大学野球を見に行こう
大学野球に行こう、と誘われた。
その試合で対戦する大学はどっちも、私とまったく無関係だ。
進路先にも考えていない。私の偏差値じゃ、奇跡が三連続くらい必要だ。
そんな私が、その試合を見にいってもいいのか?
頭の中に流れるイメージ映像。
――無関係だけど、来ちゃいましたー。きゃはははは。大学野球、うーけーるー。
想像しておいてなんだが、他のお客さんたちからの視線が、非常に冷たいような・・・・・・。
これはまずい。
せっかくだけど、断った方がいいのか?
でも、大学野球を一度は現地で見てみたい。
仕方がない。
なりすますか。その大学の学生に。
そういうわけで、『脳内設定』を考える。
首席合格した、というのはやめておこう。その場で難しい問題でも出されたら、アウトだ。
謙虚に、補欠合格にしておこう。三つの学部で補欠合格だ。
そんな感じで、『設定』を練っておく。
あとはひたすら、その『設定』を脳内でくり返した。
さらに、試合に誘ってくれた知人にも、口裏を合わせてくれるように頼んでおく。
「そんなこと、気にしなくてもいいのに」
うるさい。すでに『脳内設定』はできている。
ベストは尽くした。これで胸を張って、試合にのぞめる。待ってろ、大学野球!
で、試合当日だ。
球場の入り口で、私の少し前に並んでいる人が、学生スタッフから『円周率の小数点以下十桁』を質問されていた(3.1415926535)。
その次の人は、『ばら』と『れもん』を漢字で書かされていた(『薔薇』『檸檬』)。
私は、ぎょっとする。
(え? 大学野球って、そんなのがあるの? 球場に入るための試験?)
と思ったら、知り合い同士でふざけていただけのようだ。
私は冷や汗をぬぐう。
(ふー。おどかしてくれるぜ)
そんなことがあったものの、無事に入場できた。問題を出されたりもなかった。セーフ!
私は外野スタンドで思う。
来て良かった。こういう雰囲気は嫌いじゃない。
しかも、『脳内設定』を完璧に仕上げてきたので、よそ者だからと、おどおどする必要はない。
私の「なりすまし」設定は完璧だ。難しい問題とかを出されない限りは、大丈夫なはず。
そして、試合が始まる。
こっちの大学が先攻だ。
すると、周囲が一斉に立ち上がる。
(なるほど。味方が攻撃している時は、立って応援するんだな)
私も急いで立ち上がる。まわりのマネをしながら応援した。
しかも、幸先良く、先頭打者ホームランだ。いきなりの一発が飛び出す。
この直後だ。周囲が一斉に歌い出した。
それを聞いた瞬間、私は顔から血の気が引く。
(これってたぶん、この大学の『校歌』だと思うけど・・・・・・)
しまった。やばい。『脳内設定』にばかり集中しすぎて、『校歌』のことを忘れていた。大ピンチだ、私。
しかし、ぽかんとしていては、「ニセ学生」だとばれてしまう。
こうなったら、仕方がない。
私は「口パク」で乗り切った。
(次は『校歌』を覚えて来よう)
そのあと、試合を楽しみまくった。
で、次の時だ。大学野球観戦、二回め。
球場の入り口でいきなり、
「えーと、あなたは・・・・・・そうですね、『円周率の小数点以下十桁』を言ってみてください」
「は?」
もちろん、これは冗談だった。
前回の時に、私が外野スタンドで、はしゃぎまくっていたので、顔を覚えていたという。
「今日も楽しんでいってね♪」
「あ、はい。そうします」
球場に入って、私は思った。
(この次は念のため、『円周率の小数点以下十桁』を覚えて来よう)
次回、春季キャンプ中に「違和感」が・・・。




