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エルフの姫、秋葉原で拾われる  作者: 高坂
第1章 秋葉原編 ―幼女化したエルフとやさぐれニートの同棲日誌―
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第5話 エルフの姫、アルバイトをする

 その異変が生じたのは、ちょうどリリィが5個目のリンゴを完食した時だった。


 ポンッ!!!


 という小さな音とともに、眩い光がリリィを包んでいた。


 そして、学人が目を開けると、リリィのひざ下まであった彼のTシャツは、今やかろうじて太ももの上部を隠しているだけになっていた。


 ――そう、リリィの姿は、5歳ほどの幼女から、16、7歳ほどの年頃の乙女の姿に変わっていた。


「こ、これは……!? 魔力が回復しておる!」


 リリィは自分の体をまじまじと見て、彼女の大きな瞳をさらに大きく見開いていた。


「ま、まさか……リンゴ、なのか!?」


 リンゴでMP回復って……ゲームじゃあるまいし。

 でも考えてみれば確かに、リンゴと言えば、アダムとイブの時代から“禁断の果実”とされた特別な果物だ。

 ニュートンの逸話だってモチーフはリンゴだった。

 死神もリンゴしか食べないらしいし、リンゴには不思議な力があってもおかしくないのかもしれない。


 学人はぼんやりとそんなこじつけじみたことを考えながら、改めて現在のリリィの姿に目をやった。


 ――これは、……いかん。


 幼女の姿の彼女も、あどけないながらに十分な美しさがあった。

 しかし、16歳ほどになったリリィの姿は、その比ではないほどの、神々しいまでの美しさを放っていた。


 ――同じ人間とは思えな……あ、いや人間じゃないのか。同じ生き物とは思えない美しさだ。


 そして、さらにまずいのは彼女の格好だった。

 少しでも動けばTシャツの裾から彼女のしなやかな肢体が見えてしまいそうである。


 ――この姿で入浴をせがまれたら、果たして俺は断れるのだろうか。


 浮かび上がってきた邪な心をなんとか掻き消して、自分の部屋から、部屋着用の短パンを引っ張り出し、リリィの手にぶっきらぼうに手渡した。


「……時にマナト、リンゴとはどこで買えるのじゃ?」


 リリィは手渡された短パンを履きながら、学人の気も知らず呑気に問いかけていた。


「リンゴ5個でこの回復量なら、毎日10個も食せば1か月程度で万全の状態になろう」


「八百屋とか、スーパーとか、どこでも買えると思うけど……って、毎日10個!?!?」


 リリィが短パンを履いたのを横目でちらりと確認しながら片手間に答えていた学人は、思いもよらぬ発言にリリィを二度見した。


「リリィ、悪いけど、俺、そんなに金ないよ……」


「何を言っておるのじゃ。恩人にこのうえ更なる施しを受けようなどと、王族の名折れ。……この世界では、“労働”をすれば、“金”が手に入るのだろう?」


 その目が妖しくきらっと光った。


「リリィは、リンゴのため、“労働”……そう、アルバイトをするのじゃ!」


 彼女は腰に両手を当て、名案だろう?とでも言いたげな表情をしている。


 ――またこの姫様は、おかしなことを言いだした。


 引き続き、波乱の日々になりそうだ。


 ◇


 数日後、学人は、リリィを連れ、秋葉原のとある店を訪れていた。

 美少女エルフがこの秋葉原で働ける場所に、彼はこの店以外に心当たりはなかった。

 学人はおそるおそるその店の扉を開けた。

 すると。


「お帰りなさいませ、ご主人様~♡」


 メイド姿に魔女のような帽子をかぶった女の子が、可愛らしい声で出迎えてくれた。


「私は魔女っ娘メイドのユウカです♡ ご主人様、お嬢様、どうぞこちらへ!」


「あ……えと、俺たち客じゃなくて。バイトの面接に来たんです。……この子の」


「そうでしたか、失礼いたしました。店長を呼んでまいりますので、奥の席でお待ちいただけますか」


 ユウカという女の子は、先ほどから2トーンほど下がった声で、てきぱきとそう伝えてくれた。


 魔女っ娘メイド時とのテンションの差に面食らいながらも、言われたとおりに店長を待つ。

 リリィは、様々な種族の女の子たちが働く店内を、不思議そうに見まわしていた。


 ――そう、ここは“異世界コンセプトカフェ” 【カフェ・あるかでぃあ】。


 魔女っ娘メイドもいれば、猫耳の生えた子もいるし、サキュバスのような恰好の子もいる。

 エルフのリリィが働くにはまさにうってつけの世界観だろう。


「お待たせしました、店長の吉田です」


 店長は、挨拶もそこそこに、早くも食い入るようにリリィを見つめていた。


「あの、お電話した結城です。この子をこちらのお店のアルバイトで採用していただけないかと思いまして……」


 学人は手でリリィを示す。

 リリィはぺこりと頭を下げる素振りを見せた。

 店長はいまだにリリィをまじまじと見つめている。


「……よう」


「へ??」


 店長の言葉を聞き取れなかった学人が聞き返すと、今度は大きな声で返事が返ってきた。


「即、採用!!! なんですかこの逸材は!?!? エルフのメイド、ちょうどうちにいなかったのよ! むしろありがとうございます!!!」


 正直、リリィの美貌をもってすれば断られることはないだろうと思ってはいた学人だったが、想定よりも早い採用宣言に何故か誇らしい気持ちになった。


 ――うんうん、うちのリリィは逸材だよな、わかるわかる。


 "私が拾いました"とでもラベリングされていそうな、生産者の顔になっていた学人に反して、リリィは少し不満そうだった。


「店長殿。リリィは、メイドではない。高貴なる大国、アストリアの王女である」


 学人は一瞬やべっ、という顔をしたが、店長は特に気にしていないようだった。


「なるほどね、メイドじゃなくて姫設定もありだよね~。 うんうん、リリィちゃんは姫でいこうか!」


 そのままとんとん拍子に事務手続きを終え、晴れてリリィはここ、【あるかでぃあ】の店員として働くこととなった。


「そしたら、お店の女の子たち紹介するね。こちらの魔女っ娘メイドがユウカちゃん。猫耳少女がサクラちゃん。サキュバスがアオイちゃんだよ」


「「「よろしくおねがいしまーす」」」


 ユウカ、サクラ、アオイは声をそろえてリリィにぺこりと頭を下げる。


「我が名は、リリィ=フィンディール。エルフの魔法大国、アストリア王国の王女である。この世界の知識は浅いゆえ、迷惑をかけることもあろうが、よろしく頼む」


 リリィも深々と頭を下げながら自己紹介をする。

 ……が、当然、三人はぽかんとした顔で目を見合わせていた。


「あー、お店の設定以外は開示したくない系の子?」


「……そういう子もいるよね。しょうがないしょうがない」


 若干の空気のひりつきを感じた店長が慌てて割って入る。


「ま、まあ、世界観の作り込みがすごいのは、お店で働くうえではいいことだからね! 三人とも、リリィちゃんの面倒みてあげてね」


「はーい。……リリィちゃん、って本名なの? 源氏名はどうするの?」


 店長の命を受け、ユウカが先陣を切って問いかける。

 どうやら彼女は、てきぱきしたバイトリーダータイプの女性のようだ。


「げんじな、とは? リリィはリリィであり、それ以外の何者でもない」


「……えっと、こういうお店では、本名じゃなくて仮名で働かないといけないの」


「何故、名を偽る必要がある? リリィの名は、アストリア国王たる父上より賜りし誇り高き名であるぞ」


 リリィは心底不思議そうな顔でそう言った。

 これにはユウカも呆れ顔だった。目線でヘルプを求めると、すぐさま店長が再び介入した。


「源氏名はニックネーム……愛称みたいなものだよ、大丈夫! そしたら……リリカちゃんにしようか」


 いまだにきょとんとしているリリィをよそに、こうして、異世界コンセプトカフェ【あるかでぃあ】の姫系リアルエルフ店員・リリカが爆誕したのである。


最後まで読んでいただきありがとうございます!


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しばらくは毎日ペース、17時頃更新を予定しています!

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― 新着の感想 ―
秋葉原の設定がここで活きてくるとは。
死神はりんごしか食べない…笑
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