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吹いて来い、風!!

橋口幸太郎は、ごく普通の桶屋である。


毎日店の商品にはたきをかけ、毎日風が吹いても儲かんねえんだよと軽口を叩く、齢58の桶屋である。


今日も今日とて、桧と杉と椹の発注を済ませたあと、行きつけのコンビニでお弁当用のピックとパンパンマングミを買って家路についていた―――のだが。



キィーッ!!キキキイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

橋口幸太郎の魂と…、女神が対面している。


「橋口幸太郎さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ?!」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

橋口幸太郎(58)

レベル30


称号:転生者


保有スキル:吹いて来い、風!!


HP:25

MP:18

────────




「オイオイオイオイ…こういうの、しってっぞ?!ゆう君と一緒に見た異世界転生アニメだな?!チートでうまいメシ作るんだろ?!」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…桶屋の前に現れた!


「スライムだな?!こんなでけえの、かばんに入るわけねえじゃん!!かわいくねえな、もしかして敵さんなのか?」


うろたえる、桶屋。


「そうだ、保有スキルで何とかすんだよ、こういう時!《吹いて来い、風!!》って…ちょっと待て、俺はこんな所に飛ばされてなおネタ扱いされるのか?!何でだよ!!くっそー、腹立つな!!!めっちゃ…吹き飛ばしたらぁっ!!!食らいやがれ!桶屋トルネード!!!」


びゅぅうう、びゅー、びゅぉおおおおおおおお!!!


ものすごい風が吹いてきた!!

強い風にあおられて、目の前のスライムの体表の猛毒が飛び散る!!


草原にいたモンスターたちの目に毒が入って、盲目状態に陥った!

いきなり視覚を奪われたモンスターたちはパニクって暴れている!!

何とかしてこの騒ぎを収めようとローレライたちが鎮魂の歌を歌いはじめたが、誰もききゃあしねー!


「何これ、すげえことになってきたぞ…。このあと三味線屋とか出てくんのかな…、猫、いるの??ねずみは??もしかして俺、儲かったりする?」


桶屋のテンションがちょっと上がった、その時!

空高く巻き上げられていた猛毒がぼったぼったと落っこちてきて、桶屋に命中した。


「ぎゃああああああああ!!!」


猛毒が全身に回った桶屋は絶命した。


風がやんだあと、スライムは草原で暴れまくっているモンスターたちを捕食して場を収めたという。





「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


桶屋は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


桶屋はコンビニでお弁当用のピックとパンパンマングミを買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「ふー、もうちょっと早く通りかかってたら明日の孫たちの運動会が見られなくなってたかも…いやあ、怖い、怖い!」


桶屋は、店舗や工房を訪れる人が少なすぎることを心底嘆いていたのですが、孫が夏休みの宿題で小ぶりな桶を製作したことがきっかけでワークショップを開催することになったところ思いのほか好評をもらいイベントに呼ばれることが増え始め、積極的に技術を披露しているうちに100歳超えの伝統職人という肩書をもらって困惑したりもしましたが、ひ孫から手作りのぐい飲みを102歳の誕生日プレゼントでもらった翌日、穏やかにこの世を去ったそうです。


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