~!!!
ゴランは、ごく普通のマンドラゴラである。
毎日地道に魔力を蓄え、毎日叫び声をあげる瞬間がいつ来るのかドキドキしている、齢三か月のマンドラゴラである。
今日も今日とて、平凡な家庭の寄せ植えの鉢のど真ん中で奥さんがかけてくれたホースの水を浴びたあと、行きつけのコンビニで肉まんを大量に買い込んできた旦那さんが撒き散らした美味しそうなニオイを吸い込みつつこっそりおなかをグウと鳴らしていた―――のだが。
キ、キキ~!キキュイー!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
ゴランの魂と…、女神が対面している。
「ゴランさん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「・・・。」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください。」
────────
ゴラン(98日)
レベル2
称号:転生魔草
保有スキル:~!!!
HP:3
MP:2
────────
「・・・・・・。」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…マンドラゴラの前に現れた!
「…。」
うろたえない、マンドラゴラ。
「……。」
スライムは、いきなり遭遇したヤバイ魔草を見て…、育つまで待つか、とりあえず食っておくか迷っている!
明らかに未成熟ではある、だがしかし、なかなか出会えない希少種…。
こんなわかりやすい草原のド真ん中では、誰かに見つかったら即採取されるのがオチだよね!
よし、さっさと食べちゃお!
触手を伸ばしたスライムが、そっとマンドラゴラを引き抜いた、その時。
「《~!!!》」
若いマンドラゴラの断末魔を真正面から浴びたスライムは、でろでろと溶け始めた!
なんと、殺人超音波の振動がスライムの水分子の共有結合を破壊した模様!!
シャビシャビになり始めたスライムは、気力を振り絞ってマンドラゴラを捕食した。
そこそこの魔力を吸収することができたスライムは、コアから剥がれ落ちた外皮を草原に残し、近くにある聖者の泉で新しい水分を補充して、元の姿かたちを取り戻した。
聖なる力を宿したスライムは世にも珍しいキュアスライムとなり、多くの命を救ったという。
「………。」
マンドラゴラは、時間を巻き戻されて平凡な家庭の寄せ植えの鉢のど真ん中に植わっていた。
ホースを片付けていた奥さんが旦那さんが出しっぱなしにしていたスタッドレスタイヤに躓く前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
マンドラゴラは、コンビニで肉まんを大量に買い込んできた旦那さんが撒き散らした美味しそうなニオイを吸い込みつつこっそりおなかをグウと鳴らした。
家の近くの交差点から、車の暴走事故が発生した音が聞こえてきた。
「………。」
マンドラゴラは、ごく普通の草のふりをしてぐんぐん大きく育っていたのですが、ある日近所に住む業突く張り婆さんに鉢ごと盗まれてしまい、見目が悪いと呟きながら引っこ抜かれたので渾身の力を込めて魔声をあげて成敗したあと鉢を抱えて自らの足で住み心地のいい家に戻り、仲良しの花たちと風に揺られながら秋を迎えたのち、ごく普通の花に生まれ変わることを願って眠りについたそうです。
なお、異世界転生後のもようはこちらで物語になっております(*'ω'*)
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