あたし、何やってんだろ…orz
河邑仁美は、ごく普通の落ち込みがちである。
毎日何か失敗し、毎日誰かに平謝りをする、齢24の落ち込みがちである。
今日も今日とて、30分かけて封入作業したお礼状の不備に気付かず無駄に時間を使ってしまった事を謝り倒した後、行きつけのコンビニでキャラものの絆創膏とメンディングテープを買って家路についていた―――のだが。
キキキキキ!!ギュイ――――イ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
河邑仁美の魂と…、女神が対面している。
「河邑仁美さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ…」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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河邑仁美(24)
レベル28
称号:転生者
保有スキル:あたし、何やってんだろ…orz
HP:29
MP:80
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「いきなり草原って、こんなの…そっか、こんなとこまで飛ばされちゃうくらい、うん……」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…落ち込みがちの前に現れた!
「スライム…、あたしなんか食べたら、食中毒になるよ…? 貴重な生命をあたしなんかのせいで…そんなことしちゃダメ…」
うろたえる、スライム。
「そうだ、保有スキルで何とか…《あたし、何やってんだろ…orz》?うん、確かにその通りだよね……ブツ、ブツ……」
ビビるスライム。
ねえ、この人…こっちを見ようともしないで下向いて、ずっと一人で何言ってんの…?
「わかってる、どうしようもないって事は…、なんで生まれてきちゃったんだろうね? 役立たずで申し訳ない…、謝りどおし…謝りたい…許されるはずない…でもあたしだって…わかってる、しょうがない…、でも……」
ぼふっ…ぼふっ…。
ぼふ、ぼふ、ぼふぼふぼふぼふ……!!!
落ち込みがちがクサクサするたびに、重苦しいねっちょりしたダークマターが発生していく!!
こんなのに巻き込まれたら大変だー!
スライムは大慌てで逃げ出した。
平和な草原のど真ん中におどろおどろしい黒い靄が発生したので、あらゆるモンスターたちがビビり散らかしているぞ!!
「そうだよね…こんなんじゃモンスターだって近寄らないよね…だってキモいもん、めんどいもん、ウザいもん、関わりたくないもん…、ホント《あたし、何やってんだろ…orz》、こんな異世界に来てまで…どうしようもない…申し訳ない……」
ダークマター溜まりのど真ん中で身動きが取れない落ち込みがち。
己の不幸を嘆いては闇を生成し、ますます身動きできずさらに…という負のスパイラルから抜け出せない!
広大な草原のおよそ半分を黒い靄が覆った頃、先の勇者との戦いですっかり力を枯渇させられて風前の灯火状態の魔王の元に、とてつもないエネルギーが野放しにされていると連絡が届いた。
穏やかに消滅する予定だった魔王だが…、事態を収拾させるために黒いモヤモヤをすべて取り込むことを決め、太陽の光さえ飲み込むどす黒い闇玉の中に入って両手を広げた。
枯れ枝のような体にみるみる肉がつき、闇の統治者としての風貌を取り戻していく魔王。
靄が晴れ、落ち込みがちが涙目で見上げると…見目麗しい魔王と目が合った。
もしかして恋が始まるかも…?!
落ち込みがちが期待を抱いた、その時。
ぱくー!!
またこのような騒ぎが起きては…困る!!
スライムはダークマターが一ミリも出ていない状態を見逃さず、落ち込みがちをまる飲みした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
落ち込みがちは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
落ち込みがちは、コンビニでキャラものの絆創膏とメンディングテープを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「…あたしもいつ事故にあうかわかんないよね、車の多い社会ってやだな…でも車がないと不便だし…免許取るのも難しいし…お金かかるし…やだな……」
落ち込みがちは、些細なことでも盛大にやらかしたと思い込み自分を責めるという癖を手放せず生き辛さを抱えて日々を過ごしていましたが、勤務先にウルトラポジティブな後輩がやって来てさんざんふりまわされているうちにいつしか図太さをゲットし、繊細な部長を励ますレベルまで成長したのち家庭に入って、能天気な子供と一緒にガハガハ笑いながら明るい家庭を築き、愛する妻が病に倒れたことでひどく落ち込む旦那を励ましながら58歳でこの世を去ったとのことです。




