大和撫子
白石萌亜は、ごく普通のモテ女である。
毎日ナンパされて、毎日なにかオマケしてもらえる、齢23のモテ女である。
今日も今日とて、しつこいナンパを振り切れず困っていたらダンディなオジサマに助けられて良かったと思ったのもつかの間まさかのパパ活打診を受けげっそりしたあと、行きつけのコンビニで煮卵2個入りパックとグリーンスムージーを買って家路についていた―――のだが。
キキキキキキキ!!キ――ッ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
白石萌亜の魂と…、女神が対面している。
「白石萌亜さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ…」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
白石萌亜(23)
レベル86
称号:転生者
保有スキル:大和撫子
HP:2
MP:28
────────
「というわけで、いきなり草原…どうしよう……」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…モテ女の前に現れた!
「スライム?ちょっぴり、カワイイ…」
うろたえない、モテ女。
「あっ、保有スキルで仲良くなれるかも?《大和撫子?》えっと…そんな御大層なものでは…!」
スライムは両手をパタパタさせているモテ女の…サラサラのストレートロングヘアーに見惚れている!
なぜならば今、スライム界隈では人毛をワサワサと愛で倒すのが一大ブームになっているのだ!
「えっと…、触りたいの?良かったら、どうぞ…、痛くはしないでね?」
スライムは触手の先でそっと長い黒髪をすいた。
サラサラのすべすべ、ツヤツヤで繊細、それでいてコシのある健康な毛!
しかも毛のない部分もプルプルぽかぽか、変な粉もついてないしイヤなニオイもしなくて、さらには穏やかな性格、大人しくて暴れない希少種!
ちょっとか細いのが心配だけど、たくさん食べさせたら多分もっと可愛くなる!!
スライムはモテ女を一生大切にかわいがることをきめ、おうちにお迎えすることにした!
スライムの自宅に招かれたモテ女は、ドジっ子パパとピュアなお姉ちゃん、わんぱくだけど涙もろいお兄ちゃんに生まれたばかりであどけない弟と一緒に暮らし始め、猫かわいがりされた。
美人間コンテストでも優勝し、このまま幸せな日々が続くのだと信じていたある日、優勝を逃したロックスライムが逆恨みしてスライムの自宅を襲撃した。
三日三晩かかって撃退し、これでモテ女の安全が守られたと思ってかごの中をのぞいたスライムは、信じられないものを見た。
なんと、モテ女の髪の毛がバッサリと切り落とされて…丸坊主になっていたのである!
スライムファミリーはモテ女がいがぐり頭になっても猫かわいがりを続けていたのだが、肩のあたりまで髪が伸びたあたりで弟が海で捕獲してきたデスシュリンプに襲われ、絶命した。
深い悲しみに包まれたスライム一家は、それ以降ペットを飼う事はしなくなったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
モテ女は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
モテ女はコンビニで煮卵2個入りパックとグリーンスムージーを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「怖い…、もうちょっと早く通りかかってたら、お嫁に行く前に天に召されていたかも…」
モテ女は、モテ散らかしているせいで軽薄な女だとみられてしまう事にげっそりしながら年を重ね、4度目の愛人契約交渉を突っぱねたあとヤケクソになって市が主催するショボいお見合いイベントに参加し、初対面の子供おじさんのカミカミの告白を受けて思うところがあり、なんとなくお付き合いを開始してみたところ思いがけずウマが合い、遅めの結婚をして子宝にも恵まれ、モテてモテて仕方がない娘の相談に乗ったりしながら6人の孫の世話に明け暮れたのち、愛する夫を追いかけるように89歳でこの世を去ったとのことです。




