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ラッピング

石崎奈々は、ごく普通のお中元コーナー臨時バイトである。


毎日お客様のお品を包み、毎日美しい折り目を意識する、齢21のお中元コーナー臨時バイトである。


今日も今日とて、玩具コーナーの社員さんに折り畳み自転車をラッピングするという大仕事を任され無事終えたあと、行きつけのコンビニで折り紙と定規を買って家路についていた―――のだが。



キイーっ!!キキキ――――イイイイイイイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

石崎奈々の魂と…、女神が対面している。


「石崎奈々さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ…」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

石崎奈々(21)

レベル3


称号:転生者


保有スキル:ラッピング


HP:8

MP:11

────────




「というわけで、いきなり草原…すごいな、ラノベの主人公みたいじゃんw」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…お中元コーナー臨時バイトの前に現れた!


「スライム?!武器も何もないんですけどっ!透き通ってるからキレイっぽく感じるけど…なんかグロっ!!よく見ると…なんか消化し損ねてるカスが浮いてる、ウエー…」


ドン引きしている、お中元コーナー臨時バイト。


「そうだ、保有スキル使えるんじゃない?《ラッピング?》どう考えても、包めそうに…無い!!こんなん…ラッピングペーパーが足りないって!!」


うばほん!


見慣れたラッピングブースが出てきた!

セロハンテープもリボンもシールも包装紙もバッチリ補充済みだ!


じゅぅー…。


スライムの身体がみるみる縮小し、表面が乾いてサラサラになり、両掌(りょうてのひら)の上に乗るサイズになったぞ!


「このサイズなら楽勝よ!丸いものも尖った物もバッチリ包んでお客様の笑顔をいただきまくりのラッピングの申し子と呼ばれる私の実力、とくと見よ!!」


縮小したスライムを不織布で優しく包み、大きなラッピングペーパーの上にのせたお中元コーナー臨時バイトは、実に見事な手さばきで美しい折り目を付けていく!


スライムは水玉模様のラッピングペーパーに包まれて、お客様お渡し待ちの棚の上に置かれた。


「ふう…いい仕事ができてよかった…って、めっちゃモンスターが並んでる?!」


この世界には、なにかを紙で包むという文化がない。

印刷されたキレイな紙も、キラキラしたリボンもない。

ゆえに、誰もが初めて見る光景に興味津々かつ自分も何か包んでもらいたいと思う事は…必至!


「順番にお包み致しますので、一列に並んでお待ちください!!」


木の根っこに丸い石、古びたコインにキモい色の瓶入り薬剤、サビた手裏剣にクモの糸で編まれたスカーフ…お中元コーナー臨時バイトは手際良くお品を包んでお渡ししていく!


どすん!


ロックゴーレムが見事な裸婦彫像(重さ120キロ/高さ約二メートル)を持ち込んだ。


「ごめんなさい、これはちょっと…包めないです。持ち上げられないし、ペーパーが足りないですね。時間もかかっちゃうし、お並びの他のお客さまにもご迷惑が…」


はあ?!

包んでもらうためだけに、散々待たされ続けたんだけど?!


ロックゴーレムは、でっかいゲンコツを握ってお中元コーナー臨時バイトを叩き潰した。

怒りが抑え切れなくなったロックゴーレムは包んでもらえないくらいなら全部だめにしてやろうと考え、仲間を呼んですべてをめちゃめちゃにした!!


大人しく待っていたモンスターたちは怒り心頭でロックゴーレムを成敗した。


大人しくラッピングペーパーに包まれていたスライムは、大乱闘のあおりを受けて棚から落とされた。

踏み潰されせっかくの折り目をぐちゃぐちゃにされたスライムは激怒し、あたりにいるモンスターをラッピングコーナーごとまる飲みした。


草原には、やけに派手な色の浮遊物が目立つ透明なぶよぶよが闊歩するようになったらしい。




「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


お中元コーナー臨時バイトは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


お中元コーナー臨時バイトはコンビニで折り紙と定規を買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「ウエー、もうちょっと早く通りかかってたらぐしゃぐしゃに巻き込まれてたかも…」


お中元コーナー臨時バイトは、小学校二年生の時にお友達の誕生日プレゼントを包んで以来ずっとラッピングの魅力に夢中なまま年を重ね、時に一般的、時に個性的、時にゴージャスに、時にシンプルに品物の価値を底上げすることに尽力し、多くの人に「これ開けちゃっていいの?!もったいなさすぎる!」と悲鳴をあげさせつつもそれを大きく上回る感嘆の声を浴び続け、令和の大ラッピングブームの火付け役となれたことを誇りながら88歳の生涯を終えたという事です。


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