い〜しや〜きいもぉ〜、おいもっ!
及川和彦は、ごく普通の焼き芋屋である。
毎日さつまいもをオーブンに投入し、毎日軍手を装着してアツアツのイモを取り出す、齢50の焼き芋屋である。
今日も今日とて、清楚なお嬢さんが29本まとめてお買い上げしてくれたので早上がりできたなあとホクホクしたあと、行きつけのコンビニで乳酸菌五倍飲むヨーグルトとひじき豆を買って家路についていた―――のだが。
キイィ!!ギュギィイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
及川和彦の魂と…、女神が対面している。
「及川和彦さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
及川和彦(50)
レベル6
称号:転生者
保有スキル:い〜しや〜きいもぉ〜、おいもっ!
HP:36
MP:66
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「というわけで、いきなり草原!?おいおい、オレの貯金!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…焼き芋屋の前に現れた!
「スライムだ?!武器も何もないのに…これは…」
うろたえる、焼き芋屋。
「はっ、保有スキル!《い〜しや〜きいもぉ〜おいもっ!?》イモでなんとかなる?って、どこに…」
うばほん!
焼き芋屋のキッチンカーが出てきたぞ!
ぐぐ、くぅ~、きゅるる…!
スライムは焼き芋のいいにおいをかいでおなかがなった!
「自慢のベニアズマ、食ってみて!」
スライムはホクホクとしたやさしい甘みを堪能した。
コレ、ウマー!
「これ、紅はるか!どう?甘みに深みがあるでしょ!」
スライムはなめらかでしっとりしたパワフルな甘さにうっとりした。
コレも、ウマー!
「こっちはね、小ぶりだけどすんごく甘いの!1回は食べてもらいたいナンバーワン…安納芋!」
スライムはねっとりしっかりバッチリ甘いクリーミーな食感に感激した!
「これは鳴門金時、これはシルクスイート、インカのめざめもあるよ、バターで食べてものりしおでも美味しいの!」
スライムはあらゆる芋をごちそうしてもらって大満足だ!
このお店、めっちゃごひいきにしよ!
心に誓ったその時!
ぷぅ~
スライムはおならをしてしまった!
恥ずかしさで赤くなるスライム。
ずいぶんカワイイな…焼き芋屋がホッコリしていたら、風に乗って放屁成分が
「…きゅぴゅっギュエェエ?!カッ、カハッ…」
スライムの猛毒ガスを吸ってしまった焼き芋屋は、おかしな悲鳴をあげて絶命した。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
焼き芋屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
焼き芋屋は、コンビニで乳酸菌五倍飲むヨーグルトとひじき豆を買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「うッ…、俺グロ耐性ないんだよ、お…んグッ、ウップ……」
焼き芋屋は、焼いた芋にイモチップス、冷やしスイートポテトにイモンブラン、芋まんじゅうに干し芋、ポテトサラダにベイクドポテト、イモクレープに芋ようかん、イモクッキーにいも汁、思いついた端から試作と販売を繰り返し、爆発的大ブームにはならなかったもののわりかし店舗人気をキープし続け、76歳で孫に2代目を任せたのち引退しましたが、たった2年で相談もなく勝手にわたあめ屋に転向されてしまい、がっくりきてテンションが戻らないまま80歳でこの世を去ったそうです。