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魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜  作者: いたちのこてつ


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第4話 関所、おもてなしの最前線へ

魔王城の作戦会議室。


アルバスが広げた新たな設計図には、国境付近の関所に隣接して建設される、巨大な木造建築が描かれていた。その中央には、もうもうと湯気を上げる「大浴場」の記号。


「アルバスよ……。舗装路に菓子職人、そして今度は『風呂』か。これがどう人類滅亡に繋がるというのだ?」


魔王ヴォルガディスが、怪訝そうに眉をひそめる。対するアルバスは、待ってましたと言わんばかりにその瞳を怪しく光らせた。


「魔王様。これはただの風呂ではありません。名付けて『魔力無効化・全裸拘束トラップ』です」


「全裸、拘束……トラップだと?」


「左様です。人間どもは、この地から湧き出る特異な魔力を含んだ湯に浸かることで、まず物理的な防具――すなわち鎧を全て剥がされます。武人にとって全裸とは、死と同義。その無防備な状態で、高温の湯により思考能力を奪い、さらには微細な魔力を吸い上げる成分により、魔法の発動すら困難にさせるのです」


アルバスは、あたかも恐るべき拷問器具を説明するかのような冷徹な口調で続けた。


「さらに、施設内に漂う『沈静の香』が、勇者どもの闘争本能を根底から削ぎ落します。一度このトラップに嵌まれば、彼らは戦う意欲を失い、ふやけたナマコのように無害な存在へと変わり果てるでしょう」


「…………!!」


ヴォルガディスは背筋を震わせた。


あえて敵を癒やすふりをして、その武力と精神を同時に骨抜きにする。なんとえげつない、なんと狡猾な罠か。


「鎧を脱がせ、思考を止め、魔力まで奪うか……。しかもそれを『もてなし』の皮を被せて行うとはな。お前という男は、底の知れぬ邪悪さを持っている。感服したぞ、アルバス!」


「恐縮です、魔王様(※訳:公金で最高級の温泉リゾートが建てられるなんて、最高です)」


アルバスの脳内では、旅の埃にまみれた聖女エリナが、極上の美肌の湯でリラックスし、頬を薔薇色に染めて「極楽ですわ……」と呟くシーンが、4K画質で再生されていた。


***


数日後。国境関所の一角。そこには、アルバスによって「接客訓練」を叩き込まれる魔物たちの姿があった。


「違う! オーク! 貴様、今の『いらっしゃいませ』に殺気がこもっていたぞ。客は狩るべき獲物ではない、神様だ! 相手の目を見て、口角をあと五ミリ上げろ!」


「い、いら……しゃ……グルルァッ!!」


魔界でも有数の怪力を持つオークが、アルバスの竹刀に怯えながら、慣れない三つ指をついて頭を下げる。だが、その喉から漏れるのは、歓迎の言葉とは程遠い、獲物を威嚇するような野太い咆哮だった。


「スケルトン! 貴様は何だ、その給仕の仕方は。骨がカタカタ鳴っているぞ。客の安眠を妨げる気か? 関節に高級な油を差し、無音で動け。あと、そのおしぼりの温度は低すぎる。エリナ様の指先を冷やすつもりか!」


「カタカタ……(はい、アルバス様……)」


スケルトンは、なぜ敵であるはずの聖女の名前が飛び出したのか、なぜ冷やすことが罪になるのかという疑問を抱く暇もなかった。目の前の男が、魔王以上の殺気を放っていたからだ。


アルバスの手元には、情報源である『月刊・聖女』の別冊付録――『保存版:聖女様のデリケートな肌質と、お好みの薬湯成分100選』が握られている。


(……エリナ様は、柑橘系の香りがお好きだ。そして、少しとろみのあるアルカリ性の泉質が、彼女の白磁のような肌をより一層輝かせる……。そのためには、裏山の薬草と魔石の配分をミリ単位で調整せねば……!)


「アルバス様! 休憩所に配置するソファの弾力が、目標値に届きません!」


部下のゴブリンが報告に来る。アルバスは鋭い視線を向けた。


「妥協は許さん。敵を油断させるには、一度座ったら二度と立ち上がりたくなくなるような『沼』の弾力が必要だ。魔界中から最高級の高反発スライムの欠片を強奪……いえ、緊急徴用しろ! 皮膚に吸い付くような究極のフィット感を実現するのだ!」


この徹底した「トラップ建設」の様子を遠目から見ていた魔王ヴォルガディスは、満足げに頷いていた。


「ククク……見ろ、あの魔物たちの変わりようを。かつては粗暴だった奴らが、アルバスの知略により、獲物を油断させるための『完璧な仮面』を身につけつつある。あやつらが一斉に仮面を脱ぎ捨てた時、勇者はさぞかし絶望するであろうな!」


――そう、魔王は純粋バカだった。


もっとも、一番絶望しているのは、戦い方を忘れて「おもてなしの心」に目覚めつつある魔物たちなのだが。


魔界街道・第一のチェックポイント『魔力封印・極楽温泉関所』は、まもなく完成しようとしていた。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


本作の他にも、完結済みの作品を公開中です。


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