雪姫
冬の童話祭2014に参加しようと書いた作品です。舞台は明治時代をイメージしています
この地方には、雪姫という者がいる。
雪姫は冬以外の季節にはどこにいるのか誰にもわからない。雪のように溶けてなくなっていると言うものもいれば、どこか寒い所にいると言うものもいる、結局彼女は冬以外の時はどこにいるのかは誰も知らないのである。
しかし、そんな雪姫も冬になると活動をはじめる。と言っても、ただそこらへんを歩くだけなのだが、彼女の活動は冬の始まりを知らせてくれると言われていて、彼女の体は水も凍りつくほど冷たいだしく、彼女の歩いた跡には地面に足型がそのままの形に凍りついている。これをこの地方の人々は「冬の足跡」と呼んでいる。
ちなみにそんな有名な雪姫を見たものは誰もいない。彼女はただでさえ人前には姿を見せないのに、彼女に遭遇した者は生きては帰って来れたものはいないからである。
一面が雪で銀世界と化し、太陽の光の反射で美しく輝いている。針葉樹林で雪の髪飾りをつけたまるで雪のように白く、そして美しい女性がいた。
今私はチコの葉を採っている。チコの葉というのは、栄養価が高い上に、冬になっても枯れることはないのでこの季節にはかなり重宝するものである。
そんな風に採取をしている私の後ろで物音がした。音からして明らかに動物の気配ではない。結構森での暮らしが長いのでわかるのである。
振り向くと案の定、そこには少年が茂みから頭を出している形で私の方を覗いていた。
「お姉さん、だれ?」
「私のこと?私はね・・・・」女性は途中で言葉をきり、少年を方を横目で見た。少年は気づかなかったが、彼女の目は何かを企ている目だった。
「私は雪姫。」それを聞いた少年の態度を彼女は見たかった。大抵の人は自分の正体を明かすと、まるで蛇に睨まれた蛙のような顔になって、恐怖でその場に動けなくなってしまう。彼女は冬の象徴であると同時に冬にのみ現れる死神でもあった。
「お姉さんお姫様なの!?」少年は彼女の期待していた反応とは正反対な反応をしてきた。少年は”姫”という名前がついているのでどうやら彼女のことをお姫様だと思っただしく、驚くと同時に感激している目をしだす始末である。
「え・・・ちょ・・ちょっと私はあの雪姫だよ!あの・・・」と自分は雪姫であると少年に言ったが、彼女はあることと思った。
(もしかして、この子って外から来た子なの?)外とはちがう地方から来たいわゆるよそ者のことである。この地方では近年までほかの地方とは孤立していたせいか、違う地方から来た人を差別的(といっても弾圧とかそういものではない)に扱う習慣のようなものができてしまっているのである。
「君、違う地方から来たの?」彼女は少し伺うような素振りで少年に質問した。やはり、少年は隣の地方から来た者で、先月越してきたばかりだった。
「なんてこった・・・」
「どうしたの、お姫様?」頭を抑え悩んでいる彼女に少年は心配そうに聞いてきた。雪姫の話はこの地方の人にしか知られてない。つまり、外からきた少年は彼女の話を知らない、つまり、彼女の恐ろしさを知らないのである。彼女自身がなぜここまで落ち込むのか、それははかなりつまらないという簡単な理由からである。
彼女に遭遇したら、生きては帰って来れない。それはそうだ。彼女が凍らせて持ち帰っているからだ。かなり悪趣味なのはわかっているが、彼女はそれが楽しくて仕方がないのだ。とくに凍らされる事をわかった時の恐怖する姿など彼女自身心が踊るだしい。
「お姫様。お姫様はどこの城のお姫様なの?」
「城?・・・ああ、そうか、姫は普通お城に暮らしているね」
「北見城?秋月城?それとも大河城?」少年は近くにある(といっても数十キロは離れている)の名前をぽんぽん出していく。しかし、彼女は今、不思議な感覚を味わっていた。
(初めてかも、こんなに私のことを話しかけてくれるのは・・・)前にも言ったが、彼女と遭遇したものは恐怖で話すどころではない。だから彼女はもしかしたら生まれて初めて人とこんなに話を交わしたかもしれない。
「・・・ねぇ、君。よかったら私のお城に来ない?」
「え!!本当に!!」少年はまるでおもちゃを買ってもらったように目を輝かせて喜んだ。彼女はたいして大きくないよと一言言った。
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「ねえ、お母さん?その子は結局どうなっちゃたの?」
「ん?さぁ、結局その子はどうなったのか誰もわからないの。」母親が夜中にうす明るい部屋で布団にこもっている小さな少女に本を読んであげている。母親は子供が寝る前に本を読んであげていた。
「でも、結局その子は帰ってこなかったみたいなの・・・・」
「そのこ・・・死んじゃったの?」少女は悲しそうな表情をして母親に言った。
「ううん。」母親は首を横に振って否定した。
「死んでないよ。絶対に・・・」母親は何かをためらっているかのように見えたが、少女は幼かったせいかそれに気づかなかった。
「なんでわかるの?」少女は疑問を母親に言ったが、母親はもう遅いから寝なさいと言って受け流されてしまった。
少女が眠ってしばらく経って、母親も布団に入り、眠ろうとした。
「なんでわかるの・・・か・・」母親は少女の質問を思い出し、呟いた。
「それはそうよ・・・だって」髪につけていた雪の髪飾りを外し、それを眺めながらまた母親は呟いた。
「私の母だから・・・雪姫は・・・」
結局、少年はその後どうなったかは誰も知らない。ある者はそのまま連れて行かれて氷漬けにされたと言う者もいれば、二人で仲良く暮らしていると言う者もいる。だが、それもただの仮説に過ぎない。少年のその後を知る者は雪姫とその子孫以外誰も知らない・・・
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