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高速タップ

小坂始は、ごく普通のデジタル漫画家である。


毎日縦スクロールのフルカラー漫画を描き、毎日原作者のSNSアカウントにいいねする、齢27のデジタル漫画家である。


今日も今日とて、新しいタッチで描き始めた連載漫画に低評価が増えているのを見てへこんだあと、行きつけのコンビニでメンズ情報雑誌とキャラクターポーチ付きのムックを買って家路についていた―――のだが。



キー!!キキ――――イイイイイイイ!!!


ドガ――――――――――――ん!!


ぐわしゃぁああ!!


ぶちゅ。




真っ白な空間。

小坂始の魂と…、女神が対面している。


「小坂始さん、あなたは気の毒ですが人生を終えてしまいました。転生してもらいます」

「はあ」


「あなたにはチートをお一つ差し上げます。ステータスをご確認ください」


────────

小坂始(28)

レベル4


称号:転生者


保有スキル:高速タップ


HP:3

MP:44

────────




「というわけで、いきなり草原て…ありがちだな」


べよん、べよん。


水色の、ぶよぶよした丸い塊が…デジタル漫画家の前に現れた!


「スライムだ…わりと実物はシャビシャビなんだな」


うろたえない、デジタル漫画家。


「保有スキルを確認しておこう…《高速タップ》って、これ読むほうのスキルなんじゃ?たしかに…電車の中でタテスク読んでる人、たまにものすごい勢いで画面タップしてるけど」


うばほん!


デジタル漫画家の描いたタテスク漫画があらわれた!

大草原のど真ん中で、どでかいタブレットがプカプカ浮いているぞ!


「これは…めっちゃつなぎがわざとらしかったやつだな。ボチボチいい話なのに魔法のシーンでコマ数稼いだせいで中身がスカスカ漫画とか言われてさ。キャラ絵よりも効果音とエフェクトの方がページ数多いとかマジないわ、そもそも短編公開した原作を長編編成する愚かさに運営側は気付いてないのかね。こっちは魂込めたワンシーンを魅せたいのにさ、あっちはとにかくページ数を見せたいってのがまるわかりで…」


デジタル漫画家は、画面をタップしているうちに怒りが増してきてとんでもないスピードで漫画をスクロールし始めた。


ちょっと!!

勝手に進めないでよ!!

今見てるのにー!!!


タテスクを見ていたスライムは、目がついて行かなくなって激昂し、デジタル漫画家をまる飲みした。


触手でタブレットをタップし、先頭ページまで戻ってタテスクを読み始めたスライムだったが、体表の猛毒で画面が溶け始めて一番いいところで先に進めなくなってしまい、長くモヤモヤとした感情を抱えることになったという。




「う、うーん???なんか夢でも見ていたような??」


デジタル漫画家は時間を巻き戻されて、コンビニの入り口に立っていた。

コンビニの入り口のところで立ち止まる前に、ちょっとだけ時空がゆがんだのだが…、それに気づく様子はない。


デジタル漫画家はコンビニでメンズ情報雑誌とキャラクターポーチ付きのムックを買って家路についた。


家の近くの交差点で、車の暴走事故が発生していた。


「もうちょっと早く通りかかってたら、先月納品したタテスクのチェックができなくなるところだったかも…」


デジタル漫画家は、異世界漫画ブームの恩恵を受け安定した収入を得ていたものの、大掃除をした時に古い手描きの漫画原稿を発見して消火寸前だった情熱の炎が燃え上がり、処分していたアナログな執筆用品を買いそろえて執筆に打ち込み新作を発表しはじめ、一大ブームを巻き起こしたのち老化でペンが握れなくなるまで作品を多数生み出して100歳越えのアナログ漫画家の名を誇りながら永い眠りについたとのことです。

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