これよかったら食べて!!!
葉山昌宏は、ごく普通の居酒屋のおやっさんである。
毎日客のおごりで麦焼酎を飲み、毎日コレ俺のおごりね!と言って賞味期限逼迫食材を無駄にしないよう尽力する、齢51の居酒屋のおやっさんである。
今日も今日とて、秋の食欲大爆発バルに出店するメニュー決めで料理長と少々もめたあと、行きつけのコンビニで軟骨入りつくね串と五ツ矢サイダーを買って家路についていた―――のだが。
キギ───!!キキキ――――イイイイイイイ!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
葉山昌宏の魂と…、女神が対面している。
「葉山昌宏さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
────────
葉山昌宏(51)
レベル7
称号:転生者
保有スキル:これよかったら食べて!!!
HP:23
MP:33
────────
「というわけで、いきなり草原に放り出すとは…なんもねえな…マジか…」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…居酒屋のおやっさんの前に現れた!
「スライム?!これまた食品管理協会がガチおこするようなモンスターが出てきたな…」
ややうろたえる、居酒屋のおやっさん。
「まずは保有スキルを有効活用しよう…《これよかったら食べて!!!》…何を??」
うばほん!
市内では誰もが知る老舗の日本料理居酒屋のカウンターが出てきたぞ!!
自慢の100人収容できる宴会場は出てきていない模様!!
「これね、おふくろが漬けたやつなんだけど良かったら!」
スライムは差し出された松前漬けを食べた!
…濃い目のしょうゆ味が天然水によく合う!
これ、ウマー!
「ポテトサラダ好き?じゃがいもが余っちゃってさ、良かったら食べてよ!」
スライムは差し出されたポテトサラダを食べた!
…粗くつぶしたじゃがいもがホクホクしててうまい!
粒マスタードのアクセントが秀逸、ほんのり甘いのは…ハチミツ入りだ!
ベヒーモスの濃厚ミルクによく合う!
「あとさあ、良かったらこれも…そうそうこういうのがあるんだけど…」
スライムは差し出されたおつまみを食べ続けて満腹になった!
ここは良い店だ、ヨシ毎日通おう!
サルカミ(キラーモンキーの秘蔵酒)をボトルキープしてもらおうと思ったその時、おつまみが出てくるのを待ちきれなかった冬眠明けのヤバくま(グリズリーエンペラーの亜種)が居酒屋のおやっさんにかじりついた!!
ちょ…なんてことする?!
一時の腹満たしで…永遠の満腹を失うとか、マジありえナス!!!!!!!!!!!!
怒り心頭のスライムは、満腹状態ではあったが無理やり食べかけになっている居酒屋のおやっさんとクソ憎たらしいくまを捕食した。
スライムは三時間後にひどく腹をこわしたが、その原因が食べすぎだったのか出されたものが痛んでいたのかは定かではなかったという。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
居酒屋のおやっさんは時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口で立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
居酒屋のおやっさんはコンビニで軟骨入りつくね串と五ツ矢サイダーを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「勘弁してくれよ、うちの店の駐車場に入れなくなってるじゃん!!今日の売り上げ!!」
居酒屋のおやっさんは、たまに突飛なアイデアを引っ提げて近隣にオープンした軽食店の人気っぷりにヒヤヒヤする事もありましたが、来店する人々に「こんなにタダで食わせまくってて大丈夫なの?!」と心配されつつ老舗飲食店の看板を張り続け、ひ孫が「ぼく、おりょうりするひとになるの!」という五代目宣言をしたのを聞いてそっとはにかんだ三日後に101歳の生涯を終えたそうです。