走行距離200万キロkm越え
須野原啓介は、ごく普通の大型トラック運転手である。
毎日サービスエリアに寄って、毎日すれ違う大型トラックに挨拶をする、齢58のトラック運転手である。
今日も今日とて、キツイ荷下ろしを終え博多通り人(銘菓)を三箱ももらってホクホクしたあと、人気のサービスエリア内にあるコンビニで濃すぎる緑茶と30%増量中ブラックコーヒーを買って家路につこうとしていた―――のだが。
キキーイィイ!!キキキキキ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
須野原啓介の魂と…、女神が対面している。
「須野原啓介さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
須野原啓介(58)
レベル24
称号:転生者
保有スキル:走行距離200万キロkm越え
HP:82
MP:2
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「というわけで、いきなり草原?!やっべ!!」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…大型トラック運転手の前に現れた!
「スライム?!ッ、かー!!」
うろたえる、大型トラック運転手。
「う、保有スキルかっ?!《走行距離200万キロkm越え?》確かにそれぐらいは走ってきたが、それがどうしたって…」
うばほん!!
大型トラック運転手がいつも乗っている2021年式のボルバが出てきた!!
スライムはでっかいトラックを見てテンションが上がっている!!
小さい頃にトラックのミニカーを集めまくっていたという歴史があるらしいぞ!
「なんだ、乗ってみるか!!」
スライムは大喜びで荷台に乗り込んだ!!
うわー、広ーい!
通常サイズで乗っても余裕ありまくりだ~♪
スライムが大はしゃぎしていると、なんだか外が騒がしい…って!!
突如現れたトラックに興味津々の盗賊団があたりを占拠しているぞ?!
大型トラック運転手は盗賊団のボスを相手に交渉を始めた。
若い頃に無茶な営業をしてヤンチャな業者と命がけで交渉をした経験が活きている模様!
商談がうまくまとまりかけた時、どこからともなく毒矢が飛んできて大型トラック運転手に命中し、やがて息絶えた。
考えなしの幹部が勝手に暴走したせいでこの世界で2000万の大型トラックを運転できる唯一の人間がいなくなってしまい、盗賊団のボスとスライムは激昂した。
部下に制裁を加えているボスごと盗賊団をまる飲みしたスライムは、2021年式のボルバを別荘にして長く愛用し続けたという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
大型トラック運転手は時間を巻き戻されて、サービスエリア内のコンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
大型トラック運転手はコンビニで濃すぎる緑茶と30%増量中ブラックコーヒーを買って家路についた。
サービスエリアの出口近くで、車の暴走事故が発生していた。
「派手につぶれて…逆走でもしたのかね?」
大型トラック運転手は、少々あらぶった言動から小競り合いを起こすこともありましたが無事故無違反で63歳まで仕事を続け、愛トラックを売り払ったのち軽自動車に乗り換え配達や送迎のバイトをしながらのんびり暮らしていたものの、足を悪くした嫁の代わりに町内会の役員業務を代行したことがきっかけとなって忙しい日々を送るようになり、82歳でこの世を去るまでいろんな会合に顔を出しては常識のない連中に凄みを利かせて黙らせていたとのことです。