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深追い禁止

冴木紀子は、ごく普通の耳掃除屋である。


毎日お客様の耳の中をのぞき込んで、毎日発掘日誌をSNSに投稿する、齢26の耳掃除屋である。


今日も今日とて、まる二年耳掃除をしていないというお客様に遭遇して気合を入れて臨んで肩透かしを食らったあと、行きつけのコンビニでルーペ付きのとげぬきとバナナバウムクーヘンを買って家路についていた―――のだが。



キイイ!!キキ――――!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

冴木紀子の魂と…、女神が対面している。


「冴木紀子さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

冴木紀子(26)

レベル10


称号:転生者


保有スキル:深追い禁止


HP:13

MP:16

────────




「というわけで…、スゴイ絶景だ~!」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…耳掃除屋の前に現れた!


「スライム?わ~、わりかし大きい!」


うろたえない、耳掃除屋。


「ウーン、ちょっとピンチなのかな? 保有スキルを試してみよ…《深追い禁止?》なんのことだろ…まさか…耳のないこのスライムに、耳掃除をしろと…?」


うばほん!


耳そうじ茶房うたたね(耳そうじ+お茶&手作り和菓子が楽しめる店舗)の施術ルームが出てきた!!

スライムは、ちょっと細長くなって施術用のリクライニングシートの上に乗っかった。


「お客様は初めてのご来店ですよね? 当店はイヤースコープをのぞきながら八種類の道具を使って優しく耳の中のお掃除をさせていただいております。やさしく丁寧にお掃除するので、少々お時間がかかってしまうのですが宜しかったですか?…施術後に美味しいお茶とお菓子をお出ししますので、楽しみにしていてくださいね!では、はじめさせていただきます…」


耳掃除屋は、温かいタオルを目の部分っぽい場所にそっと乗せ、耳を探した。

よーく見ると…、左右に小指が入りそうなへこみが二つ…これ、耳だよね……?


耳掃除屋は、そっとへこみにイヤースコープを差し込んだ。

…ホコリに毛にボソッとした塊、なんかのカケラにプリッとした粒…これは相当堀りがいのありそうな耳穴だ!!!


テンションが上がった耳掃除屋は、先を丸く加工してあるピンセットを取り出した。

大物をつまみ、そっと引き出そうとしたその瞬間!!


はっくしょん!!!


「って、キャ…ぎゃあああああああああ!!!」


耳掃除屋がピンセットを突っ込んだ穴は、鼻の穴だった!!!

スライムのクシャミで吹き飛ばされた耳掃除屋は、猛毒のしぶきを浴びて絶命した。




「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


耳掃除屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


耳掃除屋はコンビニでルーペ付きのとげぬきとバナナバウムクーヘンを買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「もうちょっと早く通りかかってたら、五年ぶりの来店のお客様のお宝、掘れなくなってたかも…こわ~」


耳掃除屋は、のんびりゆったりお客様に癒しをお届けする仕事が天職だと感じていたのですが、やけに神経質なおっさんにウザいことを言われて退職せざるを得なくなり、長らくご愛顧いただいた皆さんに感謝のお手紙を渡してご多幸をお祈りしていたところ「僕だけの専属耳掃除屋さんになってください、できれば…長い人生の終着駅まで!」と思いがけず熱烈な告白をされて、若干戸惑いながらも87歳で手が滑って夫の鼓膜を破るまで丁寧な耳掃除をし続け、100歳を目前にしたある日、終着駅で待ちぼうけを喰らっている愛する人の元に旅立ったという事です。


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― 新着の感想 ―
耳掃除屋、江戸時代には存在していたそーですな。
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