へん・しん!
山口啓介は、ごく普通のライダーファンである。
毎日朝イチで変身ベルトを腰に装着し、毎日テンションの上がった状態で出勤する、齢51のライダーファンである。
今日も今日とて、有名ニューチューバーが歴代ライダーのベルトを装着してみるという企画を帰りの電車の中で視聴したあと、行きつけのコンビニでクリスマスキャラケーキの予約をして家路についていた―――のだが。
キキイイイイイイ!!キュギキイ――――!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
山口啓介の魂と…、女神が対面している。
「山口啓介さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ?」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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山口啓介(51)
レベル34
称号:転生者
保有スキル:へん・しん!
HP:36
MP:28
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「というわけで、いきなり草原?!こんな展開…ファンタ☆ジック!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…ライダーファンの前に現れた!
「うぉおお…敵、襲来!!!」
血肉わき上がる、ライダーファン。
「これは…戦うべきだ!スキルは…《へん・しん!!》これは変身するしかない、くぉおお…どのライダーに?!昭和か平成か令和か…主役か脇役か…ウェポンは…バイク…」
音速で記憶を探っているライダーファン。
スライムは今にも襲いかかろうとしている!
「くっ、こうなったら…いちばん野性味のあるやつでっ!!!アーマージョーン!!!」
いつの間にかライダーファンに装着されていたコンドルモチーフの腕輪が光る!!
ライダーファンの目が赤く光り、背中に背びれが生え、うおぉおお…ちょっとエグみのあるライダーに変身したぞ!!
「ケケーッ!!!」
ライダーはスライムに飛び掛かり、噛みついて、咬み千切ろうと…
「グぎゃあああああああああ!!!」
スライムの猛毒が付着したライダーは、見せ場を披露することなく絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
ライダーファンは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
ライダーファンは、コンビニでクリスマスキャラケーキの予約をして家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「車は怖いな…ま、バイクも怖いけど」
ライダーファンは、小さい頃からためにためた変身ベルトをいつか子供ができた時に語って聞かせて見せて一緒に楽しむつもりで大切に押し入れの中に保管してきたのですが、いざヤンチャ200%の男児(しかも双子)の親になってみるととてもじゃないけど宝物を出せたものじゃないという事をひしひしと感じる羽目になり、ひたすらパパのお部屋には入らないでねと厳しく言い渡して仕事に精を出していたのですが、大きなプロジェクトを任されて数日間家を空けた隙に侵攻を許してしまい、外箱の破損はおろかもう販売していない貴重なベルトまで修復不可能な状態にされて心底落ち込んだりしたものの、息子たちがライダー役でデビューをした事で英才教育の賜物だと持ち上げられることになり気分を良くし、後年はご機嫌に過ごすことが多くなり、お気に入りのライダーたちの1/6サイズフィギュアに囲まれて99歳の生涯を閉じたとのことです。




