ニャ〜
タマヲカシキは、ごく普通の飼い猫(脱走癖アリ)である。
毎日お兄ちゃんのジーパンの裾で爪を研ぎ、毎日彼氏からラインが返ってこないと涙をこぼすお姉ちゃんにモフモフの腹毛を貸す、齢8の飼い猫である。
今日も今日とて、お母さんにばりょばりょと全身をブラッシングしてもらったあと、行きつけのコンビニ裏で地域猫が餌付けされているのを確認し家路につこうとしていた―――のだが。
キキキキイィイ!!キキ――――ッ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
タマヲカシキの魂と…、女神が対面している。
「タマヲカシキさん、あなたは気の毒ですが猫生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「ニャッ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
タマヲカシキ(8)
レベル6
称号:転生猫
保有スキル:ニャ~
HP:14
MP:8
────────
「ふな~ん…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…飼い猫の前に現れた!
「ゔぅ~」
尻尾を太くする、飼い猫。
「フハッシャァアアアア!!!」」
スライムは飼い猫の余りの剣幕に驚き、震えあがった!!
「ぉああ゛~!!ガ~…」
なんか二倍くらいに膨れ上がってて、近寄れそうにない…。
モフることをあきらめたスライムは、草原の向こう側に消えた。
無事敵を退けた飼い猫は、一匹で草原を散歩し始めた。
オアシスで旅人と遭遇した飼い猫は警戒して距離をとっていたが、焼き魚をちらつかされたのでおそるおそる近づき、一口かじってみた。
これ、ウマー!!
もっと欲しい、もっとちょうだい!
「《ニャ~》」
スキルが発動し、旅人は消滅した。
なんとこのスキル、超必殺一撃成敗モノ!!
旅人が食べ残した焼き魚をたらふく食べた飼い猫は、食後に悪食ライオンと遭遇した。
「フーッ!!!シャアアアアアアアアア!!!」
三倍に膨れ上がり一生懸命威嚇していた飼い猫だったが、パクッといただかれてしまった。
悪食ライオンは、三日後に巨大な毛玉を吐いたという。
「…ぐるぅ?」
飼い猫は時間を巻き戻されて、コンビニの裏口付近に立っていた。
コンビニの裏口付近で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
飼い猫はコンビニ裏で地域猫が餌付けされているのを確認し、家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「ニャ~」
飼い猫は、スリムな体を生かして脱走を繰り返していたのですが、飼い主がカリカリの種類を変えたあたりから急激に丸くなりはじめ、外に出られなくなって完全に家猫化し、お父さんが拾ってきた子猫の世話をするのに疲れて少しやせたりもしましたがのんびりまったりと年を重ね、お姉ちゃんがお嫁に行ったのを見届けた翌週19歳でこの世を去ったそうです。