最近の若者はなっとらん!
中澤芳治は、ごく普通のクソジジイである。
毎日年下連中を睨みつけ、毎日欄間の上に飾られているご先祖様たちの写真に頭を下げる、齢74のクソジジイである。
今日も今日とて、礼儀と気遣いのなってないスーパーのレジ打ちババアに説教をしてやったのにバックヤードに連行するとは何事だと頭の悪い店長を怒鳴りつけたあと、行きつけのコンビニでカップかき氷とジャムパンを買って家路についていた―――のだが。
ガキィイイイイイイ!!キキキキキキ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
中澤芳治の魂と…、女神が対面している。
「中澤芳治さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「何を言っておるのだ!!!」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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中澤芳治(74)
レベル84
称号:転生者
保有スキル:最近の若者はなっとらん!
HP:2
MP:1
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「なんじゃい!!ここはああああアアアアアアア!!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…クソジジイの前に現れた!
「誰もおらんのかっ!!!説明をせんかっ!!!どうしてこういう事をする?!ふざけるなァアアアアアアアア!!!」
怒り心頭のクソジジイ。
「これだからダメなんだ!!!まったく《最近の若者はなっとらん!》人の迷惑を考えんかっ!!!どうせ年寄りなんか適当に相手をしとけばいいと気を抜いておるんだろう、どいつもこいつも年寄りをバカにしやがって!!俺たちの世代が頑張り通してやったから今の日本があるんだぞ?!腑抜けて大和魂の消え失せたお前らなんぞあっという間に……」
なんでこの人、こんなに怒ってんだろ…。
スライムは物珍しさで目が離せなくなった。
「わしは働けると言っておるのに後進が育たないとかぬかしやがったのだ!!たかが30年働いたひよっこに現場など預けることができるわけがないだろう!!仕事のしの字も拾得できん無能どもが一人前に目の上のたんこぶあつかいしやがって!!!勇退された先輩方はみなあとは任せたと涙を拭って退社した、それなのに汚職事件だの偽装発覚だのセクハラだのモラハラだの…恥を晒すのはいつも若い奴らだ!!!年上を敬わない今の時代が…実に情けない!!!ああ、口惜しい…今後わしはずっと言い分を蔑ろにされるのだ!!これからもきっと…、この世界の仕組みが間違っている…、せめて話は最後まで聞け…、憎たらしい…」
そうだね、若い人の意見は最後まで聞いてあげないとね。
12556歳のスライムは、クソジジイの言い分をすべて大人しく聞いてあげたあと、まる飲みした。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
クソジジイは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
クソジジイはコンビニでカップかき氷とジャムパンを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「また若い奴らが無謀な運転をしたのか!!人の免許を取り上げる事ばかり考えておるからこういうことになる!!圧倒的に年寄りの方が運転経験年数が多く、危機回避能力だって高い!!わしはまだまだ車を運転するぞ!!!」
クソジジイは、なにかにつけて年下にダメ出しをし続けとにかく人という人すべてに嫌われたあげく、同い年の町医者に誤診されて入院することになったりもしましたが、「憎まれっ子世に憚る」を地で行き99歳まで達者に暮らし、100歳の御祝いが市から贈呈されますよという知らせに来た職員を追い返した翌年、荒れ果てた老化の真ん中で干からびているのを警察に発見されたとのことです。