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空っぽ少女を満たす願い  作者: takosuke3
四章 ~世界が広がったというより、自分の世界が狭かった~
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虜囚

 鼻を刺激する饐えた臭いと、頭の鈍い痛みのおかげで、一気に覚めた。

「っ!」

 跳ねるように身を起して周りを見ると、そこは薄暗く狭い部屋だった。明かりといえば天井に吊るされた角灯のみ。窓も時計も無いので、今が昼なのか夜なのかも分からない。

 ひとまず、ここがどこなのかを知る必要がある。ルディは出入口に向かい、

「──で、今回の仕事が終わったら、サヨナラってことよ」

 取っ手に手を伸ばしたところで、扉の向こうから声が聞こえてきた。

「けどお前、塞がって進めないとか何とか言ってなかったか?」

「そこで、このお姫様を連れてきたのよ」

 扉が開けられ、光が差し込んだ。

「っ」

 角灯だけの窓の無い薄暗い部屋である。暗視状態だった目には、その光は強烈だったが、日中だという事は、とりあえず分かった。

「あ、やっと起きたわね」

 ルディは、目をしばたかせながら姿を確かめる。あの仮面女だった。

「丁度良いわ。まずは」

 その先を待たず、ルディは地面を蹴った。まずは、こいつを締め上げて従わせる。女が反応する前に背後に回り込み、

「元気そうで何より、と」

 仮面女のその呟きを耳にした時には、ルディの方が背中から床に叩きつけられていた。

 間違いない──揺れる頭でルディは確信する。この仮面女の使う技は、よく知っている。

「ちなみに、くたばってたのは一晩よ。今の時間は、はいこれ」

 と、女は懐中時計を出して見せた。針は正午近くを差している。

「おい、何で繋いでおかねえっ?」

 仮面女の背後から、警戒を露にした声が響く。視線を向ければ、レイヤとその手下達が、弩弓をこちらに向けていた。レイヤなどは、エルトで見せた光条砲も構えている。

「何でって‥‥‥アンタ、この子を好きにして良いって言ったわよね」

 自分に向いていないとはいえ、砲口と十以上の矢を前にして、しかし仮面女は平然と返した。

「手足を縛って繋いどくなら、とも言ったろ。そいつは皇族なんだろ?」

 皇族──手下達の緊張が密度を増す。そんな彼らに、仮面女は肩をすくめ、

「しょうがないわよ。手持ちの枷や鎖じゃ、力ずくで千切られるんだし、薬なんて大した効果は期待できないし」

 レイヤ達に喋ってるおかげで、仮面女の注意はルディから逸れている。女の仮面諸共打ち抜くべく、その姿勢のまま月精を集め、

「?」

 集まらなかった。何度か繰り返すが、結果は同じ。

「っ!」

 月煌化も発動しようとするが、月路が何本か明滅するのみ。

(月精術が、使えなくなっているっ?)

「そういうこと」

 ルディの困惑を察したように、仮面女は頷いた。

「手足は無理だけど、月精は殆ど封じてる。蒼月精なら蝋燭並み、翠月精なら擦り傷治すのがせいぜいかしら」

「貴様、何をしたっ?」

「それでは皆様、姫君のお首にご注目を‥‥‥はい、アンタにはこれね」

 と、仮面女はルディに手鏡を渡す。

 訝りながらも、ルディはそれを覗き込んで──気づいた。頭には、ご丁寧に巻かれた包帯。そして、

「‥‥‥これは」

 ルディの首には、奇妙な輪が嵌められていた。繋ぎ目らしき部分が緑色に明滅する以外は、飾り気らしい飾り気は無い。

「私は〝月蝕環〟と名付けたわ。でも、大したものね。計算じゃ皇族級の月精術でも、完全に封じ込めるはずなんだけど」

「要するに──この首輪が、月精を封じているという事か」

 少し引っ張ってみる。どうやら、さほど頑丈な作りではないらしく、すぐに千切れそうだ。

「千切ったらドカンよ」

 更に力を込めようとしたルディの腕を掴んで、仮面女は言った。

「小さいけど、強力な爆弾を仕込んでるの。半径十ヌーラ──例えば、この小屋くらいは確実に吹っ飛ぶ威力はあるから、お取り扱いは要注意ね」

「つまり、今すぐこれを千切れば、貴様らを諸共吹き飛ばせるという事だな」

 ルディは月蝕環にかけた手に、再び力を込めた。集まった盗賊達は、怯んだように後退を始める。

「お前も死ぬぞ?」

 手下達の手前もあるのか、レイヤは一歩も動かずに鼻で笑った──かなり引きつっていたが。

「私が、泣き叫んで命乞いでもすると思ったか?」

 そんなレイヤを、ルディの方が鼻で笑ってやった。

「貴様らのような下劣と、一緒にしないでもらおうか」

「ぅ‥‥‥」

 紫紺の眼光に押され、レイヤも思わず下がる。

「とまあ、これが本物の皇族ってやつよ」

 狭い室内で増していく緊張を、ただの一歩も動かなかった仮面女が、手を叩いて払拭した。

「命よりも誇り──そういうのが骨の髄まで染み付いてるわ。アンタ等にどうこうされるくらいなら迷いなく自分で命を断つだろうし、鼻を明かせるなら迷わずその方法を取るわよ‥‥‥それこそ、死んでもね」

 仮面女の声音に、冗談は無い──それが分からない者は、この場にはいなかった。

「‥‥‥せいぜい大人しくしてろ。妙な真似したらバラしてやるからな、化け物女」

 レイヤの目には、警戒を通り越して、憎悪や殺意に満ちていた。彼だけでなく、彼の手下達も同様だ。

それ(・・)の面倒は、きっちり見ろよな。ったく、薄気味の悪いお面なんざ着けやがって」

 仮面女にも言いたい放題言って、レイヤは手下達を連れて立ち去った。



「さて、アンタには私の仕事を手伝ってもらうわ」

 言いながら、仮面女は扉の横に置いてあった背嚢を背負う。

「何ボーっとしてんの? ほら、行くわよ」

「何か勘違いしていないか? たとえ貴様一人でも、道連れにしてやるぞ」

 もちろん脅しではあるが、嘘ではない。この連中の言いなりになるなら、今すぐにでも千切るつもりだ。

「アンタこそ何か勘違いしてない?」

 仮面女は、振り向かずに囁くように言った。

「私がそういう流れ(・・・・・・)を、想定してないとでも思ってるの?」

 押さえられた声は、仮面のせいもあって、月人の聴力でなければ聞こえなかっただろう。

「爆発云々は嘘だというのか?」

 ならば好都合だ。今すぐにでも千切って、月精術で暴れるまでだ。

「千切れば爆発するのは本当よ。今は、首を切り離す程度(・・・・・・・・)の威力しか無いってだけ」

今は(・・)、だと?」

「ちゃんと人の話を聞ける程度には冷静みたいね、皇女サマ」

 感心したように、仮面女は頷いた。

「半径十ヌーラを吹き飛ばすってのも嘘じゃないわ。状況や条件に応じて、その威力が変わるってことよ」

 状況や条件──今までの話の流れを考えれば当てはまるのは、

「貴様との距離か」

「ご明察。月蝕環の爆弾は、私とアンタの距離で威力が調整される仕組みになってるわ。二十ヌーラ以内で起爆すれば小さくポン、それ以上離れてれば派手にドカン。それと、私から五百ヌーラ離れてもドカンだから、特に一人で歩き回る時は注意してね」

 隙を見て脱走──それも不可能と言う事らしい。ルディはようやく月蝕環から手を離した。

「‥‥‥仕事を手伝えと言ったな」

「ええ」

「言っておくが、盗賊仕事の片棒を担げと言うなら、それこそ死んでも御免だぞ?」

「分かってるわよ。さあ、どうぞ」

 と、仮面女に促され、ルディは外に出た。

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