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魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜  作者: いたちのこてつ


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第8話 魔王、現場を視察する

魔界の街道沿い、勇者一行が宿泊している『魔導自走式・極楽スイート』から少し離れた地点。そこに、漆黒の馬に跨り、威風堂々と現場視察に訪れた魔王ヴォルガディスの姿があった。


「ほう……。壮観ではないか、アルバス」


ヴォルガディスの視線の先には、魔界の荒野にはおよそ似つかわしくない、数百人規模の人間たちが成す「長蛇の列」があった。彼らは皆、何かに期待するようにソワソワと列をなし、時折前方を覗き込んでは、溜息を吐いたり熱心に語り合ったりしている。


「見ろ。あの人間どもの絶望に満ちた顔を。これほど多くの捕虜を一箇所に集め、我が支配の重圧を与え続けるとは……。これこそまさに、覇道の極みよな」


「左様です、魔王様(※訳:あれは限定パンケーキの焼き上がりを待つ行列です)」


実際、その行列の先にあるのは、天才パティシエ・ピエールがプロデュースした『魔界蜂蜜のふわとろパンケーキ』の移動販売車であった。


「……ん? アルバスよ。あの先頭にいる男、何やら泣きながら我が軍の兵士(販売員)に金を差し出しているようだが……あれは命乞いか?」


魔王が指差した先では、一人の恰幅の良い商人が、感極まった表情でオークの店員に金貨を握らせていた。


「いいえ。あれは『強制略奪(※会計)』です。人間界の富を魔界に強制的に流入させ、奴らに経済的な死を与える儀式……。男が泣いているのは、あまりの略奪の苛烈さに、恐怖しているのでしょう」


(※実際は「こんなに美味しいパンケーキがこの値段なんて、魔界のコストパフォーマンスは神か!」と感動の涙を流しているだけである)


「クク……。全財産を奪われ、あのようにむせび泣き、震えるとは。……どこまでも冷酷な男よな、アルバス!」


ヴォルガディスは満足げに頷き、さらに列の横を通り抜けた。


すると、魔王の放つの凄まじい威圧感に気づいた観光客たちが、一斉に顔を青ざめさせ、ガタガタと震えながら道を開けた。


「見ろ、アルバス。我が通り過ぎるだけで、奴らは恐怖に震え、こうべを垂れる。我が支配が完璧に浸透している証拠だな!」


「ええ。奴らは魔王様の影を見るだけで、自らの無力さを思い知るのです。……これほど効率的な『精神的調教』はございません」


***


視察の最後、ヴォルガディスは舗装路の脇に建てられた、どこか華やかな受付所の前で足を止めた。そこには「魔界・お友達紹介所」と明るい文字で記された看板が掲げられ、人間たちが我先にと列をなして何かを書き込んでいた。


「アルバスよ、あそこに掲げられた『お友達紹介』とは何だ? 随分と楽しげな響きだが、まさか……人間界の情報を売るための密告所か?」


「密告……いえ、単なる情報の売買などという生易しいものではございません。正確には『連鎖式・供物指名所(※お友達紹介クーポン付きアンケート)』です。奴らは自らの略奪額(※利用料金)を減免させるため、この地が『いかに素晴らしく、安全な楽園であるか』という嘘の情報を綴り、友人や家族をこの罠へと誘い込んでいるのです。自らの負担を減らすために親しい者を支配の檻へと売り渡し、偽りの笑顔で騙し合う……まさに、人間の醜い本性を利用した共食いの連鎖を構築しているのです」


ヴォルガディスは、その紙を一枚手に取り、そこに記された「お風呂が最高でした!」「スタッフの笑顔が素敵」という殴り書きを、アルバスの捏造通訳に従って解釈した。


「『お風呂(拷問)が最高(苦しい)』、『笑顔(殺気)が素敵(恐ろしい)』……。なるほど! 奴らはポジティブな単語を『最上級の苦痛』を指す隠語として使い、それを『嘘の感想』として人間界へ流布させているわけか! クク……友をこの支配下へと売り渡せば、自分の苦しみが和らぐという地獄絵図! まさに外道の極み、これほど人間を堕落させる策があるとはな!」


「おっしゃる通りです、魔王様。これこそが、戦わずして勝つ――経済支配(※おもてなし)の真髄です」


アルバスは無表情に答えながら、内心ではガッツポーズを三回決めていた。


***


視察を終え、魔王城へと帰還するヴォルガディスの背中は、かつてないほど誇らしげであった。


「アルバスよ。私は決めたぞ。いずれあの勇者レクスも、あの行列の中に加え、我が支配の偉大さを泣きながら書き込ませてやろうではないか!」


「はっ。その日も、そう遠くはございません」


アルバスの眼が、不気味に、しかし歓喜に満ちて光る。魔王軍の軍事予算は、こうして今日も、平和的な「パンケーキの材料費」へと形を変えて消えていくのであった。


――そう、魔王は純粋バカだった。


そして魔界は、歴史上類を見ない「行列のできる暗黒帝国」へと変貌しつつあった。

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