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魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜  作者: いたちのこてつ


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第7話 四天王の困惑と接待

温泉関所の至れり尽くせりな「罠」から逃れるように、勇者一行は逃げるように施設を後にした。だが、建物の外に広がるのは、アルバスが魔王軍の総力を挙げて整備した、鏡面のように滑らかな『魔力舗装路』である。


「……いいか、さっきのは序の口だ。魔界の真の恐ろしさは、これから……」


レクスが仲間たちに警告を発しようとしたその時、天を突くような巨影が上空から舞い降り、凄まじい風圧とともに一行の前に立ちはだかった。


現れたのは、魔王軍が誇る最強の四天王の一人――『剛腕のザガン』。その名の通り、岩をも砕く太い腕を誇る巨漢の魔人である。


「……来たか、人類の希望め!」


ザガンは、アルバスから渡された「台本」を思い出しながら、必死に顔を歪めて凄んだ。


本来の彼なら、この場で雄叫びを上げて大地を叩き割り、勇者の首を獲りにいくところだ。だが、作戦前にアルバスから受けた説明は、彼の脳内をひどく混乱させていた。


『ザガン殿。敵の継戦能力を奪うため、奴らの「重量負荷による疲労」を逆手に取ります。すなわち、奴らの荷物を力ずくで強奪し、奴らの歩みを加速させるのです。これは「兵探へいたん剥奪作戦」――敵の負担をこちらが肩代わりすることで、奴らをより早く死地(おもてなし会場)へ送り込む、高度な心理戦です』


「……く、くくく。貴様らの命(※荷物)は、俺が預かる!」


ザガンは、レクスが背負っていた巨大なバックパック――パーティー全員のキャンプ道具や予備の武器が詰まった、50キロを優に超える重量物――を、目にも止らぬ速さでひったくった。


「なっ……速い!? しまっ、荷物が!」


レクスが剣を抜こうとした時には、すでにザガンはミラの魔導書バッグ、ゴルドの予備の戦斧、さらにはエリナが持っていた小さな手提げ袋までを、軽々と両脇に抱え込んでいた。


「おい、待て! 返せ! 卑怯だぞ、さっきの菓子で油断させておいて、物資を奪って俺たちを立ち往生させるつもりか!」


レクスが叫ぶが、ザガンは背を向け、地平線の彼方まで続く舗装路を猛烈な勢いで走り出した。


「追え! 奴は俺たちの全財産を奪っていったぞ!」


レクスは、かつてないほどの危機感を覚え、施設を出たばかりの舗装路の上を、ザガンの背中を追って全力で駆け出した。


……荷物がなくなったことで、体が驚くほど軽い。全速力で走っているはずなのに、アルバスが整えたこの道はどこまでも滑らかで、足への負担が微塵もないのだ。


しかし…


「は、速い……っ! この俺が、全速力で追っているのに、一向に距離が縮まらないなんて……. これ、魔王軍四天王の『速度』なのか!?」


(※実際は、ザガンが全力で荷物を運びながら、ちょうど良い距離感を維持して「先導」しているだけである)


エリナが、身軽になったおかげで、まるで羽が生えたかのような軽やかな足取りでレクスの横を追い抜いていく。舗装路の適度な反発力、さらに直前に浸かった温泉の驚異的な疲労回復効果によって、彼女の肌はかつてないほど艶やかに輝き、その顔には苦悶の色など微塵もなかった。


「あはは! レクスさん、見てください、体が勝手に前に進んじゃいます! 追いかけっこかな? ザガンさーん、待ってくださいよー!」


ザガンは背後から聞こえる、全力疾走中とは思えない聖女の屈託のない声に、思わず「ぐっ……」と呻いた。


(……この俺が、あろうことか敵の荷物を持って走っている。しかも、後ろの小娘はあろうことかお遊び気分で俺を追ってきている。だが、これはアルバス殿の言う『精神的支配』の一環……なのか本当に!? 荷物がなくなった解放感で奴らの警戒心を緩め、最後には……最後にはどうなるんだ!?)


***


数十分後。ザガンが辿り着いたのは、次の宿泊予定地として手配されていた、もはや走る王宮と呼ぶべき最新鋭の『魔導自走式・極楽スイート(魔力機関搭載型)』の前だった。


それは馬車のような優雅な外観を保ちつつも、馬という「不確定要素」を廃し、底面に搭載された魔力機関によって振動一つ立てずに自走する、アルバスの執念の結晶であった。


「ふん……。ここまで来れたか、ネズミどもめ。荷物はそこに置いておいてやる。……せいぜい、今夜が最後だと思って『休息』するがいい!」


ザガンは、荷物を丁寧に、かつ傷一つつけないよう優しく地面に置くと、再び巨風を巻き起こして地平線の彼方へと消えていった。


「……やり遂げた。アルバス殿に言われた通り、エリナ殿の手提げ袋も、塵一つ付けずに完璧に守り抜いたぞ……」


空中を飛びながら、ザガンは武人としての誇りが少しずつ摩耗していくのを感じていた。


直後、息を切らして辿り着いたレクスは、真っ先に投げ出された荷物の山へと駆け寄った。剣を抜き、殺気立った様子で自分のバックパックをひったくるようにして点検する。


だが、そこにあったのは、壊されるどころか奪われる前よりも綺麗に整理整頓され、埃一つ払われた自分の荷物だった。


「……傷一つ、ない。」


あまりに丁寧な仕事振りに、レクスは剣を握る手が小刻みに震えた。殺し合うはずの敵から受けた、完璧すぎる配慮。


命を奪いにきたはずの四天王が、全力で自分たちの荷物を「運び」、そして去っていった。


「……あいつ、一体何がしたかったんだ……」


レクスは、地平線の彼方に消えたザガンの軌跡を見つめ、またしても深い虚無感と釈然としない想いに囚われるのだった。


***


一方、魔王城。


「見ろ、アルバス! ザガンが, 人間どもの全ての物資を瞬時に奪い去ったぞ! しかも、あえて殺さずに逃がし、逃げ場のない魔界の奥深くへと誘導している……」


ヴォルガディスは、水晶球(男湯以外限定)に映るザガンの「略奪シーン」を見て、満足げに膝を叩いた。

ふと、水晶球の端に、勇者一行とは別の「人間の小集団」が舗装路を歩いているのが映り込んだ。


「……ん? アルバスよ、あの人間どもは何だ? 勇者ではないようだが、随分と暢気な顔をして魔界を練り歩いているようではないか」


アルバスは微動だにせず、冷徹な報告を続けた。


「魔王様、あれは『実証実験用のモルモット』です。勇者というVIPを確実に罠にハメるため、まずは欲深い商人や、怖いもの知らずの冒険者どもを先行して流入させております。奴らに『魔界は安全だ』という偽りの噂を流させ、人間界の警戒心を内側から腐らせるための、いわば精神的毒素の散布です。……現に、甘言に釣られ、騙されて集まった人間どもから搾取した『実験供出金』により、我が軍の軍資金はかつてない勢いで潤っております」


「クク……。人間から資金まで強奪するとは、どこまでも狡猾よな! つまり、あの行列は我が支配に屈した者たちの成れの果てというわけか。素晴らしいぞ!」


アルバスは無表情に答えながら、内心ではガッツポーズを二回決めていた。


(……順調だ。限定ツアーに参加した一般客たちが、口コミで『魔界スイーツ最高』『舗装路が神』という情報を広めてくれている。)


***


「……レクスさん、見てください! ザガンさん、私たちの荷物を、この豪華な乗り物の前まで運んでおいてくれたみたいです。とっても親切!」


荷物の山を前に、エリナが感激の声を上げる。


ミラは、無造作に置かれた自分の魔導書バッグが、最も湿気が少なく、かつ本が焼けない程度に風通しの良い場所に置かれていることに気づき、無言で、しかし深く頷いた。


「……この四天王、古書の保存環境に詳しい。恐ろしい手際」


「……っ、ふざけるな! 俺は騙されないぞ!」


レクスは、あまりに親切すぎる「略奪」に、もはや怒鳴る気力すら削がれ始めていた。奪われたはずの荷物は、丁寧に砂を払われ、持ち主ごとに綺麗に仕分けられている。


(……なんだ、この負けた感は。俺たちは今, 戦っているんじゃないのか……? なぜ, 敵の最強戦力に『荷物持ち』をさせているんだ俺たちは……!?)


勇者のプライドが、魔界のホスピタリティという名の猛毒によって、また一段と溶かされていった。そして四天王の一人は、いつのまにか、立派な『運び屋』としての才能を開花させていた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。


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