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選択肢が拗ねました  作者: esora
本編
11/206

10 ターニングポイント

 神原直人を見かけても助けたりしない。

 結果、私は連休中に死ぬ。


 神原直人を助けつつ家族愛を深める。

 結果、私は連休中に死ぬ。


 神原直人に私は前世の記憶を持っていると告げる。

 結果、私は一週間後に死ぬ。


 震える虎さんに私の状況を正直に話す。または、掲示板で事細かにそれを書き込む。

 結果、翌日私は死ぬ。


 神原直人に全面協力をして、誰かのルートでベストエンドを迎えさせる。

 結果、年を越せずに私は死ぬ。


 神原直人となつみを恋人同士にする。

 結果、どのエンディングを迎えてもなつみが死ぬ。


 神原直人に一切関わらず、血族以外の登場人物との接触も避けて大人しく過ごす。

 結果、私は連休中に死ぬ。


 私を取り巻く状況がおかしいのだと周囲に訴えて脱却を試みる。

 結果、檻のある精神病院に入れられ隔離された挙句、私のことを心底哀れんだ兄か叔父に殺されて死ぬ。


 寧ろ私がなつみルートに入ろうと、兄妹愛を深める。

 結果、時期はバラバラだが必ずなつみが死ぬ。


 私を殺す人物を逆に待ち構えて殺さない程度に反撃してみる。

 結果、偶然が重なって結局私は死ぬ。


 私を殺す人物の動機を無くす為に、仲を深めてみる。

 結果、私は連休中に違う人物に殺される。


 私を殺すあらゆる人物との仲を深めるように、ゲームの主人公並に死に物狂いになって仲良くなる。

 結果、人間関係が拗れて殺し合いに発展、結局私も最後に残った人物に殺される。


 全ての関係を絶つ為に、部屋に引き篭もって過ごす。

 結果、私は哀れんだ兄か叔父に殺されるか、事故死する。


 家を出て一人暮らしをしながら、息を潜めるように静かに過ごす。

 結果、途中まで上手くいくと思ったがバイト先の常連さんが病んでしまい、無理心中させられる。

 バイトをしてもしなくても、結果は変わらない。





 こんにちは、羽藤由宇です。

 今日はいつもと同じように、入院先の病院からお送りしています。

 少しふざけて明るくしてみたものの、気分はちっとも上がらない。

 自虐ネタに笑えるのも自分だけなので、やればやるほど空しくなっていった。

 数えるのも億劫になるほど同じ展開にはもう飽き飽きしてしまう。

 それに、いくら私が騒いだところで状況は変わらない。


 繰り返し、繰り返し、繰り返される私の短い生存期間。


 殺されて死んだはずなのに、次に目が覚めたら病院のベッドという展開はいつまで経っても変わらなかった。

 どうやっても避けることができない、私の死。

 死とは言っても、結局こうして生き返ってしまうから違うような気もする。

 ゲームで言うリセットに近い感じかと眉を寄せて唸った。


「由宇お姉ちゃん?」

「ん? どうしたの?」

「ううん。何だか、怖い顔してたからどうしたのかなと思って」


 心配そうに尋ねてくる可愛い天使は同室の影山はるかちゃん。

 彼女と毎回同じ部屋になるのも、変わっていない。

 ぎゅっ、と抱きしめたら折れてしまいそうな体や、儚げな雰囲気に私が守ってあげなきゃという気持ちになってしまう。


「あぁ、ごめんね。ちょっと考え事してたの」

「難しい事?」

「そうでもないんだけど、あーまぁ難しいかなぁ」


 ここではるかちゃんに私の状況を話しても何も変わらない。逆に巻き込んでしまうような気もするので、何も言わないのが吉だろう。

 小首を傾げて見つめてくるはるかちゃんに苦笑すれば、彼女は「むぅ」と唸った。


「そういうの、お兄ちゃんとそっくり」

「あはは、そっか。ごめんね」


 変わらない状況に諦め、絶望し、無気力になりながら生活してまた殺される。

 死んだと思えば毎回ここで目覚め、また死ぬまでの短い日常の中ではるかちゃんは私の癒しだ。

 ゲームなら死亡すれば終わりなのにどうしてリセットがかかったかのようにここから始まるのか。不思議で気持ち悪くて怖くてたまらなかったのも最初の頃だけ。

 今ではそんなに感情を昂ぶらせる事すら億劫で嫌になってしまう。

 私はこんなにも、やる気の無い性格だったんだろうかとショックを受けた。


 こんな目に遭うなんて、私は何か悪い事でもしたんだろうか。


 最初に目覚めた部屋で、この世界が狂ってると家族を始め先生や看護師さん達に訴え続けた。

 殺されたはずで確実に死んで助からない私がどうしてここにいるんだ、と詰め寄ったこともある。

 そうするとこうしてはるかちゃんと同室にはならず、そのまま違う病棟へ移されてしまう。

 空気からして異質だと感じるその場所へ行きたくなくて随分と暴れた事も思い出した。

 記憶の中の私が半狂乱になりながら、ストレッチャーで運ばれてゆく様子。しっかりと拘束されているのは危険だからだろう。

 動物園にいる動物というよりは、犯罪者のように檻のある部屋へと入れられたのも思い出してしまう。

 あれは私が隙を見て逃げ出そうとしたりするから悪いのは分かっていた。

 誰も私の話を信じてくれず、腹が立って何度も暴れればそれは要注意の患者だとマークされると決まっているのに。

 その時の私はそんな事まで頭が回る余裕すらなかった。

 結局、その後檻のない部屋に移る時に隙を見て逃げ出せたが、すぐに捕まってそのまま圧迫死という終わり方をした。

 男の看護師さんの力は本当に強い。女の人でも結構強いけれど、そんな比じゃないと身を持って経験した私はその時の事を思い出して身を震わせた。

 ただ暴れる私を押さえていただけなのは分かるけど、あんな最期は二度とごめんだ。

 看護師さんによる圧迫死だけではなく、場所が悪いのか正常な人でも次第に病んでいく嫌な所だった。

 面会に来た兄さんも、叔父さんも、泣きながら私の事を殺していた光景も覚えている。何度も何度も謝りながら私の首に手をかける。


「負の連鎖……」

「ん?」

「はるかちゃんと同じ部屋で良かったなーって思ってたの」

「えへへへ」


 部屋は清潔で、建物も白く明るいというのに漂う空気が淀んでいる。

 あんな場所には二度と行きたくないので、あの場所で散々暴れてからは退院できるまで大人しく過ごす事に決めた。

 兄さんと叔父さんにあんな事をさせてしまうのは嫌だ。

 あの二人が私を殺したのは、私がおかしくなっていくのを見ていられないってという気持ちからだから責められもしない。

 母さんは鬱になって薬物過剰摂取オーバードースし、なつみと共に心中という出来事を聞かされてから殺されるのだから気分が悪い。

 そう思えば、最初に病院で目覚めた時にとっていた行動は間違いではなかったんだろう。

 部屋で泡を吹いて倒れていた私がここへ運ばれたあの時が、本当に最初なのかは知らないけど。

 

「今日は、なつみお姉ちゃんは来ないの?」

「部活の日だからね。毎日は来ないよー。寂しい?」

「ううん。由宇お姉ちゃんがいるから、平気だよ」


 聞き分けの良いイイコではあるが、少々物足りない。子供特有の我儘さがあまり見られないのは病院(ここ)にいるのが長いせいでもあるんだろう。

 はるかちゃんのお兄さんも、彼女の事が心配なのかまめに見舞いに来ている。

 歳の離れた妹だから可愛くて仕方がないんだろうなと微笑ましく見ていれば、「シスコンじゃないですよ!」とお兄さんに強調されてしまった。

 そんなつもりで見てたわけじゃないんだけど、良く勘違いされるんだろうか。

 あのお兄さんが勘違いされるくらいなら、うちの兄さんは職場でどんな評判になっているのか知りたいような知りたくないような。

 

「なつみお姉ちゃんは、何の部活に入ってるの?」

「調理部だよ。あの子料理上手いから」

「お菓子とか作るんですか?」

「うん。お菓子だけじゃなくて、和洋中の料理も普通に作るみたい」


 もう花嫁修業ですよね。

 どこに出してもおかしくない嫁だわ、なんて冗談交じりに呟いたら「まだ早いだろっ!」って兄さんが本気で怒った事を思い出した。

 気持ちは分かるがあまりにも必死すぎる。あんなのは冗談に決まっているのにどうして本気に受け取るのか。

 なつみが校内でも評判が良くて、告白されてると知った時もショック受けていた。

 恋愛なんて青春を謳歌する学生だからこそでもあるだろうに。

 兄さんも学生時代告白されていた事を指摘すれば、男と女では違うと説教されてしまった。

 私の学生生活は……恋や告白とも縁が無く、画面越しに愛を囁かれていたような。

 いや、今もそうだから囁かれている、か。

 全く……空しくなんて、ない。


「へぇ。いいなぁ……。由宇お姉ちゃんは何の部活に入ってたの?」

「私は部活に入ってなかったな。学校終わってからバイトしてたから」

「バイトかぁ。そっか、高校生になればバイトもできるんだよね」

「憧れる?」

「うん」


 その気持ちは判らないでもない。けど、はるかちゃんの家族がそれを認めるだろうか。

 彼女のような可愛くて性格の良い子は嫌な客や上司等の押し負けそうな気がするので、逆に危険な気がする。

 私の勘でしかないが、はるかちゃんはそういう種類の人物を引き寄せそうなそんなタイプだと思う。

 なつみの時も酷かった事を思い出して小さく笑った私は、あれは大変だったと溜息をつく。

 変な奴に気に入られてストーカーされた挙句、邪魔しに入った私が殺されるというオチだ。

 勿論、どうせ死ぬならと自棄になった私が犯人を滅多刺しにして中身をぶちまけたスプラッタな光景まで思い出してしまった。

 死の間際にこんなに力が出るもんだと驚いたのも覚えていて、人間として大切な何かを失った気もする。

 なつみと出会うと強制的にストーカールートに入ってしまうらしい犯人も、上手い事誘導すればルートが折れる。

 私が死ぬ結果は変わらずとも、過程を変える事はできると知ったいい機会だった。

 どうせまた生き返るんだからと何度も立ち塞がる私に、相手が恐怖していた顔は今も忘れられない。

 

「だったら、頑張って治さないとな?」

「お兄ちゃん」

「こんにちは」

「こんにちは、由宇ちゃん。いつもはるかの相手してくれてありがとう」

「いえいえ」


 出た。


 思わずそう言ってしまいそうになって慌てて笑顔を浮かべた私は、登場した爽やかな男性に軽く頭を下げる。

 はるかちゃんが嬉しそうな顔をしているのを眺めて、彼はベッド傍の椅子に腰掛けた。

 彼は影山雪司かげやまゆきじ。はるかちゃんのお兄さんで会社員をしている。

 親しい人たちからはユキという愛称で呼ばれていて、歳の離れた妹をとても可愛がっており、少々シスコン。  

 本人はシスコンではないと否定しているので、思っていても口にする事は無い。

 とにかく、非常に妹思いであり人当たりの良い二十三歳のナイスガイだ。

 彼も【TWILIGHT】から出ているゲームの登場人物で、私が死亡エンドループに気づくきっかけとなった重要な人物でもある。

 そう、あの綺麗な夕暮れ時に私を殺した犯人だ。

 その事が未だ頭から離れず、鮮明に思い出せる私にとってはどう接していいか分からない人物でもある。

 彼から殺人衝動の芽を摘んだとしても、結局私が死ぬ運命は変えられなかった。

 けれどもある程度仲良くなっていないと、私はあの時と同じ日に彼によって殺されてしまう。

 異性に対する積極性を発揮できるのはゲームの中だけだと言うのに、現実でそれを求められるのだから苦痛だ。

 かと言ってダラダラと過ごしていると死亡エンドが待っている。

 何も、落とせというわけじゃない。それは分かってるが、ほどよい関係というのが中々難しい。

 フラグを立てつつ、恋愛には発展させず、いい友達程度の関係。

 数値が目に見えるわけではないので全て勘でやっていくしかないのだが、これが非常に難しかった。

 相手の感情を表情や雰囲気から探れるようになるまでどのくらいの死を繰り返した事か。正解の道を手探りで少しずつ進んでいくという気の遠くなる作業。

 ゲームでもそんなのはいらないわ、と溜息をつきそうになりながら私は微笑ましい兄妹のやり取りを見つめた。


「また何か我儘でも言ったんじゃないのか?」

「そんなこと、ないもん」

「そうですよ。はるかちゃんは可愛いですから、我儘言われても許せますし大丈夫です」

「由宇お姉ちゃん……」


 妹をとても可愛がっている彼は、私と結婚しはるかちゃんの義姉になってもらいたかったらしい。

 らしい、というのは彼との仲を深めようと頑張っていた時に得た情報によるものだ。

 私となつみの姉妹関係を羨んで、姉という存在に憧れ欲していたはるかちゃんの為、どうやら彼は私と結婚したかったようだ。

 何とか親しくなろうと努力したものの、私に近づこうとすれば兄さんに立ち塞がれ阻害されて濁り固まった負の感情を殺人という行動へと繋げた。

 そう私は思っている。

 例えユキさんとお付き合いしようかな程度の関係まで無事いったとしても、違う人に殺されるわけだから意味無かったんだけど。

 とりあえず彼に殺されるという結末を変える事はできた。


「はははは。ありがとう、由宇ちゃん。でも、迷惑だったら遠慮なく言ってね」

「大丈夫ですよ」


 言ったら言ったで、負の感情溜めるくせに笑顔で良く言う。

 こんなに爽やかで優しくていい人にしか見えないのにあんな事をしてしまうのだから人というものは分からない。

 接近し過ぎてユキさんルートに入ってしまった場合は、兄さんを説得するのが面倒だ。

 まさか兄さんが自分の死亡フラグに加担するような事になるとは、私もびっくりだ。

 兄さんが私の事も大切に思ってくれてると分かって嬉しかったが、その後のフォローがどれだけ大変だった事か。

 仲良くなって望むままに結婚すれば私はもう死ぬことも無く、シスコンだけどそれ以外は誠実だろう旦那様をゲットできて全て丸く収まるなんて簡単に考えていた私を説教したい。


「由宇お姉ちゃんとお兄ちゃんが恋人同士だったらいいのにな」

「こら、はるか。由宇ちゃんを困らせるような事言うんじゃない」

「あはははは」


 ここで、分岐のお時間です。

 ゲームを体感できるなんて素敵、と自棄になっていた頃の熱はもう無い。

 ただ、慣れたように危険を回避できる言動をするだけだが、対処が分かっているのに毎回緊張してしまう。

 ここがゲームの世界だと言うなら、目の前に選択肢が登場してくれれば楽なのに今までそんな事は一度も無かった。

 はぁ、と静かに息を吐いて様子を窺う。

 心を落ち着けて、不自然にならないよう仕草に気をつける。

 大人のお姉さんらしく小さく笑った私は、口元に手を当てながらはるかちゃんとユキさんを交互に見つめた。


「でも私がユキさんの恋人になると、はるかちゃんよりユキさんともっと仲良くなるかもしれないなぁ」




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