今度の日曜、イベントがあるんだけどさあ!
土岐信也は、ごく普通の地域のおじさんである。
毎日知り合いと遭遇して他愛もない話をし、毎日地域を盛り上げるためにはどうしたらいいか模索する、齢60の地域のおじさんである。
今日も今日とて、防災フェアで余ったハザードマップを回覧板に挟んで配布してはどうかという意見と町内会に入っていない家に放り込んだ方がいいという意見で対立しているのを丸く収めたあと、行きつけのコンビニでまろやかキムチとカオマンガイを買って家路についていた―――のだが。
キキキキキ!!キュギイ――――!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
土岐信也の魂と…、女神が対面している。
「土岐信也さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
土岐信也(60)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:今度の日曜、イベントがあるんだけどさあ!
HP:38
MP:22
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「というわけで、いきなり草原?ちょっと待て、この手入れの行き届いている感じ…自治体でもあるんだろうか…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…地域のおじさんの前に現れた!
「これは…先月の地域交流フェスで見たぞ、スライムだ!聖水をかければ消滅するとか…どこにあるんだ、そんなもの!!」
うろたえる、地域のおじさん。
「はっ、そうだ、このスキルというものが役立つと聞いたぞ!《今度の日曜、イベントがあるんだけどさあ!》って、ナニ?」
うばほん!!!
手作り感たっぷりの、イベント告知チラシがわんさか出てきたぞ!
「ええと、手作り感満載のアットホームなイベントに興味あるかな?焼き芋作りに刺しゅう体験、お達者体操に合唱、ゲーム大会にカラオケ、ハロウィンカボチャの作り方講座に詩吟、俳句もあるよ、大正琴とかどう?お母さんマーケットやおじさん研究発表会、パパの活躍する運動会に子どもハンドメイドショップ、おばあちゃんのふるまい市、近隣大学とのコラボマルシェなんかもあるよ!キッチンカーがたくさん来るんだ、おいしいものがおなかいっぱい食べられるよ!僕のおすすめはね、緊急救命講座だよ!ちゃんと参加証ももらえるし人命救助が…」
うわあ、どれもこれも楽しそう!
スライムは悩みに悩んで、〈ご近所さん縁日〉イベントのチラシを手に取った!
「お目が高い!このイベントはね、ご近所さんで集まって地域のつながりを広げようってイベントで、顔見知りを増やそうって意図があるんだ!みんなが得意料理や趣味の製作品を出してねえ…」
うばほん!!
ご近所さん縁日が出てきた!!
スライムは大喜びでお店を回り始めたぞ!!
ホットプレートで作るチヂミ、カセットコンロで焼いてるジャンボマシュマロ、こってりしたカレーにわたあめマシンで作ったブドウあめ、手作りサンドイッチに自家製ソーセージ、ちょっと焦げた唐揚げにカワイイあみぐるみ、トゲトゲしたくす玉、似顔絵コーナー…異世界のお祭りってちょー楽し~!!
ピー、ごろ、ゴロゴロゴロ…。
スライムが新聞紙で作るエコバッグブースに足を踏み入れた時、ヤバい音が聞こえてきた。
なんと…山田さんちが出していた焼鳥の火の通りが悪かったらしく、食中毒を起こしたもよう!
猛烈な腹部の痛みに我を忘れたスライムは、ド派手にのたうち回ってあたり一面を踏みつぶしてしまった。
腹痛が収まり凄惨な現場を目の当たりにしたスライムは、全てを飲み込んでなかったことにした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
地域のおじさんは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口前に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
地域のおじさんは、コンビニでまろやかキムチとカオマンガイを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「もう少し早く通りかかっていたら巻き込まれていたかもしれない…。交通安全啓発のイベントを増やすよう会議で発案しておこう、怖い怖い…」
地域のおじさんは、町内会の重鎮どもが年々ガンコになってストレスがハンパなくなりブチ切れ、一切の活動をやめるという暴挙に出て混乱を巻き起こしたりもしましたが、若い世代の役員たちが困っているのを見て居ても経ってもおられず再び活動するようになり、人と人をつなぎ多くの地域住民から多大なる信頼を得て88歳まで多くの団体の責任者をつとめ、来月になったら超100MENメンバー(100歳以上が入れるサロンの会員)になれるとワクワクした翌日、ゲートボール場に現れないことを心配した町内会長に玄関で倒れているのを発見されて、目を覚ますことなくこの世から旅立ったとのことです。