とにかく出会いというものがなくて…
岡島信二は、ごく普通の婚活男性である。
毎日まだ出会っていない運命の相手に思いを募らせ、毎日手当たり次第に女性会員のプロフィールにいいねをする、齢45の婚活男性である。
今日も今日とて、82回もメッセージをやり取りした女性が別の男性会員と成婚に至って退会するという話を聞いて憤慨したあと、行きつけのコンビニでマチアプ徹底攻略ムックとシーブリューズシャンプーを買って家路についていた―――のだが。
キイィイ!!キ、キ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
岡島信二の魂と…、女神が対面している。
「岡島信二さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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岡島信二(45)
レベル1
称号:転生者
保有スキル:とにかく出会いというものがなくて…
HP:64
MP:1(本気を出したら67)
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「というわけで、いきなり草原に放り出す…、こっちの都合なんて全く考えてもらえないシステムね。弱者は従うしかないってね…はあ」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…婚活男性の前に現れた!
「スライムだ…本物が出てくるという事は、現実なわけか。一度も女性と対面が叶わないくせに…デロデロのモンスターと対面って…はあ」
やな感じのため息をつきまくる、婚活男性。
「保有スキルもさあ…《とにかく出会いというものがなくて…》って…異世界に来てまでモテない言い訳させるのはひどくない?」
スライムは目の前で腐りまくっている婚活男性を見てなんだか居た堪れない気持ちになったので、ご縁がないとぼやいている知人を紹介してあげる事にした。
うばほん!!
婚活男性より背が高く、胸部はのぺっとしているが下半身はかなり豊満で、いがぐり頭ヘアがキュートな額のド真ん中から触手が伸びている女子があらわれた!
どうやら8代前にスライム族と恋に落ちた人間の子孫らしい!
女子は、いつ声をかけてもらえるんだろうともじもじしている!
「うーん、自分より背の高い人はちょっとなあ。僕、自分の髪が貧弱だから…髪型には気を使って欲しいタイプなんだよね…。女性らしさの象徴が見当たらないのは…残念ポイント高すぎ。見た目をディスるわけじゃないけど、明らかに異様なのは…整形してもらえばなんとか?ちゃんと働いてるんだよね?専業主婦希望だったら断れるかな、生活費の折半は絶対条件だし。ちゃんと食えるもんつくれるのかなあ、マズいもん出されるのは困る、僕料理しないし。…というか、ぜんぜん声かけてこないけど失礼過ぎない?こっちは返事するの待ってんだけど…ぐずだなあ…あんなんで僕のスピーディーな日々についてこれるの?」
婚活男性の失礼極まりないつぶやきは、女子にバッチリ聞こえていた。
額の真ん中から生えている触手は人間の鼓膜的なものであり…ついている耳と合わせて三つ分の聴力が備わっているのだ!
ひどいことを言われた女子はショックを受けて泣き出した!
それを見たスライムは、安易に引き合わせてしまった事を心底後悔し、ふざけたド畜生をまる飲みした。
深く傷ついた女子だったが、その後わりとすぐに異世界転生してきた町人と恋に落ち、スライムの助力を受けながら幸せな家庭を築いたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
婚活男性は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
婚活男子はコンビニでマチアプ徹底攻略ムックとシーブリューズシャンプーを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「いい車もああなっちゃおジャンだな…車は持たないに限る、ムダ金使うし」
婚活男性は、いつまでたっても女性とマッチングできずにくさくさした毎日を送っていましたが、たまたま見たテレビ番組でご縁を結ぶ企画の参加者に応募して採用され、徹底的に婚活に挑む者の覚悟と常識を叩き込まれたのち盛大にフラれたものの、その後入会した大手結婚相談所の集団お見合い会場で女性陣の注目を集め、同い年の女性と付き合ったのち独り身の方が気楽だと思うようになり、ながく一人暮らしを続けて介護施設に入所を決めた翌週、高齢者が運転する暴走車に吹き飛ばされてこの世を去ったという事です。




