ちょーし悪い…
吉村羽衣は、ごく普通の頭痛持ちである。
毎日ぼんやりして、毎日こんなに頭痛薬のみ続けるのヤバくね…?と気にする、齢34の頭痛持ちである。
今日も今日とて、良い頭痛専門病院はないかとスマホで三時間検索したあと、行きつけのコンビニでエナジードリンクお徳用サイズと数独ムックを買って家路についていた―――のだが。
キキキキキ!!キ――――!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
吉村羽衣の魂と…、女神が対面している。
「吉村羽衣さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「…はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
吉村羽衣(34)
レベル5
称号:転生者
保有スキル:ちょーし悪い…
HP:1
MP:8
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「いきなり草原…、眩し…、くらくらする…う、頭痛が…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…頭痛持ちの前に現れた!
「スライム…、うう、とても…立ち向かえる気力が…」
こうべを垂れる、頭痛持ち。
「あ…、保有スキル…《ちょーし悪い…》うん…、確かにまあ、そうだけど…」
ずず、ずぅうううううん!
スライムはなんだかとっても全身がぎゅむッとした。
どうやら、スライムに頭はないので全身にスキルがきいている模様。
信じられないくらい食欲が失せて、なんか…何も考えられなくなってきた…。
「わかるかなあ…この重苦しさ、ジワジワ痛い感じ…。スッキリしないのに薬を飲んで治った気になって、ちょっと良くなった状態ですら…ありがたく感じるくらい、一日中キツイんだ…。でも…がんばんないと、暮らしていけないから…」
え、こんなに不愉快極まりない状態なのに、一日中がんばってるの?
なんかめっちゃかわいそう…。
気の毒に思ったスライムは、苦しみから解放してあげるために頭痛もちを一口で捕食した。
食後、スライムは元気を取り戻した。
食欲が回復してテンションが上がったので、いつも以上に草原にポッと現れる転生者をパックパックと景気よく食べた模様。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
頭痛もちは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
頭痛もちはコンビニでエナジードリンクお徳用サイズと数独ムックを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「…ふー、大変、大変……」
頭痛もちは、意を決して頭痛専門医のいるクリニックのドアを叩いたところ頭痛になりたくてたまらないような生活を送っていると揶揄されてイラついたりもしましたが、とりあえず先生のいう事を真に受けてやるかと考えラジオ体操と散歩をはじめ、エナジードリンク断ちをしてハーブティーを飲むよう心がけ、毎月欠かさず買っていたパズル雑誌に手をのばすことをやめ、チョコレートを毎食後とおやつに食べる習慣をなくしたあたりから頭が軽くなり始めて、チーズをかじりながら赤ワインを飲まなくても眠れるようになったことを喜びながら仕事や社交に精を出すようになり、多くの人に頭痛の解消法をアドバイスしながら溌剌とした毎日を過ごしたのち、久しぶりに頭痛を感じた夜が明けず70歳でこの世を去ったそうです。