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野球はスリーアウトから  いよかんシーズン  作者:


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10/20

投手コーチの食事会

 春季しゅんきキャンプの休日に、プロ野球の投手コーチが食事会しょくじかいを開いた。


 コーチがんだのは若手わかて投手たちだ。彼らには全員、一流いちりゅうの投手になってもらいたい。


 そのために、この食事会でつたえたいことがある。これから話すことは、練習れんしゅうちゅうのグラウンドよりも、こういう場所での方がつたわりやすいと思ったのだ。


 他のおきゃくさんを気にせずに話したいので、知り合いのイタリア料理店をっている。


 美味おいしそうな料理が次々とはこばれてきた。


「すげー、このサラダ。野球のボールが入ってる!」


 若手わかて投手たちはたのしんでいるようだ。


 そこにオマール海老えびのグリルがはこばれてくる。他の料理とくらべて、これだけはシンプルだ。オマール海老えびの他には、パセリがえてあるだけ。


 素材そざいのオマール海老えびいのはもちろんだが、この料理の秘密ひみつはそれだけじゃない。


 若手わかて投手たち全員がオマール海老えびに手をつけたのを確認かくにんしてから、


「どうだ、うまいか」


「うまいっす!」


 で、コーチもオマール海老えび一口ひとくち食べる。


 うむ。これだ。自分がもとめていたあじ


「この料理はしお加減かげんがちょうどいいだろ」


 コーチはかたり出す。


 この料理はしお加減かげんいのちだ。多すぎてもダメだし、少なすぎてもダメ。しおりょうのわずかなちがいが、オマール海老えびあじころしてしまう。


 最高のあじすためには、かなりの経験けいけん必要ひつようだ。ぎゃくに言えば、経験けいけんかさねることでたどりけるあじでもある。


「野球の投球ピッチングおなじだ」


 わかい時はいきおまかせ。早く一軍いちぐんに上がりたい、一軍に定着ていちゃくしたいと、がむしゃらになりがちだ。


 最初の数年は、それでもいい。


 しかし、ずっとそのままではこまる。


「何年かあとには、この『しお加減かげん』のように、『経験けいけんかした武器ぶき』を、それぞれがにつけてしい」


 そうすれば投球のはばが広がる。


 プロでなが活躍かつやくできる、その可能性が高まる。


 こうしてコーチと選手、「おしえるもの」と「おそわるもの」として出会であったのも、何かのえんだ。自分がつたえられることは全部ぜんぶ、彼らにつたえたい。


きみたちには全員、プロの世界で野球をながたのしんでしい」


 とはいえ、ただ経験けいけんかさねればいわけではない。


 日々の経験けいけんをいずれかそうと、強く意識いしきする。それが大事だいじなのだ。毎日だらだらとしお加減かげんめているだけでは、最高のあじには到達とうたつできない。


「わかったな」


 コーチは若手わかて投手たちをまわす。


 ところが、彼らは料理を食べるのに夢中むちゅうなようだ。


 しまった。今の話はもう少しあとでの方がかったかも。


 仕方しかたがない。後日ごじつべつかたちおなじ話をするとしよう。行きつけの寿司屋すしやを、あとで予約よやくしておくか。


 そんな内心ないしんおもてには出さずに、コーチは若手わかて投手たちに声をかける。


「どうだ、うまいか」


「ずるいくらい、うまいっす! このでかいエビをおかわりしても、いいっすか?」


「そうだな。いっぱい食べろよ」


 ・・・・・・はぁ。彼らはわかいし、今はプロでたたかうためのからだづくりを優先ゆうせんさせよう。


 うん、今日の食事会の目的もくてきはそれだ。「からだづくり」が目的もくてきだったことにすれば、この食事会は失敗しっぱいではない。うん、無駄むだではない。


「コーチ、さっきのスープも、おかわりできますか?」


「・・・・・・あ、ああ、もちろんだとも! 今日の食事会はおれのおごりだ。遠慮えんりょせずに、いっぱい食べろよ。りにしているから、多少の融通ゆうずうがきく」


「じゃあ、あのスープをどんぶりでおかわり!」


おれもー!」


 そんなこんながあって、やがて食事会がわった。


 コーチが会計をませて店を出ると、


「食事、あざーっす!」


 若手わかて投手たちがおれいを言ってくる。


 そして彼らは、


おれたちもいつか、『しお加減かげん』のうまい投手になれるようがんばります」


 それを聞いて、コーチはおどろく。なんだ、ちゃんと話を聞いていたのか。てっきり食べるのに夢中むちゅうだとばかり・・・・・・。


 そうか。こちらの言いたいことが、きちんとつたわっているようで安心あんしんした。


明日あすからの練習れんしゅう一緒いっしょにがんばろうな」


 コーチは宿やどかってあるき出す。


 うれきしたいのをこらえながら、この若手わかて投手たちが華々しく活躍かつやくする、そんな未来みらいを思いかべるのだった。


次はむかしのお話です。

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