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魔王軍、おもてなしの極致 〜聖女の笑顔のために軍予算を「観光」へ全振りしたら、魔界が爆益を上げ始めた件〜  作者: いたちのこてつ


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第2話 加速の罠

魔界との国境に接する人間界の小国、ソリスティア王国。

その王宮会議室は、建国以来最大級の悲鳴と怒号に包まれていた。


「報告を信じろというのか! 魔王軍が……あの魔王軍が、国境から魔王城に至る全行程を『舗装』し始めたというのか!?」


国王が震える手で報告書を叩きつける。

斥候が命からがら持ち帰った魔法映像には、魔力を帯びた漆黒の石材が隙間なく敷き詰められ、滑らかに輝く巨大な「道」が映し出されていた。


「間違いありません。しかも、ただの道ではありません。道幅は馬車が四台同時に並走できるほどに広く、勾配は極限まで抑えられている……。これほどの規模の工事、一体どれほどの魔力を注ぎ込んだのか見当もつきませぬ!」


軍務大臣が青ざめた顔で付け加える。


「これは……大規模侵攻の前触れだ。この道を使えば、魔王軍の重装騎兵大隊が、わずか数日で我が国の王都まで雪崩れ込んでくる。奴らは本気だ。本気で人類を滅ぼしに来るつもりだ!」


「防衛予算を三倍に引き上げろ! 今すぐだ! 国境付近に巨大な城壁を築き、全ての騎士団を招集せよ!」


人間界は、かつてないパニックに陥っていた。

魔王軍が「兵站へいたん」を整え始めた。その事実が、百の宣戦布告よりも恐ろしい戦略的脅威として、首脳陣の脳裏に焼き付いたのである。


***


一方、魔王城。


「クク……ハハハハ! 滑稽よな、人間どもめ!」


玉座に座る魔王ヴォルガディスは、アルバスが差し出した水晶球に映る人間界の混乱を見て、愉快そうに喉を鳴らした。

そこには、慌てふためいて国境に石を積み上げ、意味のない城壁を築き始める人間たちの姿があった。


「アルバスよ。お前の言った通りだ。奴らめ、我が軍の『加速の罠』を見て、恐怖のあまり冷静さを欠いている。貴重な予算を、使う必要のない防衛設備に浪費し始めたぞ」


「御意に。恐怖こそが最大の拘束力。奴らはあの道が完成することを恐れ、勝手に自滅していくことでしょう。これこそが、無駄な血を流さずに敵の国力を削ぐ『経済的包囲網』の一部に過ぎません」


アルバスは慇懃に頭を下げ、冷徹な軍師の微笑を浮かべた。

魔王はその姿を見て、自らの右腕に選んだ男の有能さに、改めて心酔した。


「かなりの公費がかかったが、それに見合う成果だ。道一つで敵の国家予算を枯渇させるとはな。アルバス、お前の知略はもはや神の領域だ!」


「もったいないお言葉です、魔王様。だが……この計画を盤石にするためには、もう少し予算が必要となります。道沿いにあるいくつかの『拠点』を、敵の戦意を完全に喪失させるための『特殊施設』へと改装したいのです」


「許す! 好きなだけ使え! 我が国庫の金は全て、お前の知略のためにある!」


魔王が力強く宣言し、追加の予算案に印を押し当てる。

その瞬間、アルバスの背後で「くくく……」という、より深い、あるいはより歪んだ笑い声が漏れた。


アルバスの眼鏡の奥で、歓喜の炎が燃え上がる。


(……計画通り! 人間どもが勝手に騒いでくれたおかげで、追加予算が驚くほどスムーズに下りた。これで、この殺風景な魔界を、あの方をお迎えするに相応しい理想郷へ作り替えられる……!)


アルバスにとって、人間界の恐怖など知ったことではなかった。

彼の視線の先にあるのは、ただ一つ。


(ああ、エリナ様……。あなたが、私の均したこの完璧な道を歩む姿を、一刻も早くこの目に焼き付けたい! 泥に汚れず、馬車に揺られることもなく、優雅に魔界へといざなわれるあなたの御姿を……! だが、道だけではまだ不十分だ。彼女がこの地を愛さずにはいられなくなるような、決定的な『おもてなし』を重ねなければ。)


純粋バカな魔王をよそに、アルバスは、公金での「推し活」をさらに深淵へと進めていく。

執筆の励みになりますので、続きを読みたいと思っていただけたら、ぜひブックマークよろしくお願いします!評価もいただけると嬉しいです。


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