アビラウンケンソワカ
佐藤博は、ごく普通のえせ呪い師である。
毎日物騒な事を口にし、毎日あらゆる徳がボロンボロンとはがれ落ちていく、齢43のえせ呪い師である。
今日も今日とて、SNSや動画投稿サイトで不安を煽るような文言をひけらかして続々と反応が返って来るのを確認しニヤリとしたあと、行きつけのコンビニでホワイトニング歯磨きと超強力口臭撃退ミントを買って家路についていた―――のだが。
キギイィイ!!キキ――――!!!
ドガ――――――――――――ん!!
ぐわしゃぁああ!!
ぶちゅ。
真っ白な空間。
えせ呪い師の魂と…、女神が対面している。
「佐藤博さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」
「はあ」
「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」
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佐藤博(43)
レベル6
称号:転生者
保有スキル:アビラウンケンソワカ
HP:3
MP:0
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「というわけで、いきなり草原に放り出されるとはね」
べよん、べよん。
水色の、ぶよぶよした丸い塊が…えせ呪い師の前に現れた!
「スライム?!こっちは武器も何もないのに、なに堂々と出てきやがんだよ?!」
うろたえる、えせ呪い師。
「クッソ…死んでたまっかよ、保有スキル…《アビラウンケンソワカ》って、まじない?!」
スライムは様子を見ている。
「こんなバケモンに脅しなんざ効かねえだろうし…たかだか言葉なんかに何の威力もねえじゃん?!出て来いよファイヤーボール!何でも切れる次元ソード!!くっそー使えねー、マジ詰んだわ!!こんなんいっそパクッといってもらった方が楽だ!そもそも
ぱくっ!
スライムはえせ呪い師を一口で捕食した。
スライムがモグモグしている時に、頭上がほんのり明るくなって…何かが降りてきたような気配があったのだが、気にせず消化活動に集中していたらいつの間にかいなくなっていたらしい。
「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」
えせ呪い師は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。
コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。
えせ呪い師はコンビニでホワイトニング歯磨きと超強力口臭撃退ミントを買って家路についた。
家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。
「あーあ、高そうな車なのにああはなりたくないもんだ。……ぺっちゃんこで紙みたいだな、よし、今日は折り紙を使ったネタで開運動画10本作ろ」
えせ呪い師は、自身の発信が炎上するたびに収入が増えるので喜んで根も葉もないでっち上げに精を出していましたが、ある時キモい一般人に粘着されて身バレし、熱狂的信者に凸されて田舎に引きこもらざるを得なくなり、貯め込んだ金を切り崩しながら質素な生活を送ったのち、床下に白アリがいますからあと半年で崩れますという訪問業者の言葉をまるっと信じて貯金をはたき家の建て替えをする事を決め、着工した翌日に住み慣れないマンスリーマンションの階段で足を踏み外して意識を失い、目を覚ますことなく64歳でこの世を去ったそうです。