いらっしゃいませー!
瀬口明正は、ごく普通のコンビニ経営者である。
毎日定時に清算業務をして、毎日廃棄になった弁当を食べてカロリー過多を気にする、齢40のコンビニ経営者である。
今日も今日とて、なんでうちの店は二個ずつ買い物をする人が多いんだろうと疑問に思いながら、徒歩五分の場所にオープンした無人コンビニでカップ入りママヘラアイスと瓶詰のみたらし団子を買って自分の店に戻ろうとしていた―――のだが。
キキュイィイ!!キ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
瀬口明正の魂と…、女神が対面している。
「瀬口明正さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
瀬口明正(40)
レベル21
称号:転生者
保有スキル:いらっしゃいませー!
HP:38
MP:12
────────
「というわけで、いきなり草原?!こんなに急?!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…コンビニ経営者の前に現れた!
「スライム出たー?!武器も何もない、ちょいタンマ、ええと、ええとー!」
うろたえる、コンビニ経営者。
「はっ、保有スキルがある!《いらっしゃいませー!?》店もないのにっ!!!」
うばほん!
Aサークル南安芸浜店が出てきた!!!
スライムはワクワクしながら店内に侵入した!
「いらっしゃいませー!只今新発売の焼きベヒーモスまんが蒸しあがっておりまーす!いかがでしょうかー!」
店内に気持ちのいいご挨拶が響き渡る!
「ただいまおでんが美味しく仕上がっておりまーす!いかがでしょうかー!」
店内はおいしそうな出汁のにおいが充満している!
「ただいま夕方のおべんとう値引きをいたしました!大変お買い得となっております!おいしいものから売り切れますので、お早めにどうぞ―!!」
町のお弁当屋さんコーナーにモンスターたちが押し寄せる!!
スライムは半額シールのついたとろーりデスエッグ丼に手をのばしたが、人面魚に取られてしまった!
仕方がないので30%オフのロックバード唐揚げカップを取ろうとしたが、海坊主に取られてしまった!
ぐぬぬ!!
欲しいもの、買えないじゃん!!!
空腹でブチ切れたスライムは、値引き品に群がるモンスターどもをまる飲みした!
グフフ、これで好きなものを好きなだけ買える…
「お客さん困りますよ!!!もう出禁です!!今警察呼びましたからね?!」
マジで?!
ヤバいと思ったスライムは、店ごとすべてまる飲みした。
しばらくたって厳つい警察があらわれたが、スライムは知らぬ存ぜぬで突き通したという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
コンビニ経営者は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
コンビニ経営者は、無人コンビニでカップ入りママヘラアイスと瓶詰のみたらし団子を買って自分の店に戻った。
店の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「気のせいか…、何度も突っ込まれているような…やだなあ、縁起の悪い。くわばら、くわばら…」
コンビニ経営者は、ライバル店が乱立するたびに内心ヒヤヒヤし通しではあったものの、経営者が不安な顔を見せてはならぬと余裕のある笑顔を見せ続け、従業員や近隣住民の皆さんから絶大なる信頼を寄せられながら40周年を迎えることができましたが、店のある場所が新型鉄道の開通に伴う立ち退き区間のド真ん中だったため閉店を余儀なくされてしまい、65歳にしてコンビニバイトとして再スタートを切ることになり、長く勤めたものの78歳の時に外掃除をしていて気を失って、そのまま目を覚ますことなく天に召されたとのことです。