう設定、って事にすれば何でも通るものね」


 私と神原君にゲームの情報を植え付けたのは、二人ともゲームが好きで操作しやすいと判断した為。

 例えばそうだったとして、目に映る物や人が自分が遊んでいたゲームの内容と非常に似通ったものだったら?

 そりゃ興奮するわ。

 妄想を膨らませて「うふふ」と笑いながらエア彼氏とデートしたり、ファンサイトを巡ってヒロインとヒーローたちの甘い話を読んでニヤニヤしたり。

 声が聞きたくなってイヤホンをつけながら画面越しに逢瀬を楽しんだり。

 

【観測領域】(ここ)から、世界を監視してるんだろ? だったら、僕や由宇さんが今まで辿ってきた道も当然知ってるだろうから適当に話を組み立てればいい。僕たちが前世でゲームをしていた、それが現実になったって【再生領域】で植え込めば夢のような出来事に僕らは踊るだろうからね」

「……すっごい、恥ずかしいんですけど」

「ユウ、心配いらないよ。詳細は省いて簡易なログでしか表示されないからね」

「でも、調べようと思えばできるんですよね?」

「……時間はかかる」


 あぁ、やっぱりできるのか。

 だったら私と神原君はデータでしかない説の方がまだいいような気がしてきた。

 生身の人間が欲望に突っ走った結果まで閲覧されるなんて、今すぐここで死んでしまいたい。

 私が振り返って思い出すだけでも頭を抱えたり悶え転がったりするような事がたくさんあるというのに。

 魔王様は「個人情報(プライバシー)には充分に配慮しいるから大丈夫だ」なんて言ってるけど、信用できるはずがない。

 世界を創った神と戦えるくらいの上位三名に私と神原君は良いように扱われ、遊ばれているようにしか思えないのは気のせいだろうか。

 私たちが協力しないと言っても強制的に従わせることも、消すことも容易にできそうだし。


「ゲームなんて後付でどうにでもできるだろ? 僕やそこそこ可愛い子たちを選んで適当に作ればいいんだから」

「……そこそこ?」

「羽藤さんはとても頼りになって、可愛らしいと思います」

「ありがとう」


 一部分が気になってしまった私に、言い直してくれる神原君は本当に優しい。

 そうだろう、そうだろう。私の妹はとても可愛い。

 大きく頷いた私にギンは困ったように頭を掻いて少女に助けを求める。

 少女は「うーん」と可愛らしい声で唸っていたが、数回大きく瞬きをするとその姿が少し大きくなった。


「何を言っても多分二人は信じないと思う。そうさせてしまったのは私たちだから無理はないけど」

「まともに……喋ってる!」

「由宇さん突っ込みどころはそこなんですね」


 少し成長した少女には突っ込まないのかと暗に言われたが気にしない。

 舌ったらずな口調も可愛らしくて良かったけど、成長しても変わらず愛らしい。

 大きくなると昔と姿形が変わってしまう子もいるが、どうかそのままの姿で成長してくれ、と変なことを思いながら私は思わず手を組んだ。


「作り話だと思ってもいいから私の話を聞いてくれますか?」

「話はちゃんと聞くよ? それをどう受け取るかは私たちの勝手だけど」

「そうですね……。でも何だか暗に脅されてるような気もしますけど」


 神原君の言う通りこの場所の主は目の前にいる少女だ。

 彼女が気に入らないと思えば私たちは一瞬で消えてしまえるだろう。

 そんな状況にいるというのに不思議と恐怖も不安も無い。

 少女も少女で、私たちの事なんて気にせず好きに話せばいいのだ。従えないなら消すとはっきり言ってくれた方がこちらとしてもやりやすい。

 神原君はともかく今の私はきっと「お願いします」と言うだろうから。


「ギンの言ったことは本当です。元々の世界にはゲームの世界観や登場人物が反映されてるなんて摩訶不思議なことはありませんでした」

「ですよね」

「でも、神との戦い後、私が不完全なばかりに歪みが生じてしまって、それを修正しようとする力に何故かゲームの情報が上手く混ざり合って安定してしまったんです」


 はて。

 首を傾げる私に魔王様の低い笑い声が聞える。

 溜息をついて羽で顔を覆うギンと、ポカンと口を開けて言葉を探している神原君。


「何でゲームの情報? どうして? 何故に?」

「多分、世界がそれを望んだからだと思います。夢と希望が溢れていて、世界も気に入ったんでしょうね」


 にっこりと可愛らしい笑顔で告げてくる少女に、私は何と返していいのか判らなくなる。

 新手の宗教ですか、と聞きたいがそれを言ってしまえばまた面倒な事になりそうだ。

 頭が痛い、と思いながらゆっくりと少女から視線を外し私はカップに口を付ける。

 中身が入ってないと魔王様に指摘されてもそれどころじゃない。

 ふと、顔を上げて神原君を見れば彼は今まで見たことも無いような変な顔をしていた。





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